崩壊の日常
「雅楽ー!日差しが強いから水分補給をしっかりするのよー!」
「大丈夫だよ母さん。言われなくてもちゃんとするって。」
早いもので、この集落に来て7年。雅楽も7才という年となった。雅楽は美しい金髪を揺らし、太陽の光が当たる事によって、碧みを帯びた黒い目で母を見つめた。そんな2人は集落の女性達と共に川へ洗濯をしに来ていた。
「あら?雅楽君。項の辺りがだいぶ赤くなっているわよ?」
「え?」
次の瞬間だった。雅楽の身体はとてつもない熱を帯び始め、立っていられなくなり、川へとしゃがみ込んだ。息が、呼吸が整わない。
「オメガ様!この強い香りは...?!まさか、雅楽、お前もオメガなのか?!」
「お...めが...?」
「これは...至急儀式を!大和...いいな?お前が雅楽の、オメガ様の番となるのだ...!」
「ま、待って下さい!儀式ってなんですか?!雅楽に一体何をすると言うのです?!」
母が取り乱しながら長に詰め寄ると長は何も答えない。そうこうしているうちに雅楽は川から長の息子である大和に抱きかかえられ、集落の中心へと戻って行った。そして普段母と雅楽が暮らしている屋敷の奥の更に奥の方。暗がりで蝋燭だけが周囲を照らしている部屋へと入って行った。そしてそこには神棚があり、その下には真っさらなシーツがかけられたベッドが置かれていた。大和が雅楽の身体をベッドに寝かせると、項が露になる様に着物を脱がしていく。そして自らも着物を脱ぐと大和は雅楽の身体を抱きしめた。
「悪く思うなよ、雅楽。これも集落の為、"オメガ様の役割"なのだから。」
大和はそう言うと意識が朦朧としている雅楽の項に思い切り噛み付いた。
「いったぁ...なに...!!」
「これが番のオメガの匂い...!!たまらねぇな!」
大和が雅楽に襲いかかろうとしたその時、襖が"パーンッ"と開かれた。そこに居たのは血濡れの母の姿だった。
「雅楽を離しなさい。」
「おや、"元"オメガ様じゃないですか。貴方は仮初のオメガ様なんですよ。こうして、この集落の長の息子であるオレが儀式で雅楽の項を噛む事で正真正銘、この集落の正式なオメガ様が誕生するのです...!!」
「雅楽を今すぐ離して!返して!!」
母はそう大和に詰め寄ると血濡れのナイフを振り翳した。その血濡れのナイフを見て大和は「ヒッ」と小さく悲鳴を上げた。
「命までは取って無いわ。貴方が素直に雅楽を受け渡したら、貴方も生かしてあげる。」
「わ、分かった!雅楽は返す!!だから命だけはどうか...!!」
大和の命乞いを聞くと、母は雅楽に着物を着せ背負いながら小走りで集落を脱出した。
どれ程の日が経っただろうか。今はまだ朝方で、朝日が昇ろうとしている時だった。雅楽を背負った母は目の前に見える派手な赤い門に雅楽を寄りかからせ、一息ついた。もう何日もまともに食べていない。これから何処へ行こうか。そう考え始めた時、門が開き煙管をふかした男が一人出てきた。男は二人の姿を見ると目を丸くして、「お困りかい?」と声をかけてきた。
「実は行く所がなくて...。ここは一体?」
「ここは花街遊郭さ。...もしや、お前さんらオメガか?」
「は、はい...そうですが...。」
「んー...そうさなぁ。」
「?」
「もしお前さんの息子を奉公人として雇わせてくれるってんならウチに来な。」
「え?」
「そーさなぁ...。お前さんも美人だが今から遊女は難しいだろう。そこで、だ。オレの嫁さんにならねぇか?独り身だと何かと周りが五月蝿くてねぇ。それに嫁さんになってくれるなら息子とも一緒にいさせてやるし、衣食住は保証する。」
「さて、どうする?」
この男は怪しい。しかし、その言葉に裏表が無く本心から言っているのだと言う事が伝わる。
「分かりました。よろしくお願いします。...えっと。」
「おっと、名乗ってなかったな。オレァこの花街一の遊郭"金糸雀"の楼主、神宮寺 和武だ。」
「初めまして。古都と申します。こっちは息子の雅楽です。」




