子供の心
お花は困惑していた。あんなにもお互いを宝物の様に接していた二人が何処かぎこちない雰囲気を醸し出していたからだ。一体何があったのだろうか。
「それじゃあ、また来週。絶対来るからな。」
「...お待ちしております。」
そんな短いやり取りで千善と雅楽は別れた。あまりにもぎこちない雅楽の様子に疑問を持ったお花は見送りついでに千善に尋ねることにした。
「皇様、雅楽様と...何かありましたか?」
「...何故だ?」
「お二人の様子が前とは違うからです。あんなに愛し合っておられていたと言うのに、雅楽様はなんだか元気のないご様子でしたし...。分かれ際もただのお客様と遊女の様で...、いつもなら子供の様に次の約束をしあっていたと言うのに...。何かあったんですか?」
この子供は大人以上に聡いな。そう感じた千善は隠せなどしないだろう。と思い、愚痴を言うようにお花に話した。
「今日、初めて雅楽を抱いた。」
「!」
「雅楽が懇願してきたからな。だが、あまりにも手馴れていたから...思わず他の男どもに嫉妬して心にもない事を言ってしまった。なぁ、お花。雅楽に日向の世界を見せてやりたいというのはオレの我儘だろうか...。」
お花にとって驚く事ばかりであった。そして、こんな事を思うのは間違いだと言われてしまうかもしれないが...嬉しかった。こんなにも雅楽の事を思ってくれるなんて。今までの客は只々欲をぶつけるだけるだけで所詮、遊女。商品としてしか扱ってくれない。そこに心などない。それなのに、この男は違うのだ。雅楽の事を一人の人間として扱ってくれる。
「さっきの雅楽様のおかしな様子に合点がいきました。皇様。雅楽様の心は小さな子供のままで止まっているのです。だから許してあげてください。それに...私も雅楽様には日向の世界を生きてほしいと思っています。どうせ外の世界に出られるとするなら、皇様。私は貴方様と一緒でなければ許せません。どうか、どうか早く雅楽様をこの籠から飛び立たせてあげてください。...でも、雅楽様を泣かせる事は絶対に許しませんからね。」
「ハハ、これは手厳しいな。...大丈夫。絶対に幸せに幸せにしてみせる。だからお花。お前も手を貸してはくれないか?」
「雅楽様が幸せになるのでしたら是非に。あぁ、そうだ。ちょうど次の金曜は雅楽様の誕生日なんですよ。絶好の仲直りの機会ではありませんか?」
誕生日か...それは良い事聞いた。それなら何か贈り物をしたいな。
「お花。雅楽の好きな色は分かるか?」
「雅楽様の好きな色...。そうだ。知ってます?雅楽様の瞳は光によって碧く輝くんですよ。」
「碧か...では碧い物を探してみるか...。」
「雅楽様も皇様に祝ってもらえるなんて思ってもみていないでしょうから。きっとお喜びになりますよ。」
これは絶対に成功させなければならないな。それに、次逢う時は謝ろう。許してくれるかは分からない。だがあの美しい顔を悲しみで歪ませたくはない。どうせなら華の様な笑顔を見せてほしい。それが今の自分の役目だ。この金曜は勝負の日だ。そう心の火を燃やす千善であった。




