手折られた華
大和が牢から出て行ってどれくらいの時間が経っただろうか。外からは階段を駆け足で降りてくる音がする。...きっとお花であろう。あの子は優しいから、こんな姿を見せたら泣いてしまうかもしれない。笑わなければ。どんなに苦しかろうと。
「雅楽様!堕胎薬をお持ちしました!あとお身体を清めましょう!」
「...あぁ。ありがとう、お花。お前が来てくれて心が落ち着いたよ。」
「...雅楽様。私の前では泣けませんか?私は頼りないですか...?」
「え?」
お花に目をやると、彼女は大きな瞳いっぱいに涙を溜めて雅楽を見つめていた。
「そんなわけない。いつでもお花を頼りにしているよ?ただ...お花は優しすぎるから。僕なんかのために涙して心を裂いてくれる程に。」
「雅楽様...」
「むしろ謝らなければいけない。...こんなに穢れた身体を見せてしまって。...千善様も幻滅するだろうね。」
雅楽は思わずポロリと弱音を吐いてしまう。そうして堕胎薬を口にする。そんな様子を見てお花は心を痛める。
「雅楽様。約束していたではありませんか。心はあのお方に捧げているんです。だから...だからどうか自分を大切に思ってあげてください。それが私の願いです。」
「私はいつでも貴方様の味方です。」とお花は涙をポロポロと零しながら懇願してきた。雅楽はただただ静かにお花を見つめる。なんて優しい子なのだろうか。こんなにもけがれ、男に組み敷かれるしか生きていけない自分の事を想い涙するなんて。優しいのは千善も同じだ。こんな事を知れば彼の事だ。きっと強く抱きしめながら心を痛めるに決まっている。それでも、穢れているとしても、あの腕に抱かれ夢の世界へと逃げ込みたい。欲を言えば、この狭い牢から外の世界へと連れ出して欲しい。あぁ...こんなにも心が弱ってしまった。もう疲れた。
「ありがとう、お花。今は身体を清めたい。お願いしてもいいかい?」
雅楽は笑顔の仮面を貼り付けながら、お花に世話をお願いする。
「雅楽様...?」
「ん?なんだい?あぁ、まずは中に出されたものを掻き出さなければいけないね。目を瞑っていてくれるかい?」
雅楽は決してこの行為をお花には見せない。中から出てくる白濁としたものを見ると、心のどこかでパキリと音が鳴ったような気がした。今に始まった事では無いというのに、どうしてこうも悲しくなってしまうのだろうか。早く逢いたいと願っていたと言うのに、今は穢れた自分を見られたくないと強く想うようになった。手折られた心はどんどんと枯れていくのだった。




