訓練そして初任務へ
宇海が元素研究部に入って一ヶ月後。正確な太刀筋や繊細な力強さ、素早さが戦闘の基盤としてしっかりと身に付いた。
そして、攻撃する案山子を相手することになった。遂に宇海は理豆夢と同じ土俵に立つことになる。緊張する宇海に蒼唯が話しかける。
「宇海。レベルアップおめでとう。いよいよ実戦レベルの案山子相手に訓練を始めるんだね。
実は君に伝えておかなくちゃならないことがあるんだ」
突然のことに宇海は驚く。そして慌てながら、心の準備をする。そこには淡い期待と莫大な不安が混じっていた。
蒼唯は口を開く。
「君のその剣の鏡についてだ」
戦闘のことと分かると少し気が抜けたと同時に残念そうな宇海。
ただ蒼唯の言う通り、宇海の剣には少し特殊な能力があった。
反射
宇海の最大の強み。または唯一無二の個性とも言える。しかし、宇海自身はその個性をほぼ感覚で使っていた。鏡になっている刃の部分を相手へ向けると攻撃がランダムに反射すること以外よく分かっていなかった。
蒼唯は続けてゆっくりと話す。
「宇海のその剣は恐らく四大元素を反射している。ただ四大元素の正体はまだ明らかになっていない。ただ一番有力な説である不安定な素粒子のエネルギーと仮定すると、その鏡はその素粒子のみを跳ね返せるんだ。
だから質量を伴うような攻撃は跳ね返せない。
つまり、宇海は元素力が強い相手がいてこそ真の力を発揮すると思うんだ」
突然の難しい話に宇海は唖然としている。その様子を見た蒼唯は捕捉する。
「宇海の反射は元素力を使った攻撃しか跳ね返せないってことだよ。元素力の強い敵と戦うとき君はより強くなる。
でも物理的な攻撃に強い相手には気を付けてね。
君、勘で使ってそうだったから、知ってた方が言いかと思って……」
蒼唯が宇海にそれを伝えたのは研究者としての立場からだった。それは宇海も重々分かってている。
それでも宇海にはそれが優しさに見えて嬉しかったのだろう。笑顔でお礼を告げた。
いよいよ訓練。攻撃してくる案山子は、死なない程度に手加減されているが、強さは本物の魔物とほぼ変わりない。
宇海はゴブリンやトロールなどの雑魚魔物程度なら瞬殺できる。しかしそういった魔物としか対峙していないため人魚やパピーなどの珍しく強い魔物とは戦ったことがない。
そして今、初めて人魚の案山子と模擬戦闘を行う。
「早速だけど、魔物の中で一番強い人魚を模した案山子を相手に戦ってもらうわ。宇海は強いからね。期待してるわ。」
そう話すのは副部長の亀永舞桜。紫色のさらさらミディアムボブ。髪飾りには黒猫を着けている。ふわふわで濃い紫色の帯にはニつの扇子を差している。
その横には宇海と同学年の坂道瑠璃。藍色の髪色で、七三分けの前髪に後ろに一つに結んだ三つ編み。三つ編みの結び終わりの所には舞桜と同じ黒猫の髪飾り。また、綺麗な黒色をした鞘が目立つ。彼女は日本刀が武器のようだ。
「とりあえず最初だから少し弱めに設定しておくわ。
じゃあ始めるよ」
舞桜はそう言い、スイッチを押す。
宇海は剣を抜き身構える。案山子が動くより先に攻撃に出る。人魚の弱点は目が見えないこと。急所は心臓だ。
心臓の場所に剣を突き刺した。つもりだった。
ゆらりと姿が揺れる。
(残像…!速い。)
しかし焦らずに、冷静に人魚を探す。
(後ろだ。攻撃が来る!)
即座に後ろに向けて刃の鏡部分をを映す。
同時に案山子は嘴から元素力を放つ。
その攻撃は案山子自身に跳ね返った。案山子に隙ができる。
刹那、宇海は案山子の心臓を貫く。
案山子は動かなくなった。
「流石ね。お見事。」
舞桜は拍手をしながら言う。
「宇海ちゃん凄いね!最初と比べて焦りも無駄もなかったよ」
瑠璃もにこにこしながら褒めている。
「か、勝った……」
一気に緊張が和らぐ。
(強くなってる!)
日々の訓練の成果が出て嬉しい宇海。
そんな彼女を一部始終を見守っていた2人がいる。蒼唯と恵だ。
「蒼唯君も見てたんだ」
「そりゃあ、俺が勧誘したんですよ。成長は見とかないと」
「ねぇ、蒼唯君は何が目的なの?
宇海ちゃんからの好意に気づいてるよね?
あの子を誑かさないでよ」
「恵先輩こそ、俺と同じで悠先輩を誑かしてるくせに」
「…!あれはあっちが勝手に……」
「とにかく俺の邪魔しないでくださいね」
ぴりぴりとした空気が2人の間に流れた。
それから数週間。宇海が攻撃してくる案山子にも慣れてきた頃、宇海、恵、舞桜、瑠璃の四人を顧問は呼び出した。
顧問は真剣な声色で伝える。
「最近、夜に学園近くの廃墟で多数の行方不明者が出ている。さらに近くには血痕も残されている。
恐らく状況からしてかなり危険な任務になる。もし引き受けるな気を付けてくれ」
宇海以外の三人は数回任務をこなしていた。だから、いつものように危険を承知で引き受ける。
しかし宇海にとってそれは初任務だった。強くなりたい気持ちに変わりはない。それでも手は震えていた。
「何かあってもお姉さんが守るよ」
恵は宇海の震える手を止め、柔らかく微笑む。
少し安堵した宇海は覚悟を決める。
「任務引き受けます!」




