恵の過去
笑うのが好きだった。楽しいものが好きだった。人が悲しむのと自分も悲しかった。
中学生まではただ笑って過ごすだけでよかったから、とても楽しかった。
友達も大好きだった。感情も豊かで左右はされやすかったけど、それでも幸せだった。
心から笑えてるとき、演技なしに笑えてるとき、なにかに夢中になって楽しめてたあの時期が愛おしい。
いつだっただろう、変わったのは中学一年生の2学期。クラスで虐めが起きた。
虐めは嫌いで、心が苦しくなる。お節介かもと思いながら、いじめられてる子を庇った。
その良心が原因で余計にいじめは酷くなった。私に飛び火はなかった。ただ、
「恵ちゃん優し~!でもさ世の中ってピエロいないとつまんないよ?恵ちゃんは可愛いし愛想いからさ別に見逃すよ?だけどさ現実みようよ。」
いじめの主犯はそう言った。
現実…。楽しいだけじゃダメなんだ。愛想がないと築けない人間関係。見えない進路。悪い成績。ありのままだと、このままだと……
気づけば現実に囚われていた。笑顔も演技になってしまった。自慢ではないけど、容姿は整ってる方で告白されることも多かった。
でも演技の私だけを好きな男達には吐き気がした。それでも人を嫌いにはなれなかったし、心配させたくなかったからずっと明るく笑顔で振る舞ってる。
現実も小さな幸せは確かにあるから、嫌いになれない。所謂「勇気のない優しさ」が募るばかりだった。
宇海が現れるその日まで。感情豊で、現実を知らない無垢な少女。過去の愛おしい日々と宇海を重ねてしまった。
貴女には現実を見てほしくない。私が目を塞いでてあげるから、どうか無垢な少女でいてね。




