まだ遠い景色
宇海は辺りを見渡す。
魔物の案山子がたくさんランダムに並んでいる。
赤い炎、飛沫をあげる水、風を切り裂く音、大地の揺れを感じる。目の前の光景に息を呑む宇海。
案山子は動く物と動かない物そして攻撃してくるものがある。
見たところ動かない案山子を相手にしているのは一年生が多い。まだ入部して一ヶ月程度だからだろう。
動く案山子を相手にしている部員は二年生も一年生も混じっている。その中でも一際目立つ五人がいた。ニ人組を組んで訓練しているニ人と、単独で訓練している三人がいる。
単独の中の一人は同じクラス、そして蒼唯と仲良いため宇海は知っていた。
名前は戸綿涼。手には拳銃を握っている。彼の目立つ点は命中力にある。魔物には急所が存在してる。そこを全て的確に撃ち抜いていた。50メートルくらい離れている場所からそこを狙えるのは異次元だった。
しかし、他の三人は廊下で見かけたことしかない。なんなら一人は見たことすらなかった。
宇海は恵にその三人の名前を尋ねた。
「あー!あの三人?動きいいもんね!えーと確かね…
あの三つ編みで鎌持ってる女の子は徳永印愛ちゃん。でかいよねあの鎌。なのに動きは素早いから凄いよね。」
印愛は土属性だろう。恵が言う通り素早い。まだまだ狙いは定まってないが、土属性独特の迫力に風のような素早さ。まるで死神のようだった。
「そしてあそこの2人組、女の子の方は天川御樹ちゃんで、男の子の方は弓鷹龍之介君。2人とも息ぴったりだよね!幼馴染みらしいよ。仲良いんだろうね。」
御樹は薙刀、龍之介は大剣をもっている。薙刀は火を吹き弧を描く。扱いづらいはずの薙刀を持ち華麗に舞っている彼女は美しかった。対して大剣は力強く振りかざされる。とても重そうな大剣を身軽に扱う龍之介。さらにドスン!と大きな音。落下攻撃もお手の物だった。さらに驚くべき所はその連携。まるで一心同体。御樹は龍之介を心から信頼しているようだが、龍之介からの御樹の視線はもっと熱っぽいなにか複雑な片想いに宇海からは見えた。宇海の勘は正しかった。しかし、宇海は気にしすぎか、と恵に最後の一人の名前を聞いた。
「えーとね、井中慶助先輩。慶助先輩は少し特殊で…。さっき紹介した四人は宇海ちゃんと同じ一年生なんだ。他の人たちも一年生か二年生。もう三年生の先輩方は受験のために引退してるんだけど、あの人は本当なら三年生で今は二年生。つまり留年してるんだよね。」
確かにボサボサの金髪に眠そうな瞳をしている。授業中寝ているところが容易に想像できる。しかし動きは本物だった。黒い手袋をはめた拳からは火が吹く。そして力強く素早い動きで案山子を殴っている。殴ると言う単純な攻撃。しかしだからこそ難しいはずなのに、しっかり急所が潰れてる。しかも、左手でしっかり体のガードも欠かしていなかった。
なかなか強者揃いの中、恵が切なそうな表情で告げる。
「私もまだあの動く案山子相手だよ。宇海ちゃんは強いからとりあえず私と同じ動く案山子相手に基礎を徹底するよ。ただ多分すぐにあっちの攻撃する案山子が相手になるんじゃないかな」
宇海は攻撃する案山子の方に目をやる。
そこには二人三組がそれぞれ戦っていた。そこには勿論部長もいた。
負けた悔しさがよみがえる。拳を握りしめ宇海は誓う。
「私、絶対部長を越えて皆を守れる人になりたいです」
恵はそれを聞き
「……応援してるよ」
と優しく呟いた。彼女の声は体育館の熱気に溶けていった。




