入部試験
古びた旧校舎の体育館。外から見ただけでも壮大である。
宇海は今日から元素研究部に入部する。
蒼唯につれられ体育館の中の部室へと入る。体育館倉庫にしては綺麗な内装にラベンダーのいい匂いがする部室だった。そこにはおおよそ30人以上もの部員がいた。皆静まり返って宇海を見ている。
するとセンター分けをした顔立ちが整った男が宇海の方へ歩いてきた。上履きの色からおそらく2年生だろう。男は宇海を見回して言う。
「へー!君が新入りちゃん?強いんだってね」
宇海が謙遜する暇もなく男は自己紹介をする。
「俺は高畑理豆夢!部長だよ。よろしくね」
宇海は元気に
「よろしくお願いします!」
と返す。
途端、部長は真面目な顔になる。
「今から入部試験をするね。君の実力を測るテストだよ。怪我はしないようにするから安心してね」
宇海も真面目な顔になる。
「臨むところです!」
部室から体育館へ移動する。ゆっくりと軋む床の音が鳴り響く。部員たちはじっと2階のギャラリーから宇海と理豆夢を見ている。
両者の動きが止まる。いよいよ互いに構えのポーズをとる。宇海の武器は剣。一方、理豆夢の武器は何やら指揮棒のようなものだ。宇海は武器が何か分からない以上警戒心を高めた。
「ハンデあげるよ。俺のこと教えてあげる。俺は火属性。この武器は火炎指揮棒って言うんだ。一応、炎が出せるんだよ。」
理豆夢は余裕の表情である。
じりじりと緊迫した空気の中、覚悟を決めた宇海は低姿勢で突進し、間合いに入る。
対して、理豆夢は空中に身を浮かせ華麗に攻撃を避ける。
そして、炎を指揮棒から噴く。宇海に向けた攻撃。そのはずだった。宇海の剣の腹である鏡部分に理豆夢の顔が反射する。
直後、炎が理豆夢の顔に直撃しかける。炎は理豆夢の頬を掠めた。その不可解な現象を理豆夢は一瞬で理解する。
「君のその剣、鏡なのはお洒落じゃないんだね。攻撃を跳ね返すんでしょ?」
その通りだった。宇海の剣は相手の攻撃を反射するものである。見抜いている理豆夢に宇海は動揺する。それでも、剣を構え襲いかかる。
すこし理豆夢に攻撃が掠りはするものの、宇海は焦りからか少し重心がぶれている。
理豆夢はその隙を突き、喉元に指揮棒を当てる。片手では宇海の両腕を押さえている。宇海は動けない。勝敗が決定した。宇海の敗けだ。そして、理豆夢は宇海に優しく話しかける。
「入部許可するよ。期待してるからね~」
そして、笑顔で部室に戻ってしまった。
直後、宇海は敗北と悔しさを感じていた。追い詰められているとき、技が粗くなってしまった。恐怖からだろうか、身体が思うように動かなかったのだ。ギャラリーからは称賛の声が聞こえてくる。しかし、負けた悔しさと追い詰められた恐怖から水の中にいるようで、ごぼごぼとしか聞こえないようだ。
「ねぇねぇ、君!筋がいいね!」
と宇海は肩をポンッと叩かれた。宇海は身体を跳ねさせて、後ろを振り返る。そこにいたのは、女神のような白髪で可憐な美少女だった。少女は言う。
「お姉さんの名前は佐藤恵!名前で呼んでね!」
元気で明るく話す彼女の目はどこか光がなかったが、声色は太陽のように暖かかった。続けて恵は言う。
「えーと、お名前は?」
「…宇海です」
負けたショックからうまく声がでていない。
「宇海ちゃん!いい名前だねぇ!」
それから恵は少し声色を変えて話す。
「宇海ちゃんね、感情に左右されやすいと思うんだよ。さっきも少し不安そうな顔になってからフォームが崩れてた」
宇海にとっては図星だった。また笑顔に戻り恵は言う。
「お姉さんに任せてね!宇海ちゃんをもっと強く可愛くするからね!今日から私の可愛い弟子ね!」
人生の中で蒼唯に恋することしか希望を知らない宇海にとって、恵は宵の明星のだった。
「やっぱり凄いな…」
ギャラリーの隅、しっかり見ていた蒼唯がポツリと呟く。宇海と目が合いそうになるとふっと視線を反らしてしまった。




