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9/20

第9話 フェイクニュース

「なんじゃこりゃ」


 5月27日水曜日、築地新聞朝刊。

 

  大宮市長候補は埼玉のドン・ファン

  浮気・不倫・淫行やり放題


 週刊真相の広告が踊っている。


 梨奈はコンビニに走った。週刊真相を購入する。


  月下恭治郎氏


 記事は実名。


  狂ジロー


 梨奈は脳内で変換。


 狂ジローは、去年、富士山テレビの美人女子アナウンサーと帝国ホテルで結婚式をあげた。


結婚式の前日、富士山テレビの別の女子アナをホテルの部屋に連れ込んでいた。


  グラビア


 自独党の女性国会議員と手をつなぎながら深夜の渋谷の円山町のラブ・ホテル街を歩く狂ジローの写真。

 女性国会議員には夫と子供がいる。

 

 狂ジローの恋人はわかっているだけで30人。

 年齢。上は75歳、下は13歳。

 昼は埼玉、夜は東京。


 元気な奴だ。相手にしなくてよかった。


  対抗馬は大宮の女性アイドル

  月下レッドラビットによる支配の打破を表明


 梨奈のインタビューも載っている。


  おかしい


 梨奈は訝しんだ。


 大宮市民から圧倒的な支持を受ける女性アイドル・グループОMG。

 チームMのリーダーとしてОMGを支えてきた岡林梨奈氏。

 月下恭治郎氏の対抗馬として大宮市長選挙に出馬することを決意。

 その思いを本誌だけに熱く語った。


  圧倒的な支持を受ける


 笑っちゃうよ。


 普段の蠅島なら絶対に書かない。蠅島は扇情的な文章でアイドルを扱き下ろす。


 梨奈の写真は明るい笑顔。


  可愛いい


 インタビューのとき、笑った記憶がない。

 修正を加えているかも。

 

 週刊真相は、狂ジローを狙っていた。

 徹底的に悪役に仕立てる。

 梨奈は添え物、引き立て役、刺身のつま。


「つまんねえ」

 記事を書かされた蠅島の苦虫顔が目に浮かぶ。


 週刊真相のホームページとYouTubeに公開された梨奈のインタビュー。

 カットなし。


  オカリナ、がんばれ

  兎に負けるな!

  ОMGにチーム亀を造れ!


 たくさんのコメントが付けられた。


   兎VS亀


 ОMGに新しいチームを作る余裕はありません。


 民放のワイドショーが追従。

 どのテレビ局も狂ジローの特番を組んだ。


 狂ジローは、財務大臣特別秘書の肩書で夏祭りに行っては女子中学生に名刺を渡して携帯番号を聞き出す。

 その後、東京に呼び出してホテルに連れ込んでいた。

 

  淫行


 犯罪ではないか。

 

「ドン・ファン。男として最高の評価です」


 父親の月下茂太は、財務省に詰めかけた記者団に、にこやかに答えた。


「大宮の女性は、みんな、パンツを下ろして恭治郎を待っていると思いますよ」


  やっちまった


「ドン・ファンみたいな女性を大事にする男を待っていると言いたかったのです」


 茂太は釈明したがもう遅い。

 大宮の女性は憤激した。


 夜公演を終えた梨奈はたくさんの女性に取り囲まれた。


「岡林さん、一緒に闘いましょう!」

「YouTube、観ました!」

「応援します! がんばってください!」


 困ったなあ。みんな、怒っているよ。

 週刊真相、失言大魔王、責任をとれ!


 奈良たか子首相は、G7サミット、先進国首脳会議に出席中。

 今年のサミットの舞台は、ビールの都、ミュンヘン。


 奈良は記者会見で明るく語った。


「グローバルに展開するIT企業の課税逃れに対し、連携して対応する決意を乾杯で確認しました。ミュンヘンのビールは最高です」


 会議の最後に首脳同士、ビールで乾杯をした奈良の顔が赤い。


「大宮市長選挙に立候補する月下恭治郎さんを思い出しました。

 彼の一族は、武蔵の国、今の埼玉県で税を徴収する重責を古代から担っています」


 なんで、狂ジローを持ち出す。

 ミュンヘンからの生中継を観ていた梨奈は嫌な予感がした。


「恭治郎さんの一族、月下家の皆さんは民衆の生活の安定を第一に考え、慈悲深く、課税は公平に行い、埼玉の人たちは月下家を神様のように敬い従っています」


  嘘ばっかり


 埼玉では月下への不平不満は禁句。

 自分の子供、孫だけでなく、累は、親戚縁者まで及ぶ。


 梨奈の両親は北海道出身。埼玉に親戚はいない。梨奈は一人っ子。

 ОMGのメンバーのご家族に迷惑をかけないよう自重しなきゃ。

 

「争いの絶えない現代、恭治郎さん、月下家は、日本のみならず世界を安定に導く希望、夢であります」


  アホ抜かせ


 狂ジローが大宮の市長。

 悪夢だよ。

 

 ドイツの女性記者が手を挙げた。

「月下恭治郎氏については、日本の週刊誌が、不適切な交友関係を報じています。

 倫理観が欠如した人物を党総裁として公認するのですか?」


 よくぞ聞いてくれた。


  内閣記者会


 首相官邸の記者クラブは女帝奈良の機嫌を損ねる質問をしない。

 

「全く問題ありません」

 奈良はにこやかに答えた。


「恭治郎さんが相手にするのは、魅力的な女性です。恭治郎さんが相手にしない人は女性ではありません。例をあげるなら日本の野合の政党の代表です」

 

  あ~あ、やっちまった


 知らないよ。


「倫理観が欠如した候補者、女性でありながら、女性の尊厳を踏みにじる奈良首相の発言。これこそ、一強独裁の驕り、ゆがみです!」


 野合の政党、協和党の女性党首、蓮沼涼子は激怒した。


「私は、岡林梨奈さんを全力で支援します。

 女性の皆さん! 大宮に集まりましょう!」


 蓮沼は代表の職権で梨奈を協和党の公認にした。


  くそ爺、くそ婆

  どうしてくれる


 梨奈は頭を抱えた。


 どいつもこいつも、一言余計。

 お前らが能天気な発言をするからマジな選挙戦になっちまったじゃないか!




 「梨奈ちゃん、ありがとう。家賃、払ってきたよ」


 櫛引先生の奥さんが嬉しそうに話しかけてきた。


「一か月分だけだけどね。オーナーさんも許してくれた」


 よかった。追い出されなくて済みそう。

 

 棚から牡丹餅、ごちそうさん。

 世の中の人がОMGに目を向けた。


 劇場公演は、連日、満員。

 握手券付きCDも完売。


 大和田灯里は調子に乗る。


「リーダー、大儲けのチャンスです。

 ヌード付きCDを売りましょう。1万円でも売れます」


 アホか。叩かれるぞ。


 梨奈は安田からくぎを刺されている。


「オカリナ、調子に乗らないでね。

 言動には要注意。自独党を甘く見ちゃだめだよ」


 自独党の支配は、全国津々浦々、政財官、国民生活のあらゆる場面に及ぶ。


 フェイクニュースが広まっている。


「リーダー、ちょっといいですか?」

 楽屋で今羽星名がおずおずと話しかけてきた。


「リーダーが大宮の市長さんになったら、大宮区や西区、見沼区の役所で働いている人は、全員、頸になるってホントですか?」


 星名のお父さんは、西区の職員。


「違うよ。さいたま市から、大宮市に移るだけ。頸なんかにならないよ」

 星名は心配顔。


「私もお隣の奥さんに言われました」

 研究生の駒場咲良が続く。


「先生たちが、さいたま市に残りたい、大宮市には移らないって言っているそうです。リーダーが市長になったら子供たちが小学校や中学校に行けなくなるって、ホントですか?」


 二人《ふたり》に告げたい。


  大丈夫だよ

  私は、市長に当選しない

 

 言えない。


 楽屋にはたくさんのメンバーがいる。

 大和田灯里は口が堅い。

 若いメンバーは違う。

 考えもせずしゃべる。

 

「岡林リーダーが、自分は当選しないって言っていました」


  なんのための選挙だ!

  税金の無駄遣い

  売名行為だ!


 集中砲火を浴びる。口(くち)チャック。

 

 フェイクニュースの極めつけ。


  大宮独立運動の首謀者が判明

  南銀の地下アイドル

  岡林梨奈


 岡林梨奈は、長年の確執を乗り越え、ようやく融和が実現した大宮と浦和を引き裂いた。

 岡林の目的は南銀にある自分の劇場を大宮市の市営にすること。


 貴重な税金が岡林の私利私欲を満たすために遣われる。


  阻止しなければ


 立ち上がったのは、弥生時代から埼玉県民に尽くし、県民の生活安定を第一に考えてきた月下家の長男恭治郎さん。


 窮地に追い込まれた岡林は、週刊真相の記者に床営業。


 身に覚えがない記事を書かれた恭治郎さんは窮地に追い込まれている。

 今こそ兎の旗の下に集い、岡林梨奈の毒牙から、大宮市を、恭治郎さん救おう!


「蠅島さん、怒っているでしょうねえ」

 ネットの記事を見せてくれた灯里は苦笑いを浮かべた。


「でも、劇場が大宮市営になったらいいなあ」


  確かに


 お客の入りを心配しなくて済む。


「リーダー、狂ジローに、枕営業、してくださいよ」


 アホか! 灯里(おまえ)が、やれ。


 無理か。

 灯里は毒舌。

 狂ジローが逃げる。


 しっかし困ったなあ。

 大宮市長選挙の告示は、握手会の翌日。


 選挙運動。

 なにをやればいいんだろう。


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