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21/23

第21話 氷川の太陽

 4月になった。

 新しい年度が始まった。


 OMGは快調。

 大宮市政も順調。


  大宮市ふるさと納税の返礼品


 梨奈とOMGのメンバーが心を込めて書いた栞。

 宛名書きをした封筒。


  手書き、いいね!

  ほっこりするよ


 返礼品を受け取った人がSNSで絶賛。


  この子可愛い


   円阿弥


  なんて読むんだろう


 えんなみです。


 生写真はサイン入り。


  OMGって可愛い子が多い

  この子、どういう子?


 OMGは検索数の上位にランキング。


 話題が話題を呼び、OMGの人気が全国で沸騰。


  やったね

 

 シングルカットされた『M!(ムーブ)』は100万枚を超える大ヒット。


 大急ぎで作成されたミュージックビデオはYou Tube再生回数のトップ。


 社長の櫛引隆先生が復帰。


  劇場でしか会えないアイドル

  OMG634


 櫛引先生はライブ至上主義。


  氷川の太陽


 市民会館用の新しい公演を演出。


「大宮の太陽にしようと思ったんだ」

 先生は梨奈たちに語った。


「台本を書いていたら、大宮を守っているのは誰ですかってて声がしてさ。

 そうだ、氷川神社だって思って変えたんだ」


  謎の声


 誰だろう。


 考えている暇はない。梨奈は忙しい。


 取材、テレビ出演、夜は劇場公演、市長の仕事。


 市長の仕事をする市民会館の会議室は梨奈のサインを待つ書類の山。


  なんでこんなに書類が多いんだ!


 閻魔大王徳田さんがさばいてくれる。

 決裁するのは市長の梨奈。


 OMGのメンバーも取材やバラエティ番組に引っ張りだこ。

 栞や封筒の手書きに手が回らなくなった。


  どうしよう


「リーダー、お客様です」


 会議室でため息をついていると寿能円が顔を覗かせた。


 引き籠っていた円は社会復帰。

 大宮市長秘書兼梨奈のマネージャー。


「円も公演に出なよ。小ホール、眺め、いいよ」

 梨奈は円をОMGの舞台に再び立たせたい。


 誘ってみた。


「まだいいです」

 円は固辞。


 ゆっくりやろう。


 市民会館二階の会議室のドアは閉めない。


 徳田さんのアドバイス。密室は憶測を招く。


 梨奈が市長の仕事をする会議室はブラインドも閉めない。

 浦和が建てた大宮区役所から丸見え。


 円のリハビリ。

 他人からの視線に慣れて欲しい。


「円、悪い、断って」

 どうせ陳情だ。


 梨奈は書類に目を落としながら応えた。

 

  地方創生革新行政効率刷新創造特別継続事業


 総務省に提出する補助金申請書。


「市長、呉れるものは毒皿でも貰うぜ」

 今朝、徳田さんが持ってきた。


  じゅげむじゅげむごごうのすりきれ

  漢字ばっかり!


 提出期限は4月末日。

 申請先の総務大臣は、ヒロムくんとは別のオヤジ。


 徳田さんの懸念は当たった。

 ヒロムくんは奈良たか子首相に疎まれた。


 ヒロムくんは内閣改造で総務大臣を頸になった。

 自独党の役職にも就かず、完全に干されている。


  なんでかなあ


「副市長の逢坂徹を総務省に戻したのがまずかった」

 幹事長の安田が情報を仕入れてきた。


「逢坂は奈良さんの旦那の姪っ子の婿殿。

 旦那が怒ったらしい」


  戦って 戦って 戦って


 奈良たか子首相は戦闘的。


  平和

  安定


 嫌っている。


「逢坂を自独党の衆議院議員の川口選挙区の候補に立てようって動きもある」

 

 逢坂は浦和出身。

 大宮と浦和の対立を煽っていた。


 奈良たか子の同族じゃ。


 嫌だなあ。

 

 雷電は依然として活動休止中。

 ヒロムくん、今、なにをしているのかな。

 

「オカリナ市長、お疲れ様で~す」


  うわ、ヒロムくん!


 会議室の入口で若松弘くんが手を振っている。


  以心伝心


 お客さまってヒロムくんだったの? 


「忙しそうだね」

「はい」


 梨奈は頷いた。

 漢字だらけの申請書。目と頭が痛い。


「サン・ジェストさんに言われたんだ。暇だったら、オカリナを手伝ってやれって」


  ヒロムくんは暇かあ


 雷電の復活は、ないのかな。

 

「OMGのメンバーも、みんな、忙しいって聞いたよ。

 ふるさと納税の返礼品、書けないんじゃない?」


  ビンゴです


 梨奈は黙って頷いた。


「オカリナがよかったら、ナーチャーの連中が宛名書きを引き受ける。

 僕も書きます。やることなくて暇だしね」


「ホントですか!」


  ナーチャー


 ビターバレー芸能事務所の育成部。

 デビュー前の男子が多数所属。

 ファンクラブもある。

 会員数、300万人。

 

「試しに書いてみたんだ。どうかな?」


 思わず叫んだ梨奈に、ヒロムくんはハガキを見せた。


  大宮市は最高! 

  ビターバレーも応援しています。

  ヒロム


 綺麗な字。


「事務所の連中にも声を掛けているんだ。

 ビターバレーの乃木坂の本社で書いて送るよ」


  凄い! 

  ありがとう


「駄目ですね」


 衣偏に谷の杉沢裕さんの声がした。

 総務担当ぬらりひょん杉沢さんは、ノックなしで、どこにでも現れる。


「総務省は政令で、返礼品の基準を、自治体の区域内において返礼品等の原材料の主要な部分が生産されたもの、区域内で製造・加工などの工程を行い、価値の過半数が生じているもの、であることとしています」


 杉沢裕さんの話は今日も諄い。


「従って、ビターバレー芸能事務所の乃木坂の本社事務所で書かれた栞は大宮市の返礼品にはなりません」


  水を差すんじゃねえ


「そうか、うっかりしていた」

 ヒロムくんは笑顔。


「総務大臣として僕はやっぱり失格だ。

 先輩、では、大宮出身ののメンバーに書かせたらどうでしょう。

 確か、友麻くんは、大宮だった」


  ドキ


 友麻くんは、旧見沼区出身。


「推し活ふるさと納税も基準が厳しくなりました。

 大宮出身のメンバーが書いただけでは、返礼品として認められません」


  残念


「それなら、ナーチャーに大宮の市民会館に来てもらうのはどうですか」


  なんですと?


「大宮出身の子が、大宮市民会館で書く。僕も書きますよ。どうでしょう?」


「オッケーです」

 杉沢さんが親指を立てた。

 

「ありがとうございます。善は急げだ。サン・ジェストさんに聞いてみます」


 ヒロムくんはスマホを取り出した。


  え、これから?


「サン・ジェストさん、ヒロムです。お願いがあります」


 電話の相手はビターバレーの社長、サン・ジェスト・カオルさん。

 すごいなあ。

 ホットラインで繋がっているんだ。


 ヒロムくんは行動が早い。

 遊ばせているなんて、自独党はダメだね。


「オッケーですか。ありがとうございます」

 ヒロムくんは親指を立てた。


  やった


 ヒロムくんのおかげで、ビターバレーのメンバーも協力してくれる。


  感謝感激雨雷電!


「市長、お喜びのところ申し訳ありませんが」

 杉沢さんの声がした。


  なんだよ、感動の場面なのに


「月下恭治郎氏から住民監査請求が届きました」


  またかよ


 狂ジローは健在。


  開票結果は誤りだ

  有効票、無効票を確認しろ

  投票全てを数え直せ


 市長選挙の異議申し立てに始まり、次から次へと大宮市に住民監査請求をだす。


 気持ちはわかるよ。票の差は556票。

 でも、しつこい。


「今度はなんですか?」


 ため息まじりに聞き返すと杉沢は書類を読み始めた。


「地方自治法242条は、普通地方公共団体の住民は当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について」


「ちょっと待ってください」

 梨奈はこめかみを押さえた。


  頭痛がしてくる


「監査対象は梨奈(わたし)ですか?」

「はい」


 杉沢さんは頷くと書類に目を落とした。

「違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担があると認めるとき」


 杉沢さんは、諄い文章を読むのも大好き。


「又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し」


 狂ジローは、梨奈が大宮市のお金を盗んだって言いたのかな。


 残念ながら、大宮市には、お金がありませ~ん。

 浦和の市役所は、大宮の住民も関与した財政安定化基金を大宮市に渡さない。

 

「当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって」


  若しくは


 読めますか?


 もしくは

 です。


「当該普通地方公共団体の被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができるとしている」

「何を請求するんですか?」


  聞くのが嫌になってきた


 杉沢さんは構わず書類をめくる。


「岡林市長は市民会館を私物化している。小ホールは市長が所属する団体が占有。市民は大きな不利益を負っている」


  なんだと?


「違います」


 小ホールは市議会の議場にもなっている。

 昼間は市民が使い、ОMG公演は夜。使用料も払っている。


「更に、ふるさと納税の返礼品と称して、市長が所属する団体の宣伝を行っている」

「宣伝なんかしていません」


 OMGのみんなは、ノーギャラ。

 ボランティアだ。


「宣伝に使用する文書の作成は市民会館で行われており、照明、空調、トイレ、洗面所に使用する水道光熱費が不正に支出された」


  どこかで聞いた話


 そうだ、昔、南銀で貰った大宮独立運動のビラの裏面に書いてあった。

 

「月下恭治郎さんも困ったもんだなあ」

 ヒロムくんも渋い顔になった。


「僕は、今日は自分の車で来たんだけれど、びっくりした。

 恭治郎さん、大宮駅の近くに、でっかい事務所を作ったんだね」


  月下恭治郎事務所


 狂ジローは、大宮高島屋の向かいに事務所を開設。

 建物には、梨奈の家のリビングくらいの巨大な看板。


  狂ジローの笑顔


 気色悪い。


 ヒロムくんが梨奈に向き直った。

「オカリナ代表、僕を。新党M!(動け) に入れてください」


  はい?


「自独党はダメだ。月下さんは、全然、反省していない」


 月下茂太は財務大臣のまま。


「僕は、日本を変えたい。一緒に戦おう」


「お断りします」

 

  即答


「M!(動け) は、大宮市限定です。国会議員の方は対象外です」


 政治に関わりたくない。

 大宮市長、新党M!(動け) の代表。


 梨奈は、いっぱいいっぱい。


 アイドルに争いは似合わない。

 夢を奪う。

 喧嘩は絶対にだめ。

 

 梨奈には夢がある。

 

  夢は大きく、おかりんりん

  みんなで行こう、新国立~!


 梨奈の夢は、OMG国立競技場単独ライブ。


 ОMGのメンバーは弛んでいる。

 取材でおだてられ、バラエティ番組で馬鹿丸出し。

 鍛え直したい。


  日本を変える


 がんばってください。

 

  テリュリュリリュ―


 ヒロムくんのスマホが鳴った。


  RAI・DEN


 雷電デビュー曲のイントロ。


「友麻くん? オカリナに替わるね」

 ヒロムくんはスマホを差し出した。

「オカリナ、友麻くんから」


  ホント?


 どうしよう。


「友麻くん、岡林です」

 手の震えを抑えて電話にでると、友麻くんの声がした。


『オカリナさん、サン・ジェストさんから聞きました。栞、書かせてください』


 嘘でしょ! 


『すみません、今、サン・ジェストさんと旭のみんなが話しをしているんです。

 大宮の市民会館に必ず行きます。よろしくお願いします』


 電話は切れた。スーパーアイドルは忙しい。


  嬉しい!


 友麻くんが栞を書いてくれる。

 大宮市民会館に来る。


 ヒロムくんのおかげだよ。


  感謝感激雨雷電!

 

「ヒロムさん、さっきは言い過ぎました。私、政治の話は、わからないんです」

 お礼をしなきゃ。


「安田さんと相談してください。私は拒みません」

「ありがとう!」


 梨奈の右手をヒロムくんは両手で握りしめた。


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