第19話 新党M!《動け》
大宮市には、たくさんの支援が寄せられた。
机、椅子、パソコン、電話機、プリンター、ロッカー。
物だけでない
「大宮の市民のために働きたいです」
「子供たちを放っておけません」
「浦和の労働組合に愛想がつきました」
さいたま市を辞めて大宮市に移る職員、教員が駆けつけた。
皆さん、ありがとう
おじゃま虫も現れた。
「オカリナ、僕、衆議院議員を辞めたよ」
安田勝男が大宮市民会館に現れた。
「協和党の爺連中が言いやがるんだ。
アイドルに国民が憧れたら額に汗して働く者がいなくなる。
アイドルは市長に相応しくないって」
協和党は、公務員と大企業の労働組合が支持基盤。
「江戸時代と一緒。役者やアイドルは河原者なんだとさ」
労働貴族
公務員と大企業の労働組合の幹部。
日本を衰退させた。
日本国憲法14条2項
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
当たっているねえ
「協和党を離党しても議員は続けられるんだけどさ、嫁さんも許してくれた。
きっぱり辞めた」
安田は選挙区では自独党の候補に勝てない。
重複立候補の比例区でかろうじて当選。
生活はどうするんだろう。
「これからは、オカリナ・ファースト。
さあ、シントウ、立ち上げだ!」
「シントウってなんですか?」
心頭滅却すれば火もまた涼し
毎日いろいろなことが起きる。
頭を冷やしたい。
「新しい政党だよ。オカリナが代表の政党をつくるんだ」
「え~!」
やだ
梨奈は両手を振った。
「安田さん、私、市長だけで、いっぱいいっぱいなんです。もう勘弁してください」
「ダメダメ」
安田は、ひらひらと右手を振った。
「大宮市は新設扱いなんだ。市議会議員の選挙がある。
ぼやぼやしていると、さいたま市で議員をやっていた連中が議席を占める。
オカリナは何もできないよ」
それは困る
「新党の名前はオカリナが決めてよね」
わかんないよ
市民会館小ホールの下見に来ていた大和田灯里が目に留まった。
「あかりの党」
灯里は毒舌。戦闘的な目線。
既存政党に立ち向かう政党にぴったり。
南銀のОMG劇場はロックダウン。
不法占有に備え、ОMGファンのお爺さんたちが24時間体制で座り込み。
劇場でしか会えないアイドルОMG
劇場公演が出来ない。
収入が入らない。
鍛錬の場を奪われた若いメンバーのモチベーションの低下も心配。
パチンコ店のオーナーさんは苦しい立場。
ОMGを窮地に追い込んだ。
SNSで非難轟轟。
お客さんが激減。
劇場を貸し続けたら、レッドラビットに睨まれる。
埼玉で商売が出来ない。
これ以上、オーナーさんに迷惑をかけられない。
南銀を、あこがれの街にする
夢は半ば。
仕方がない
梨奈は入院中の櫛引先生と話し合い、ОMGの劇場公演を大宮市民会館の小ホールに移すことにした。
大宮市民会館小ホール
舞台の迫はないが274席の手ごろなホール。
再開予定は8月1日。
「あかりの党?
絶対に、嫌、です」
灯里は断固拒否。
「リーダーの党です。
オカリナ、でいいじゃないんですか」
灯里が逆提案。
絶対に、嫌、です
オカリナ、オカリナをよろしくお願いしま~す。
大宮の町中に連呼される。
恥ずかしい。
「ОMGの宣伝にもなりますよ」
灯里は食い下がる。
「実名や通称はダメだよ」
新党オカリナを安田は否定。
「公職選挙法で、党の代表や候補者の氏名が類推されるような表現は禁止だ」
よかった
じゃあ、どうする。
「愛の党はどうだ」
安田が提案。
「オカリナの公約。愛で大宮市民を包むんだ。朝ドラみたいだろう」
「ださ」
灯里は一刀両断。
秒殺却下。
困ったなあ。
「あの~」
衣編に谷の杉沢裕さんの声がした。
ぬらりひょん杉沢さんは、あちらこちらに顔を出す。
「新党の名前、 動け、はどうでしょうか?」
スケッチブックを差し出す。
「表記は、これです」
M!
「OMG劇場ラストソングです。
読み方を、ムーブ、にしたら、安田先生のおっしゃるとおり、党代表者の市長を類推されると却下される可能性があります。
だから、動け、にしました」
「動け、M! 」
安田が目を輝かせた。
「いいですね、インパクトがある」
いいのかな
「安田さん、政党の名前に、ビックリマークを付けて許されるのですか?」
「たぶん、大丈夫」
たぶん、かよ。
「政党の名前を審査するのは総務省だ。
総務省が示している基準は、公序良俗に反しないこと。
M! は、何ら問題がない」
まあ、いいや
市長の仕事。
OMGの運営。
梨奈は、いっぱいいっぱい。
餅屋は餅屋。
安田に任せよう。
「それに」
安田は口角をあげた。
「総務大臣の若松弘は、オカリナ推し。
オカリナの申請を却下する訳がない」
やば
密室の大臣室。
オヤジは発想がいやらしい。
新党M!
代表は梨奈。安田は幹事長。
安田は新党M! のホームページを立ち上げ、市議会議員立候補者を募る。
「新党M!はお金がありません。
大宮市議会議員選挙の供託金30万円は、ご自分でご負担ください。
ポスターの製作費、選挙運動費、すべて自前でお願いします。
それでも、大宮をよくしようと考える方、大宮を愛する方を大募集です」
太っ腹な人、いるのかね。
「新党M!は、もうかりません。
M!は、利権を求めません。
介護認定の配慮、特別養護老人ホームへの優先入所、自治医大さいたま医療センター、さいたま日赤病院、小児医療センター、がんセンターの受診や入院、生活保護の申請、保育園や学童保育の入所、越境入学、商工業者の方の市役所への口利き。
さいたま市の市議会議員が行っていた斡旋行為を、一切、行いません。
さいたま市立浦和中学高等学校、大宮国際中等教育学校は大宮市の管轄外です」
M! は、なんにもやらないってことね。
楽でいいや。
「浦和の妨害により、大宮は財源がありません。
議員報酬は、当分、入りません。
政務活動費なんかありません。
既存の政治家とは全く反対の、見返りを求めない、利益を求めない、無償の愛、無私無欲の方の応募を待っています」
愛が好きなオヤジだ。
立候補者、集まるのかなあ。
「いっぱい来ますよ」
ニヤ
大和田灯里は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「自分を認めて欲しい人、たくさんいますからね」
承認欲求
しっかし、灯里も大人になったねえ。
チームMの次のリーダーは灯里にしよう。
来たよ
新党M! 市議会議員選挙立候補者。
大宮市議会の定員の10倍を超える応募者が集まった。
多士済々。梨奈には選べない。
どうしよう。
「オーディションをやりましょう」
ОMGの染谷悠花が提案。
「私も選挙権を持っています。変な人に議員になって欲しくありません」
自覚が出て来たな。いいぞ。
「劇場公演の人気投票、私は、いっつも、がんばってきました」
悠花の定位置は松竹梅の竹。
課題はMC。頓珍漢な答えを直せ。
「MCがつまらんない人は落としま~す」
鏡を見ろよ。
まあ、いいや。
若手メンバーに任せた。
新党M!
OMGメンバーが選ぶ市議会議員候補者
ネットで生中継されたオーディションは大反響。
ОMGの皆さん、アホじゃないんですね。
真面目にオーディションを行うОMGの皆さんに、いいね!
自独党、協和党、混迷党、大化の改新党、マルクス党。
既成政党の市議会議員が恐れをなす。
さいたま市の市議会は、臨時市議会を開き、現在の任期が切れるまで大宮市議会議員選挙を行わない条例を全会一致で可決した。
「大宮市の市政の安定が第一です」
混迷党の市議会議長はにこやかに取材に応じた。
混迷党は宗教団体が運営している。
「大宮市の市議会は、さいたま市の市議会議員選挙で選ばれた皆さんが、引き続き運営します。マルクス党の方も賛同しました」
馬鹿言ってんじゃねえ。
自分たちの権益を守りたいだけ。
マルクス党も落ちたもんだね。
「大宮市長は行政の経験がありません。スタッフは、年配の方とボランティアばかり。選挙管理員会も機能していないと聞いております」
「八重樫先生、怒っているよ」
徳田さんは苦笑い。
最高裁判所の判事も務めた明法大学の八重樫名誉教授が大宮市の選挙管理委員会の委員長を引き受けてくれた。
八重樫教授は記者会見を開いた。
「さいたま市の市議会が議決した条例は、法の下の平等を定めた憲法14条に反しており、大宮市に対しては効力を有しません」
八重樫教授は憲法学者。
「大宮市の市議会議員選挙は、予定どおり、万難を排し、実施致します」
がんばってください。
浦和の妨害は続く。
「大宮市議会議員選挙の投票用紙が廃棄されるところでした」
テレビ築地のスクープ。
「今朝、さいたま市緑区のクリーンセンター大崎に、さいたま市役所から、至急焼却と書かれた大量の段ボール箱が持ち込まれました。
不審に思った作業員が開封したところ、中に大宮市の市議会議員選挙の投票用紙が大量に入っていました。その時の映像です」
『早く燃やせよ!』
『お前も、浦和の人間だろ! 副市長の命令に従え!』
ワイシャツを着た男たちが叫んでいる。顔にはぼかし。
「叫んでいるのは、段ボール箱を持ち込んだ浦和の市役所の職員です。
作業員が大宮市に連絡。大宮市の徳田副市長が回収しました」
危ない
大宮市長選挙。
投票用紙は、さいたま市が手配した。
市議会議員選挙の投票用紙も用意されていた。
なぜ、さいたま市は廃棄しようとしたのか。
「選挙を行わない条例が出来ましたので廃棄致しました」
さいたま市副市長の逢坂は平然と答えた。
くそ~
またしても逢坂の妨害。
大宮市には、投票用紙を印刷するお金がない。
危うく市議会議員選挙が中止になるところだった。
「大宮市に渡したクリーンセンターの作業員は懲戒解雇致します。
併せて、さいたま市の資産を不正に譲渡した件につき、損害賠償を請求します」
ひどい
浦和のさいたま市役所には、全国から抗議の電話、メール、ファックスが殺到。
等々力法律事務所
日本有数の大手弁護士事務所が参戦。
「日本国憲法14条。
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
日本国憲法第15条2項
すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
浦和のさいたま市役所の一連の行動は、国会で多数を占める政党、埼玉県を支配する団体に与する対応であり、黙殺できない。
さいたま市がクリーンセンターの作業員に対し損害賠償の請求を行った場合、等々力法律事務所は主任弁護人となり、さいたま市の不正を糾弾する」
ありがたいことです。
さいたま市を頸になった作業員さんは、大宮市の見沼環境センターで雇用。
訴訟は行われなかった。
定数40人の大宮市の市議会議員選挙は予定通り実施された。
新党M! 28人
混迷党 7人
自独党 3人
マルクス党 2人
協和党 0人
大化の改新党 0人
安田が呟いた。
「宗徒は凄いなあ」




