第18話 総務大臣ヒロムくん
午前11時。
「あらかじめ面会が認められた方以外は入れません」
梨奈は首相官邸の守衛所から追い返された。
やっぱりね
OMG劇場もチケットが無ければ入れない。
首相官邸のチケットはどこで買ったらいいのかな?
さて、どうしよう。
リンリンリン
徳田さんのスマホが鳴った。
「もし、も~し」
通話を始めた徳田さんが梨奈に顔を向けた。
「アイドル爺からだ」
ぬらりひょん杉沢さんか。
「総務省に行ったらどうかってさ」
なんで?
「総務大臣の若松弘は、昔、アイドルで、カミナリ族だったらしい」
雷電です
「アイドル繋がりで市長に会ってくれるかもしれないって杉沢は言っている」
どうかなあ
若松弘くん、通称ヒロムくんのグループ、雷電はファンクラブ会員200万人。
紅白歌合戦の司会を5回も務めた天の上の人。
会える訳がない。
あきらめてはだめだよ
声がした。
動きなさい。
動けば、道は開ける。
誰?
徳田さんの声ではない。徳田さんは杉沢さんと通話に戻っている。
♪僕が動けば
ムーブ 世界が動く
変わる変える♪
頭に『M!』が響いた。
そうだ、動こう!
誰だかわかりませんが、アドバイス、ありがとうございます。
「徳田さん、私を総務省に連れて行ってください」
梨奈は徳田さんを見つめた。
「私は、大宮の子供やお年寄りを救うためならどこへでも行きます。
土下座でもなんでも、できることは、なんでもやります」
裸以外はね
梨奈は英語も外国語も話せない。
南銀のお姉さんみたいなお酌もできない。
我ながら使えない女だ。
「市長、がんばってください!」
「机、どこに送ればいいんですか?」
「握手して!」
うわ! なんだ
首相官邸を出た梨奈と徳田さんは群衆に取り囲まれた。
「中継、見ていました」
「忖度なんかに負けないでください」
「応援するよ!」
がんばります
梨奈と徳田さんは霞が関の総務省に歩いて向かった。
「大宮の市長、がんばって~」
行き交う車からも手を振られる。
運転に集中してください。
歩道は人でいっぱい。
「金、無いんだろ? 寄付するよ」
お財布を取り出す人がいる
「俺の昼のおにぎり、食べるかい?」
アルミホールに包まれたお握りを差し出された。
「乗ってけ」
わざわざ車を停める人もいる。
「ありがとうございます。でも、お金は受け取れないんです。ごめんなさい」
お握りはいいのかな?
「あ! オカリナ市長だ!」
「がんばれ!」
「会いたかった」
梨奈は握手攻め。
「権力に立ち向かう市長に感動しました」
「困ったことがあったら連絡ください。
支援します」
名刺を差し出す人もいる。
子供たちも小さな手を差し出す。
みなさん、ありがとう
梨奈はたくさんの人たちと握手をしながら総務省に向かった。
総務省会議室 。
「岡林市長のおっしゃるとおりです。市民に犠牲を強いては絶対にいけません」
総務大臣若松弘
ヒロムくんは大きく肯いた。
「さいたま市役所や埼玉県庁の対応には問題があります。
関係部局から指導をさせます」
「ありがとうございます」
梨奈はヒロムくんに頭を下げた。
どうしたんだ
中央合同庁舎2号館の入口には総務省の人が待っていた。
「大臣がお待ちです。お入りください」
取材もオッケー。
会議室にはテレビカメラが並んでいる。
ヒロムくんが梨奈を見つめた。
「ところで、ふるさと納税の申請はされましたか?」
「いえ」
梨奈の隣に座る徳田さんがハゲ頭を振った。
「岡林市長が就任したのは昨日です。全てがこれからです。準備もできていません」
「すぐに申請をしてください。迅速な審査を行うよう指示します」
梨奈は徳田さんと顔を見合せた。
スムーズすぎる
「涙が出るくらい嬉しいです。
でも、なんで、こんなにご親切にして頂けるんですか?」
気持ちを正直に述べると、ヒロムくんは梨奈に笑顔を向けた。
「地方自治を預かる立場として当然の対応をしているだけです」
ヒロムくん、ありがとう
梨奈は孤立無援だった。
嬉しい。
本当に涙が出そう。
「事務的な対応については担当者に任せるとして、市長、大臣室でふたりだけで話をしませんか」
「いや、それは」
徳田さんが戸惑った声をあげた。
なんで? いいじゃない
ヒロムくんが席を立った。
梨奈も続く。
大臣室。
ソファに座ったヒロムくんが切り出した。
「実はね、旭の友麻くんから電話が来たんです。
オカリナさんを助けてくださいって」
うっそ、嬉しい
梨奈は本当に涙が出そうになった。
「友麻くんは、僕のバックで踊っていたんですよ。
可愛い後輩の頼みを断るわけにはいきません。それにね」
ヒロムくんは頭を掻いた。
「サン・ジェストさんから発破を掛けられているんです。
自分、アイドルを守るよねって」
すごい
ビターバレーの社長、サン・ジェスト・カオルさんも応援してくれるんだ。
「困ったことがあったら、すぐに連絡してください」
ヒロムくんが名刺を差し出した。
総務大臣 若松弘
余白にヒロムくんの携帯番号とメルアドが手書きで書かれている。
しまった
大宮市長の名刺はない。
作成もしていない。どうしよう。
仕方ない。
目指せ 国立競技場単独公演
ОMG634
チームMリーダー 岡林梨奈
梨奈はОMGの名刺を差し出した。
「国立。いいなあ、夢があって」
ヒロムくんは目を輝かせた。
「秋田のきりたんぽ~ずが解散した経緯もよく知っています。
アイドルだった者としてレッドラビットは許せません。オカリナ、一緒に戦いましょう」
ヒロムくんは立ち上がると梨奈に右手を差し出した。
「よろしくお願いします!」
梨奈は両手でヒロムくんの右手を握りしめた。
友麻くんが気にかけてくれている。
ヒロムくんと握手ができた。
嬉しい。
市長になって、良かった。
「市長、さっきのはまずいよ」
総務省を出た徳田さんがあたりを伺いながら梨奈に話しかけてきた。
なんだろう。
取材陣はいない。
「若松さんと二人だけで大臣室に籠っちゃだめだ。プレスの連中、騒いでいたぜ」
「何が問題なのですか?」
梨奈はルンルン気分。スキップしたい。
「政治の世界では密室は憶測を呼ぶ。
まして、若松さんと市長は男と女だ。スキャンダルになりかけない」
やばい
全然気が付かなかった。
「若松さん、大丈夫かな」
地下鉄に降りる階段で徳田さんが呟いた。
「女帝、奈良首相に睨まれるぞ。
月下茂太だって黙っていないだろう」
「政治の世界って、難しいんですね」
善意が悪く捉えられる。
OMGに戻りたい。
そうだ、劇場をどうしよう。
難問山積。
謎の声さん、助けて。




