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第15話 大宮の怖い奴

「友麻くん!」


 旭の渡辺友麻くんが立っている。


 なんで友麻くんが大宮(ここ)にいるの?


 須田宗隆くん、板野哲人くん、大島雅規くん、小嶋秀樹くん。


  旭だヨ!

  全員集合


 なんだ? なにが起きた。


「今日は春日部の地下神殿で旭の新曲のビデオ撮りだったんです」


  首都圏外郭放水路


 ミュージックビデオの聖地。


「地上に戻ってスマホを開いたら大変なことになっているじゃないですか。

 駆け付けてきました」


 彫りの深い顔立ちの男子が歩み出た。


「オカリナさん。レッドラビットって奴ら、許せません。叩き潰してやりましょう」


  須田宗隆くん


 旭のコンサートマスター。

 舞台劇にも進出。

 大河ドラマの主役に抜擢。


「キャー!」

「宗隆く~ん、かっこいい~!」


 元教師のお婆さんたちから歓声が飛ぶ。

 皆さん、お若いですね。


「大宮の選挙は大学でも話題になっています」


 くりっとした目の板野哲人くんが微笑んだ。

 板野くんは、四月に早稲田大学の政治経済学部に入学。


「大宮市民の皆さんがたくさん投票に行ってくれた。素晴らしいです」


「ストレス貯めるなら、金、貯めなきゃね」


 斜に構えた口調。

 大島雅規くんだ。


「オカリナさんの劇場に、いらっしゃいませ~、いらっしゃいませ~」


  ありがとう


「旭でよかった」

 小嶋秀樹くんが梨奈に右手を差し出した。


「市長の仕事、がんばってください。僕も応援します」


 スーパーアイドル旭が梨奈を応援。


  夢みたい


 本当に嬉しい。

 でも。


  友麻くん、ごめん

  無理だよ


 浦和は大宮に施設を使わせない。

 提供されたのは廃墟同然の市民会館。


  岡林市長の辞任を要求する


 大宮区役所には、のぼりがはためいている。


 職員を渡さない。

 お爺さんお婆さんばかりでは大宮市を動かせない。


  市長辞任


 どうやって言い出そう。

 梨奈は辺りを見渡した。


  今羽星名


 不安そうにスマホを握りしめている。


  そうだ


「友麻くん、旭のみんな、ありがとう」


 梨奈は友麻くんを見つめた。


「私も、アイドル、なんだ」


  旭はスーパーアイドル


 楽曲、ライブ、メディア、出版、ネット。

 デビュー一年目で圧倒的な存在感。


「南銀の劇場が危ない」


  梨奈のOMG


 劇場公演が、全て。


「私だけじゃない。

 OMG、みんなの舞台がなくなる」


 大和田灯里、今羽星名、染谷悠花、駒場咲良、円阿弥(えんなみ)沙織。

 メンバーの笑顔が浮かぶ。

 

「劇場を潰してはダメ。

 絶対に、嫌だ」


  梨奈が大宮の市長選挙に立候補したのがいけないんだ

  大宮の市民は図書館にも行けない

  埼玉県警の盾に追い払われる

  

「だから」


 梨奈は言葉を切った。


  市長を辞める

  梨奈は南銀に戻る


 でも。


  187、028票


 梨奈に投票をした大宮の皆さんの負託を反故していいのか。

 

「リーダー、大丈夫ですよ」

 円の声がした。


「大宮市民会館にはOMGの公演ができるホールがあります」


  え、ここに?


 梨奈は市民会館を見上げた。


「会議室もあります。劇場公演と市長のお仕事が一緒にできますよ」


  以心伝心


 なんで円が梨奈の迷いがわかったんだ。


「いいですねえ」

 ぬらりひょん杉沢さんが現れた。


「見沼区の片柳コミュニティーセンターでもOMG公演をやりましょう」


「だめだ」

 牛頭天王が手を振る。


「片柳コミセンは老朽化で閉鎖中。

 浦和が手を抜いたんだな」


 見沼区は冷遇されている。


「よし、やるぞ!」

 

  パン!


 閻魔大王が手を叩いた。


「市民会館が大宮の市役所だ。

 開庁は明日。

 神崎、できるか?」


「俺を誰だと思っているんだ」

 牛頭天王が顎に手を当てた

「明日の朝には執務、オッケーだぜ」

 円に顔を向ける。


「姉ちゃんも手伝ってよ」


「はい」


  え?


 円が肯いた。頬が赤い。


  よかった


 表に出る勇気が出たんだ。

 大宮独立運動の皆さん、ありがとう。

 

  忖度に負けるか! 

  大宮市長 市民とともに立ち上がる

  旭も参戦


 テレビ築地のクルーが持っているモニターにはテロップが流れている。


 困ったなあ。市長を辞められなくなっちゃった。

 どうしよう。


「リーダー、大変です!」

 今羽星名が叫んだ。スマホを耳に当てている。


「外国の人が劇場に押し掛けているみたいです! 

 すぐ来てくれって灯里さんが言っています!」


  劇場があぶない!


 梨奈は走り出した。




「✕✕✕✕!」「▲▲▲▲!」「◆■■◆!」


 南銀に怒号が飛び交っている。


 何語かわからない。

 叫んでいるのは外国人の男たち。

 ОMG劇場の入口を囲んでいる。


「うるせいなあ、眠れないじゃねえか」

 ホスト風のお兄さんが気だるげに応えた。


「私ら、早番で朝から働いていたんだよ。

 ちょっと休ませてくれてもいいじゃない」


 キャバクラのお姉さん。


  大股開き


 化粧も落とさず階段に座り込んでいる。

 

 劇場入口の階段。


  ホスト

  キャバクラ

  ガールズバー


 お兄さん、お姉さんで埋め尽くされている。


 黒服のまま寝ているお兄さんもいる。


「困るなあ、ビルの入口に座り込んじゃ」

 パチンコ屋の店長が現れた。


「新しいテナントの社員さんが中に入れないじゃないか」


「店長さん、新しいテナントってどういうことですか?」

 梨奈は店長に詰め寄った。

 

 ОMG劇場が入っているビルは四階建て。

 一階はパチンコ店。

 二階から上がОMGの劇場と事務所、レッスン場になっている。

 新しいテナントが入る場所はない。


 店長は梨奈を睨みつけた。

「ОMG(あんたたち)が家賃を払わないから、社長が契約を解除したんだ。

 次のお客さんも決まった。とっとと出て行ってくれ」


  そんな


 櫛引先生の奥さんによると家賃は払っている。一か月分だけだけど。


「いわゆるひとつの追い出し屋ですね」

 ぬらりひょん杉沢さんの声がした。


「賃貸借契約の解除には時間がかかります。架空の賃貸借契約を結んで事務所を占拠させて立ち退きを迫る手段です。

 違法なんですけれど、暴力団が外国人を使ってやっています」


 話が諄い。

 なんだかわかんないけれど、やばい。


  劇場が乗っ取られる


「お兄さん、お姉さん、ありがとよ、侵入を防いでくれて」


 閻魔大王徳田さんがビルの前に座り込んでいる黒服、派手な衣装の人たちに声をかけた。


 そうか。

 南銀の皆さん、ОMGを守ってくれていたんだ。


「お~い! こっちこっち」

 市民会館の前にいたテレビクルーが現れた。


「リーダー」


 入口の奥から大和田灯里が出てきた。

 不安な表情。

 怖かったんだろうなあ。


「灯里、もう大丈夫だよ。すぐに、お巡りさんを呼んでくるから」

 

 杉沢さんは違法だと言った。警察に外国人を排除してもらおう。


「警察は来ないよ」

 大宮駅前交番に向かおうとした梨奈に店長は冷たい笑みを向けた。


「埼玉で月下さんに歯向かう奴は警察も相手にしない。

 弁護士も同じ。

 レッドラビットに殺されたくなければ、おとなしく出て行きな」


  なんで?


 パチンコ屋のオーナーさんは丸顔の穏やかなおじさん。

 家賃が滞っても許してくれていた。

 急にどうしたんだ。直接会って理由(わけ)を聞きたい。


「今のお話、本当ですか?」

 女性レポーターがマイクを店長に向けた。


 市民会館の前で梨奈を持ち上げていたテレビ築地のレポーター。

 後ろでカメラマンがレンズを向けている。


「埼玉は、赤い兎に支配されている。

 役所も警察も、月下家の支配下。

 岡林市長を追い出すんですか?」


 他のテレビクルーも店長を取り囲んだ。


「俺、難しいことはわかんないから」


 まずいと思ったのか、店長はパチンコ店に逃げ込んだ。


  ドドド~! 


 大宮駅の方から地響きがした。なんだ?


「ОMGを救え~!」

「オカリナ、俺たちが来たぞ~」

「灯里、待たせてごめ~ん!」


 ОMG劇場の常連さん。

 拳を振り上げ、大声で叫びながら押し寄せてくる。


「✕◆■▲~!」「●●✕▲■~!」「◆◆✕✕●~!」


 外国人たちが反応した。

 ОMGの常連さんを迎え撃とうとしている。


 やばい、衝突が起きる。


「みなさん、いけません!」


 梨奈は両者の間に駆け込んだ。


「大宮は愛の街です!」


 梨奈はОMGの常連さんに向かって両手を広げた。


「争いは、私が、許しません!」


 OMGの掟。


  アイドルは争ってはいけない


 ファンも同じだ。


「みんな! 停まれ!]


 先頭の爺さんが万歳のポーズをとった。


「オカリナが怒っているぞ!」


 常連さんたちの動きが止まった。


「やべ~、出入り禁止になる」

「ストップ、ストップ」


 よかった。

 常連さんたちが拳を降ろした。


 怒っちゃいないよ。

 駆け付けてくれてありがとう。


 よし、次は外国人だ。


「オオミヤ、イズ、ラブタウン」

 梨奈は外国人に語り掛けた。


「アイ、ラブ、ピース」


 中学時代、梨奈の英語評価は5段階の3。


「トラブル、駄目。ノー、グッド」


 外国人たちが怪訝な顔をしている。


  通じない


「岡林さん中学に戻って英語の授業を受けなおしなさい」

 お婆さんの声がした。


  やば


 中学の英語教師、大矢米子先生だ。松岡先生もいる。


 大矢先生が松岡先生に顔を向けた。

「松岡先生、岡林さんの中学卒業を取り消しましょう。私が鍛え直します」


  勘弁してくれ


「大矢先生、それだけは、お許しください」


  わはは~


 梨奈が手を合わせると騒動を観ていた群衆から笑い声が上がった。

 南銀の空気が少し和んだ。


「しょうがねえなあ、俺が話してやるか」

 ホスト風のお兄さんが立ち上がった。


「ヘイユー、〇◇▽□、〇〇△◇」

 外国人たちがお兄さんに顔を向けた。


 すごい。

 流暢な外国語。

 何語かな。


「オオミヤ、ク~シナ、ダヒ~メ、●◆▲✕~」


 外国人の顔色が変わった。


「ク~シナ、ダヒ~メ、●◆▲✕~」


  なんだ? 


 劇場入口に詰めかけていた外国人たちが逃げて行く。


 なんだかわからないが、よかった。 


「なにを話したんですか」

 梨奈が尋ねるとホスト風のお兄さんは大きなあくびをした。


「大宮には怖い奴がいるぞって、教えたんだ」


  ●◆▲✕~


 何か怖い響きがある。


「さ~て帰るか。眠む」

「私も帰ろ、シャワー、浴びたい」

 劇場を守ってくれたお兄さん、お姉さんが立ち上がる。


 梨奈は深々とお辞儀をした。

「皆さん、本当に、ありがとうございます。助かりました」


 公演用ではない。

 南銀の皆さんに心からお礼をしたい。


「いいってことよ。俺たちを世界一にしてくれよ」


  かっけ~


 お兄さんは軽く手を振って去っていった。

 

  ク~シナ、ダヒ~メ


 大宮の怖い奴。

 何者だろう。

 反社の人かな。

 ОMGのみんなに注意するよう言わなくちゃ。


  そうだ


 友麻くんにも、教えよう。

 梨奈は南銀を見渡した。


  いない


 残念。友麻くんの姿はない。南銀まで来なかったんだ。


 そうだよね。

 トップアイドルは忙しい。東京に戻ったのだろう。

 次に会ったら教えてあげよう。


  次


 友麻くんに会う機会はあるのかな。


  そうだ

 

 友麻くんは梨奈を応援してくれている。

 友麻くんを大宮市の観光親善大使に任命しよう。


 任命式は大宮市民会館。

 梨奈がビターバレーの事務所に行ってもいい。


  待てよ


 大宮市民会館は、本当に使えるの?

 観光親善大使って、どうやって任命するんだ。


 問題、課題山積み。

 どうしよう。


  


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