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第14話 独立四人組

「市長、すまない。俺たちが悪いんだ」


 お爺さんが歩み出た。


「俺たちは、昔、役所で仕事をしていた。

 今は、大宮の独立を市民に訴えている」


  ズル


 貰い泣きをしたのか鼻を啜っている。


 頭つるつる。ぎょろ目。大きな鼻と口。


  閻魔大王!


 憲法記念日、大宮南銀。


  おっと、兄ちゃん、あぶないよ


 梨奈と狂ジローの間に入ったお爺さん。


「合併すれば財政規模も大きくなって市民が幸せになると思っていた。

 

 だけど、浦和に騙された。大宮は浦和の植民地になっちまった。

 大宮を兎の配下にしちまったのは俺たちだ。

 すまない」


 閻魔大王は梨奈と円にツルツルの頭を下げた。


「罪滅ぼしと言っちゃあなんだが、市長、浦和の連中、職員を渡さないんだって? 

 だったら、俺たちを使えよ」


 閻魔大王は頭を上げると周りを指さした。


 南銀で人垣を作り梨奈を守ってくれたお爺さんたち。

 閻魔大王を含め四人いる。

 

「俺たちは、大宮独立運動四人組だ。

 みんな、定年で役所を辞めた。

 OBの連中に声かければ200人くらいすぐに集まる。

 みんな、暇、こいているからな。金なんかいらないぜ」


 頭が大きいお爺さんが、頭がツルツルの爺さんを指さした。


「オカリナ、この人、徳田久一さんは大宮市の助役をしていたんです。

 今の副市長ですね」


  ぬらちひょん


 南銀で梨奈にビラを渡したお爺さん。


「市会議員が要求してくる理不尽な案件を、ビシバシ却下するんで、大宮の閻魔大王って呼ばれていたんです」


  イメージ

 ぴったり


「四人組は、行政のエキスパートです。

 オカリナと働きたいって集まりました」


「衣偏に谷の杉沢裕、市長と働けて一番喜んでいるのはお前だろう」

 閻魔大王が混ぜ返す。

「このアイドル爺(じじい)が!」


  杉沢裕


 諄いファンレターの人?


「市長、杉沢裕(こいつ)は、司法試験を5回受けて駄目だったんだ。

 それで、大宮市の職員試験を受けた。

 俺が面接官だったんだけど、まいったぜ、話が諄くて」


  やっぱり


 お疲れ様でした。


「私は、昔から、大宮ファーストです。

 さいたま市の職員とは、ハートが違います」


 杉沢さんが区役所を指さした。


「合併は、間違いです。

 浦和は、大宮市民を見下しています」


  禿同!


 浦和は、月下ファースト。

 大宮に顔を向けていない。


「合併してから役所に入った連中は糞です」

 おっと、杉沢さん、問題発言。


「これからは、浦和の市役所は、しやくそ、さいたま市の区役所は、くやくそって呼びましょう」


  市や糞

  区や糞


 梨奈は、思っていても、口に出せない。

 

「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。

 日本国憲法第15条2項の規定です。

 逢坂や区や糞の連中の態度は憲法違反です。

 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

 憲法15条本文です。

 逢坂や浦和の県庁、市や糞、区や糞の連中は、全員、頸にしましょう」


 衣偏に谷の杉沢裕、話が諄い。いつまで続くんだ。

 

「こんな感じよ」

 徳田さんが、しれっと手を振った。


「ついたあだ名は、ぬらりひょん。

 関係ない職場に出没して意見する。仕事はできたけどな」


  見た目そのまんま


 でもなあ。


「ごめんね」

 梨奈は断って円を離すと、大宮独立四人組のお爺さんに向かい合った。


「お申し出、ありがとうございます。

 でも、お仕事をする場所がないんです。パソコンも机もありません」


 使えるのは古ぼけた市民会館だけ。まるで、お化け屋敷。


「市長、建物なら、わんさか、あるぜ」


  牛頭天王


 小太りのお爺さんがニヤッと笑った。

 赤く染めた髪の毛が天を向いている。


「逢坂の野郎は大宮市が建てた施設は使っていいって言った。

 逢坂は浦和のエリートだから知らない。

 大宮のほとんどの施設は合併前からあるんだ。

 さいたま市は浦和にだけ新しい施設を造っていたからな」


 そうか、東大宮コミュニティ―センターや春岡支所がある。

 どっちもぼろい。


「ひでえ話だよ。

 浦和の連中、大宮の税金を使って浦和にだけ立派な施設を造りやがってさ」


「神崎さん、市民会館は使えるんですか?」

「俺が管理していたんだ。任せろ!」


 ぬらちひょん杉沢裕さんが市民会館を指さすと、牛頭天王は胸を張った。


「さっすが、神崎さん、営繕の神!」

 ぬらちひょんが牛頭天王を持ち上げる。


「徳田さん、いい考えが浮かんだ」


  幽鬼


 真っ白な髪、こけた頬。

 片眼鏡をかけたお爺さんが前に出た。


  造反有理


 赤いボロボロの帽子を被っている。


「浦和が大宮に作った施設に固定資産税を課すんだ。

 逢坂がふっかけただろ、一時間の使用料、100万円って。


 浦和が建てた大宮区役所は事業用資産だって副市長様が認めたんだ。

 評価額まで出してくれた。300億だとさ。がっぽり取ってやろうぜ」


  お~! 


 お爺さんたちが感嘆の声をあげる。


「さすがは、秋山さん、税金取り立ての鬼」

 ぬらりひょんが拍手。


「鬼はねえだろう。ぬらりひょんに言われたくねえな」


  ニヤ


 秋山さんが口角を上げた。


「俺が取り立てた相手は、税金逃れをする金持ちだ」

 

  ゾク


 梨奈の背中に寒気が走る。


「相手は、みんな、自独党の支援者。徳田さんは俺を守ってくれたよ」


 税金取立ての幽鬼。

 赤い帽子は、角隠し、かな。


「造反有理ですね」

 ぬらりひょんが気安げに幽鬼の肩を叩いている。

「浦和には厳しい取り立てをお願いしますよ」

 

  閻魔大王 牛頭大王 幽鬼 ぬらりひょん


 大宮市役所は、建物も中身も、お化け屋敷。


 そうだ、学校はどうしよう。

 妖怪変化に子供たちの教育は出来ない。

 

「岡林さん、お久しぶりです」

  

 女性の声がした。


「立派になられて、先生、嬉しいわ」

「松岡先生!」


 梨奈の中学校の担任だった松岡康子先生が立っている。


「テレビを観て駆けつけてました。

 大宮の学校は、私たちに任せなさい」


 松岡先生の後ろにはお婆さんたちが続いている。


  いい香り


 大宮独立運動のお爺さんとは匂いが違う。

 みなさん、品が良い。


「先生は私たちがやります。

 みんな、元教師です。更新もしているわよ」


 お婆さんたちが頷いた。


「日本中の仲間にも呼び掛けています。

 浦和が言ったから大宮に移らない、学年の途中で子供を放り出す教師は要りません。こっちから叩き出してやりましょう!」


 黒かった松岡先生の髪は、真っ白。

 

「いい機会です。公務員も全部、頸にしましょう。

 役所の連中って、五時になったらダッシュで帰るじゃない」


 言動は、昔と変わらず過激。


「いやいや」

 閻魔大王徳田さんがおずおずと手を振った。


「俺たちは遅くまで仕事、していましたよ」


「どうせ、残業代が目当てだったんでしょ」

 閻魔大王を松岡先生が睨みつけた。


「あなた、憲法14条を言えますか?」


「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」


 自然と口から出た。


「岡林さん、ありがとう。

 私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。公務員の宣誓書です」


 公務員は不偏不党。


  嘘ばっかし


 浦和の県庁、さいたま市役所は月下レッドラビットの配下。

 埼玉県警は大宮市民を弾圧。

 副市長の逢坂は、奈良首相べったり。


「私は浦和の連中に言いたいです。

 恥を知れ!

 罷免要求をしてやるって」


 松岡先生、相変わらず、怖いなあ。


「孤立無援の大宮市に強い味方が現れました!」

 女性レポーターが大きな声をあげた。

「大宮市民会館の前には、岡林市長を助けようと、たくさんの市民が詰めかけています!」


  大げさだよ


 せいぜい10人。

 しかも。お爺さんお婆さんばかり。


「市民のみなさんは、自分たちの街、大宮を自分たちの力で作ろうとしています。

 忖度政治の自独党政権では見られない光景です」

 

  テレビ築地


 女性レポーターは、築地新聞系列のテレビ局の腕章を着けている。

 築地新聞は、アンチ自独党。奈良首相に嫌われている。

 

 雰囲気はいいけどさ。

 若者がいない。大宮市の運営なんて無理だよ。


「日本の未来はこのような草の根から生まれるのです。岡林市長いかがですか?」

 マイクが向けられた。


  よし、今だ


 辞任表明をしよう。


 集まってくるのは、お年寄りばかり。

 意気込みはありがたい。

 お年寄りは体力がない。


 ОMG劇場の声援。

 最初は大きな声を上げていた爺さんたちは途中で息切れ。

 アンコールはペンライトを力弱く振るだけ。


 大宮市民会館の前を行き交う若い人たちは、梨奈に視線すら向けない。


 ダメだね。大宮市はつぶれるよ。


「オイラたちも手伝いします!」

 若い男子の声がした。

「オカリナさん、一緒に頑張りましょう!」

 

  市長を辞めます


 言いかけた梨奈は息をのんだ。

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