↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/18

第13話 浦和の横暴

 6月15日月曜日午後2時。

 当選証書の授与式が大宮駅から徒歩15分の大宮区役所で行われた。


 ライトが煌々と光っている。

 大宮市長選挙は注目の的。ワイド・ショーは生中継。


  友麻くん、やったよ


 梨奈は心の中で渡辺友麻くんに話しかけた。


 宇都宮線の上級国民のお爺さんは観ているかな。

 大宮区役所は氷川参道の脇にある。

 授与式が終わったら必勝祈願をした氷川神社にお礼参りに行こう。


「それでは、すみやかに退出願います」


 証書の交付を受け、達成感でいっぱいの梨奈の前に警備員が進み出た。


「ここは、さいたま市の施設です。大宮市の方は無断で立ち入れません」


  なんですと?


「立ち入れないって、私は、どこでお仕事をするんですか?」


 梨奈は、さいたま市の副市長に顔をむけた。


  逢坂徹


 印字されたIDカードを首から下げている。


「さいたま市の予算で建てられた施設の所有権はさいたま市にあります」

 逢坂は冷たく答えた。


 大宮区役所は令和元年、2019年に建てられた。


「大宮市が会議室をお使いなられるなら使用料をお支払いください。

 明細はこちらです」


「小会議室使用料、一時間、100万円!」


  大宮市向け使用料金表


 渡された紙にはべらぼうな金額が書かれていた。


「大宮区役所は建設費だけで100億円かかっています。

 移管をお望みでしたら有償でお譲りします。

 大宮の一等地ですので地価も含めまして300億円くらいになります」


  300億円


 何メートルになるのだろう。

 供託金の100万円は一センチくらいだった。

 

  ニヤッ


 逢坂が口角を上げた。


「合併前に大宮が建てた施設、例えば昔の大宮市民会館や、大宮体育館についてはご自由にお使いください。

 さいたま市にから大宮に移る職員はおりません。

 職員もご自分でお探しください」


  安田、話が違うぞ!


「国会が紛糾しているんだ」

 安田は東京に行っている。


  逃げやがって


 梨奈は警備員により大宮区役所を追い出された。



  どうしよう


 梨奈は道路を隔てた旧大宮市民会館に顔を向けた。


  廃墟


 大宮市民会館は、中央デパートの跡地に建てられた大宮門街(かどまち)に、市民会館おおみやレイボックホールに名前を変え、移転した。


 旧市民会館は新しい大宮区役所と対照的に暗い無残な姿をさらしている。

  

「市長、さいたま市は、大宮市民が市内の公共施設を使用することを禁じました」

 証書授与式の取材に来ていた女性レポーターがマイクを向けた。


「ごみ焼却場や消防署もです。浦和にある市役所の指示です」


  浦和の横暴だ

 

「浦和は、さいたま市の職員が大宮に移ることを禁止する通達を出しました。

 教員の異動も禁止です。大宮に移る者は懲戒解雇にするそうです。

 退職金は支給されません」


  なんだって?


 区役所の窓には職員が鈴なり。

 レポーターに囲まれる梨奈を見下ろしている。


 梨奈を指さしてニヤニヤ笑っている奴もいる。


 建物も職員もいない。

 梨奈は独りぼっち。


「岡林市長、どうするんですか?」

 別のテレビレポーターがマイクを突き出した。

「パソコンも電話も机も職員もないんですよ」


 梨奈(こっち)が聞きたいよ。


「埼玉県庁は、県内の市町村に、大宮市への支援を禁止する指示をしています」

 新聞社の腕章を巻いた男性がレコーダーを向けた。


 埼玉県庁も浦和にある。


「浦和の知事室からこんなメールが出ています」


 別の記者が紙を差し出した。


  大宮市へは政権の最高レベルの意向に沿った対応を行うように


「浦和のさいたま市役所と埼玉県庁は、首相官邸の意向を忖度しています。

 これからどうされますか?」


 次から次へとマイクを突き付けられてもわかんないよ。


 梨奈は旧市民会館を見上げた。

 大宮市民会館は1970年に建てられた。


  8時だョ!

  全員集合


 聖地。


  長さん、助けて


 こんなボロい建物でどうやって仕事をすればいいの。


  職員がいない

  先生もいない

  学校はどうする


 梨奈には誰も忖度をしてくれないの?


「浦和の市役所と県庁は、あらゆる手段を使って岡林市長を辞任に追い込む考えのようです」


 レポーターの嬉しそうな声が響く。


  くそ~


 人の不幸は蜜の味。


「なんで図書館が使えないんだ!」


 大きな声がした。区役所の入口でお爺さんが叫んでいる。


「大宮市民は、さいたま市の図書館を使えません」

 職員が立ちはだかっている。


「文句や苦情は、あの人に言ってください」

 職員が梨奈を指さした。

「あの人が市長になったからです。建物の前にとどまらないでください」


  梨奈のせいかよ


「立ち止まるな。歩道に立ち止まらない」


  埼玉県警察


 パトカーからアナウンスが流れた。


「速やかに移動せよ」


 区役所の前には、図書館に入れない人たちが立ち尽くしている。


「お前たちは通行の妨げになっている」


 埼玉県警のパトカーの口調は高圧的。


  大宮の市民を


   お前


  呼ばわり


 埼玉県警察本部も浦和にある。


「すみやかに歩道を開けろ」


 機動隊が現れた。


「抵抗する者は排除する」


  ひどい


 埼玉県の警察は、盾で大宮の市民を排除する。

 

「やめてください!」 


  止めなきゃ


 梨奈は機動隊と市民の間に入ろうとした。


「おい、女! 浦和の敷地に入るな!」

 若い男が梨奈の前に立ちはだかった。

「ここは、神聖な浦和の領地だ。大宮市民は入るな。汚れる」


 なんて言い草。


  防犯課 小泉


 男はストラップを下げている。

 

 小泉は自分のストラップをテレビ・カメラに翳した。


「小泉で~す。大宮区役所の小泉で~す。

 小泉は、がんばっていま~す。次は私にお任せくださ~い!」


 小泉の顔はテラテラ輝いている。


「ひれ伏せ、大宮~!」

 大宮区役所からストラップを掲げた職員が飛び出してきた。


「小林トマホークで~す。

 恭治郎さんの邪魔をした岡林梨奈を追い払いま~す!」


 小泉、小林に負けるな!


  茂木、林、木原、野田、小渕、村井


 次々と区役所から飛び出してきた職員がIDを振りかざす。


 大きなメガネをかけた女が群がる職員をかき分けて前に出た。


「稲田です、稲田媛子、稲田で~す。出雲出身で~す。私を助けてくださ~い」


  稲田媛子


 自分の名前を書いたうちわを振りかざしている。何者?


  バサ!


「ご覧ください!」


  目玉が大きいブタ


 女帝、奈良たか子首相に可愛がられている大手町新聞の系列、大日本テレビのマークを付けたレポーターが叫んだ。


「大宮区役所に大きなのぼり旗が掲げられました」


  岡林市長の速やかな辞任を要求する

  さいたま市労働組合

  さいたま市教職員組合


「こりゃ、だめだ」


 梨奈は小さく呟いた。


 狂ジローを破って市長に当選。

 しかし、執務場所なし、部下なし。能力なし。

 労働組合から辞任を要求されている。


「リーダー、大変で~す!」

 チームMの今羽星名が走ってきた。


「大家さんが、今すぐ出て行けって押し掛けてきました! 

 月下さんに恥をかかせた奴を置いとけないそうです。

 灯里さんが防いでいます!」


  なんだと!


「わかった。私も今すぐ行く。それまでがんばるよう、みんなに伝えて!」


 パチンコ屋もレッドラビットに忖度。

 お遊びはこれまでだ。


「この場をお借りして市民の皆さんにお話をしていいですか?」


  市長を辞めよう


 市役所がない。職員がいない。

 市民の生活を、どうやって守っていけばいいんだ。


 逢坂は、教員、小学校中学校の先生も大宮に渡さないと言っていた。


  ダメだ


 梨奈が市長になったせいで、大宮の子供たちは学校にいけない。

 

 梨奈はレポーターに向き直った。


  市民のみなさんに迷惑をかけるわけにいきません

  市民のみなさん、子供たちの幸せを優先して市長を辞めることにしました


 梨奈に投票した人たちも許してくれるだろう。

 劇場も心配だ。

 早く戻って灯里に加勢しよう。


 梨奈はスーツの襟を直した。

 フラッシュが焚かれる。

 レポーターたちは一斉にマイクを差し出した。


  最初の記者会見が辞任会見かよ


 やっぱり、昨夜、当選会見をやればよかった。


  ばんざ~い

  なしよ


「リーダー、お久しぶりです」

 女性の声がした。消え入るようなか細い声。

「市長当選、おめでとうございます。リーダー、素晴らしいです。感動しました」


「まどか!」


 狂ジローにレイプされOMGを去った寿能円。


「今までどこにいたの? 元気だった?」

 脇には円のお母さんが立っている。


「レッドラビットが怖くて引きこもっていました。

 リーダー、家に何度も来てくれたのに、追い返しちゃって、ごめんなさい」


 ふっくらとしていた円は痩せた。二の腕も細くガリガリ。顔も青白い。


「リーダーが頑張っている姿をテレビで見て思いました。

 このままじゃいけない、私もレッドラビットと戦わなきゃいけないって。

 今日は、母に連れてきてもらったんです」


 カメラが向けられている。

 午後のワイド・ショーの時間、テレビ局は生中継をしている。


「私もお手伝いさせてください。レッドラビットなんか、もう、怖くありません」


「レッドラビットって何ですか?」

 女性レポーターが円にマイクを向けた。


 円が言葉に詰まる。

 やめて。円が倒れちゃう。


「レッドラビットは月下の後援会です。

 円(むすめ)は、月下恭治郎に人生をムチャクチャにされました」

 円に代わってお母さんが答えた。


「恭治郎は、円(むすめ)がOMGを辞めた後もしつこくつきまとってきました。

 月下の奴らは円(むすめ)を大宮のソープ・ランドで働かそうとしていたんです。

 何人もの娘さんが犠牲になっています」


  ホント? 


 ひどい。レポーターたちの顔つきも変わった。


「円《むすめ》が外に出るとウサギのバッジをした奴らが寄ってくるんです。

 レッドラビットです。

 奴らは監視している、逃げられないぞって姿を見せて円《むすめ》を脅迫していたんです」


「警察には相談されたんですか?」

 新聞社の記者の問いかけにお母さんは頭を振った。


「事件性がないと追い返されました。

 埼玉県の警察はダメです。

 月下の言いなりです」


 友麻くんがレッドラビットに取り囲まれても警官は見てみぬふりだった。

 今も埼玉県警の機動隊が大宮の市民を排除している。


「円、苦しかったんだね」

 梨奈は円を抱きしめた。

「ごめんね、なにもできなくて」


「いいえ」

 梨奈の胸で円は首を振った。


「狂ジローに立ち向かうリーダーを見て勇気が湧きました。

 私、もう、逃げたりしません」


 円は泣いている。

 梨奈は目をつぶった。


  円、ごめんね

  私、市長を辞めるんだよ


 急に加齢臭がした。


「泣かせるねえ」

 お爺さんの声。

 

 梨奈は目を開けた。


  何だ? 


 お爺さんが梨奈と円を取り巻いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。