第1話 ジンとパパとママ(下)
というわけで、ママからの許可も降り土日は神社へ遊びに--修行しに行くことになった。それをシュノに教えると、シュノも行くと言うので一緒に行った。
が、シュノはセンスが無かったらしく早々に諦め、同じくセンスが無くてなんかすぐに死にそうなおじいちゃんの孫の巫兎と一緒に、おままごとや塗り絵だとかをジンの修行風景が見える家の中でして遊んでいた。
ジンがまず覚えたのは、気、霊力、外の西側で魔力とか呼ばれている生命エネルギーの扱い方。これはすぐに出来るようになった。
その次に火を出すだとか風を起こすとか難易度が低めの術に、簡易結界。雨の日は、座感覚でやっていた事を言語化して理解する作業。また座学で実践練習する前に知識を頭に入れた。
ジンは確かに才能があった。
最初の土日で学んだことだけで、怪異を消せたからだ。
「ジン、お前さんが引っ越す前の土地で怪異を見なかったのは、それはお前さんが居たからだよ」
「なにそれ?」
「わざわざ怪異を倒さなくても時間が経てばこの土地、八生から怪異どころか幽霊も穢れた気も消えて、澄んだ土地になるという事だ」
「ほぉー」
「そして、ここに住まう生き物は全て気が良いものになる。二、三年いや一年も住み続ければここは、日本でトップクラスの安全な土地になるだろう」
「なぜ」
「だからな、お前さんが八生に居るからだよ」
どうやらジンは浄化作用があるらしい。と言っても無意識にジンが安全に住めるように、気を使って危ないモノを消していたようだ。
気の扱い方を知っている今、意識してそれらを消し始めたら元々無意識でやっていたのだから、ジンが意識しなくても消せるようになった。
それから、ジンが幽霊と怪異を見る機会が減った。おじいちゃんが言う通り一年、ジンが思うにそれよりも短く消してしまえそうだ。土地が澄めば住むモノ達も澄んで来る。
新たに八生に住まおうにも、土地が澄んでいたら陰の気が強い幽霊や怪異さらに妖怪だって生きるのが難しくなる。
シュノのママに聞いてみたら、シュノのママは「ジンちゃんのパパが似た性質で、四六時中一緒にいたあの人なんて出会った時、あの人凄い澄んでいたのよ。だから今更よ。危ないモノが減って有難いわ」と言った。なるほど。
陰の気、負の感情が強まったり夜の闇が深まる頃や、穢れまた死に近いとそちらに傾く。
陰と陽。全ての生き物はどちらも保有していて、種族や血によって割合は違うが、陰と陽がどちらかに傾いて生まれた時に定まった割合が崩れた時、良くも悪くも自身な大きな影響を与える。
元々人間では男が陽、女が陰と言われているように、男は陽に傾いているし女は陰に傾いている。例えるならホルモンバランスみたいなものだから、これが崩れたらどうなるかなんて、実例が社会に溢れているから分かりやすいだろう。
陽に傾くといいって訳じゃないけど、陰に傾くよりは断然いい。陰に傾いてみろ、元々陰に傾いている妖怪や、死んで陽をほとんど失ってタガが外れた幽霊に、陰の気から生まれた怪異は力が増してより強力で凶悪になる。
闇は陰に傾いている生き物が生きる場所。
夜は闇が深まるから、太陽の光、文字にもあるが陽が届かなくなるから世界全体で陰に傾き、危ない。
陽に傾いたらどうなるかも教えておこう。暖かくなったら分かるけど変態が増えるだろう。つまりはそういう事だ。
ジンがしているのは、陰を自身の陽で打ち消す事。それとプラスして浄化だ。
表面は綺麗になっても、内側には長年染み付いた汚れがあるから。
砂利に砂に泥、コンクリート。陸はミルフィーユの様に沢山重なって出来ている。水の濾過のする際に濾過装置内に留まるような汚れを、浄化の術を用いる事で、綺麗に出来て土地は澄む。
水清ければ魚棲まず。気をつけないと誰も住めなくなるけど、少しづつ慣れればみんな適応して住める。
一年もあれば、住人は必ずなれるだろう。新しい命は始めから澄んだ土地で育つことになるから問題無し。さらに外から来ても慣れるのに時間がかかるから、陰に傾いているモノほど住みにくく出ていくし消えていく。
あぁ、なんて素晴らしく、安全な土地。
ということを話すおじいちゃんに、ジンは話が長いなぁと心の中で文句を垂れた。
「一年、五年、十年。更に住み続ければ最早陰のモノ達は新しく住めないだろう。それなのに住まうことが出来ているのは、陽に傾いるか……」
「とってもヤバいやつ」
「そうだ。そんなモノに出会ったら、気を付けるんだよ。逃げは恥ではないからね、生き残ることを優先させるんだ。ジン、お前さんはまだ弱いから、必ず逃げるんだよ。--強くなったら、立ち向かってもよし」
「わかった」
新年、年が開けた。
あれからジンは最強への道を進み始め、度々おじいちゃんに腰を抜かせた。
「……え? なんで出来るの……? 怖っ」
「修行を初めて三ヶ月にも満たない子供に自分が何年もかけて習得した術を、目の前で十分足らずで習得しされる絶望を、他の修行しているみんなに見せてあげたい)
「最近の五歳児やばいわァ……引くわぁ……」
「他の五歳児が可哀想。一緒にしないであげて。ジンがアホみたいに才能があっておかしいだけよ」
次々に術を習得していくジンに、ドン引くおじいちゃん。その傍らで真顔でおじいちゃんに訂正を入れる巫兎。
失礼だなこの二人。ジンはジト目になった。おい、孫ぉ。お前のその兎耳ピコピコさせるぞという気持ちを込めて、目の前で風の術を使い枝を粉々に切り刻んでやった。
ちなみに娘夫婦の旦那が兎獣人なので、孫の巫兎は人間と獣人の混血なのだ。種族は獣人に属している。
「確かに強くなるし、強くする(意訳)みたいなことは言ったが、ここまで強くなるとは思わなかった。正直もう一人前だ。技術と知識だけなら。まぁ、まだ三ヶ月、まだ教えられていない専門的な知識も多い。だがそれ以上に、経験が足りない。経験がないのに知識だけあるのはどうかと思うのでな、誰か用意しよう。せめて戦闘訓練くらいはさせたい」
「……おじいちゃんはジンを何にさせたいんだ。戦闘訓練って」
「なぁに、自衛際の選択肢なんてものはいくらあってもいいし、戦闘経験なんて多いに役立つだろう。十歳になったら、少し強い敵を見繕って戦闘を経験させたいと思っている。--怪異でもいいんだが、戦う前に消しちゃうだろう? お前さん」
「まぁ……うん。見た目キモイし……」
おじいちゃんの言っていることは理解できるので、ジンはとりあえず暫くは体力を高め持久力をあげる運動をする事にした。
だって、おじいちゃんに教えて貰ったほとんどの術は使えるようになったから。
でも世界にはきっと、おじいちゃんだって知らない術が沢山ある。過ぎ去る時の中で失われた術もあるはずだ。ジンは出来ないことが出来るようになることは好きだった。
しかもアニメみたいなことが出来るようになるだなんて、ジンの子供心を掴んで離さない。ジンはバトル漫画が好きだったのだ。
なんて色々考えていると、巫兎とシュノが縄跳びを持ってやってきた。
「ねぇ、ジン!」
「なに」
「なわと--「縄跳びぃしよぉ」」
巫兎の言葉にシュノが被せて来た。巫兎は驚いてシュノを目と口を開けて凝視し固まっている。シュノはニコニコ。
そういえば、今日はシュノと朝からあまり話せていなかったなとジンは思った。
「いいよ」
「やったぁ!」
「……はっ! よしやろうっ!」
ジンは汗をタオルで拭って、縄跳びをシュノから受け取って飛び始める。シュノも始めた時に、巫兎は固まるのをやめて、二重跳びに挑戦していた。
ジンは駆け足跳びが好きだから、疲れるまでずっと駆け足跳びをして、シュノは後ろ飛び。そして何度も失敗して、ついに二重跳びを成功させた巫兎は、安定して二重跳び出来るように練習。
夕暮れになったら、枝根家で夕ご飯をジンとシュノは二人してご馳走になり、娘夫婦の旦那に家まで送って貰う。これが修行の日の当たり前。
夜空に浮かぶ二、三個だけ見える星を眺めながら、シュノと手を繋ぎ夜道を歩く。その後ろをジン達の遅い足取りに合わせて歩いてくれる、娘夫婦の旦那。
枝根家はいい人たちである。
眠る前にちょっと過去を振り替えって、ジンは一人頷きながら眠りについた。
「--ふふっ何頷いてるの? ジン」
「おじいちゃん達、いい人」
「そうねぇ。いい人達だわ。それじゃぁ、もう寝ようね。ママはまだ起きてるから、おやすみなさい」
「うん。おやすみママ」
そしておじいちゃんが連れてきた、戦闘訓練の相手は妖怪だった。
「妖怪のつて有るんだ」
「まあな」
赤錆色の長髪に、金色の瞳。中華風の服を着てる長身で仏頂面な男妖怪。なんだか、態度がデカそうな雰囲気してるなとジンは思っていると、妖怪はジンに近寄り膝を地面につけた。
膝を地面につけても、ジンの背よりも高い位置にある顔。でも立ってある時よりも顔が見やすくて、ジンは妖怪の気遣いに笑顔になった。
「俺様は、孫 悟空。お前を鍛え守る者だ。これから共にあることになる、長生きしろよ」
妖怪--悟空はそう言って、優しい笑顔を浮かべた。
「ジンは、江流 陳。ジンって呼んで」
「あぁ。--ジン」
これがジンと悟空の出会い。
この後、体術オンリーでコテンパンにされた。
「……つ、強いっ」
「はははっ! 当たり前だ! 孫様は強いぞ!……焦るなよ。ジンはもっと強くなれる。そもそも体も出来上がっていないしな。法術の習得とは違って、体は何年もかけて作っていかないといけない。どうしても時間がかかる、されられない事だ。--よしこれを見ろ」
そう言われてジンは悟空が見せてきた写真を見る。鶏ガラみたいな見た目した人写真の中にいた。
「見るからに骨と皮だけにみえるが、この者は強者だ。鍛え方にも種類がある。これはジンに教える鍛え方とは違う鍛え方を選び、さらに鍛えぬいた先の体だからな。--見た目に囚われないように。どんな見た目でも強者は紛れている。今日はこれだけ絶対に覚えろ」
「うん」
悟空はジンの頭をとんとんと撫でて、水筒を渡してきてジンを抱き上げた。ジンは水筒の水を飲みながら、悟空を見上げた。
悟空にとってはジンの訓練は汗をかく程の運動量ではないらしく、とてもいい匂いがする。
服をきっちり着込んでいて、悟空はだいぶ身なりに気を使っているらしい。
「悟空」
「なんだ?」
「んーん。呼んだだけ」
「そうか」
「うん」
ジンは悟空をギューッとした。




