禁忌
僕はライブラを出るために、魔法使いではなくあえて祓魔師を選んだ。理由はただ一つ。他の魔法使いの前でこの魔法を使うことはできないから。それに世界を旅してみたいという気持ちも強かった。
話は変わるが、悪魔を祓うためには3つの方法がある。
一つ目は札を使いそこに書かれた術式で祓う方法と、悪魔を取り憑いた対象から引き剥がして悪魔本体を倒して祓う方法、そして取り憑かれてしまった対象ごと破壊あるいは殺すという方法だ。
だが、僕はと言えばこのどれにも属さない祓い方を一番得意にしていた。それはもちろん時間魔法を使ったやり方。対象の時を悪魔が取り憑いている状態よりも前に戻すという方法だ。これの一番のメリットは、絶対に祓えない悪魔がいないということ。対象が取り憑かれる前の状態になってしまうんだから、それがどれだけ凶悪な魔法を使えるようになったとしても時を戻して取り憑かれる前の状態にしてしまえば、悪魔は消えてしまう。
そうして里を出て遺憾なく魔法の力を発揮して立て続けに悪魔を祓っていると、一瞬で悪魔を祓うことが出来る祓魔師が現れたとリルがあずかり知らぬところで噂になっていた。そんなことに気が付かないままたくさんの仕事をこなしていくと、一時期は最速の祓魔師と呼ばれるほどに名声は高まっていた。
魔法協会の人がやってきたのは、仕事の軌道にも順調に乗ってきて生活にゆとりができ始めた頃の事だった。魔法協会とは12の里全てに存在する組織であり、主な仕事は魔法を必要とする依頼の掲示や里の内外での魔法使いや祓魔師の管理だった。
そんなリルの前に現れた魔法使いもまた、魔法協会の本部への招集の通知を渡すためだった。
本来は協会から呼ばれることなんて無く、特に規則に違反した覚えがなかったので催促を無視しようかとも思った。だが行かないなら行かないで後で何かを言われるのもあれだったのでとりあえず招集に応じることにした。
魔法協会本部にその足で数日掛けて向かうと、中は神妙な趣でピリピリとした空気が肌からも伝わってくる。歩く度に酸素が薄くなって重苦しくのしかかってくる空気がとても気になった。こんな場所なら来なければ良かったと思いながらも何とか会合のある部屋の前までたどり着いた。
「失礼します」
そう言って扉を開けて入ると、そこには12人の各里の長達が長机に並んで座っていた。
「そちらへ」
そう言われると目の前に12番目の席が出現し、そこに言われるがまま座った。呼び出された理由も分からないままこんな場所に呼び出されて訳が分からないリルの表情を鑑みてか、向かいの方に座っていた一人の里の長が神妙な顔つきで口を開いた。
「突然呼び出してしまって申しわけない。ここまでわざわざ足を運んでもらったのは他でもない。君の魔法について話しておかなくてはいけないことがあるからだ」
僕の魔法? それも12人の里の長が揃うまでして話し合うことなのか? 魔法のことと言われても、僕が史上2人目の重力魔法の使い手だということ以外に1つだって心当たりがない。時間魔法の事だって僕はまだ誰にも教えてないだぞ。
だが、男が放った言葉は僕の思考を一瞬で停止させるには十分すぎるほどに強烈な内容だった。
「我々十二宮の面々で話し合った結果、君の魔法である時間魔法は禁忌指定とすることになった」
「は?」
突然の宣言に僕は戸惑いを隠すことが出来なかった。なぜ僕の魔法を知っている? 真っ先に浮かんだ疑問は禁忌指定という言葉の衝撃に全て押し流されてしまう。全て心の中を覗かれているようで、彼らに慄いた。気づけば緊張で、握った手が汗ばんで今にも垂れてしまいそうだ。
どういうことか理解ができない様子のリルを見て、ライブラの長が状況を説明を行った。
「君のその魔法は特異であり唯一無二。恐らく今後100年、いや1000年はその魔法を使える人が現れないかもしれない。だが、それ故にその魔法の価値は無限大に広がっていると言ってもいい。これまで禁忌指定となった魔法とは明らかにその汎用性の異なる魔法だ。時間の支配は世界の支配と同義と言っても過言ではない。君にその意思がなかったとしても、その可能性がある以上は魔法協会としてその魔法を認める訳にはいかないんだよ」
こんなの納得がいかない。それはつまり彼らにとって都合が悪いから排除するということじゃないか。リルもここで引き下がる訳にはいかない。
「それじゃあ納得がいきません。僕のこの魔法で今までどれだけの人を救うことが出来たのか分かってるでしょ? 祓魔師にも無理だとさえ言われていた悪魔を祓うことだって僕にはできるんです。協会にとってもこれは有益なことじゃないんですか?」
すると今度はとても低いトーンで重圧的に彼は言った。
「残念だが、それは協会にとっても害あるものだ。…………なぜだかわかるか? 君の魔法がある限り、この世界の全ての憑依者に憑いた悪魔は君だけで祓うことができる。それは裏返すなら私たちの存在は必要ないということなんだよ」
「さて、君自身は協会よりも上の権威に立つことが許されると本当に思うか?」
ここでリルは初めて自分の魔法の異質さに気がついてしまった。あらゆる悪魔を祓うことは必ずしも祓魔師たちにとっての救いになるとは限らない。結局、ただの一度もリルの魔法は世界に認められなかったということだ。
もう言い返す言葉も無くなってしまい、俯いて黙り込んでしまう。
「異論はないな?」
「……………………」
「ないな?」
「……はい」
こうしてリルの時間魔法は禁忌指定を受け、恒久的に使うことができなくなった。




