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悪魔祓いの跋渉録  作者: 日朝 柳
悪魔の王様
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時間の制約

 昔話をしよう。これは僕がまだ、隠れ里で魔法使いになる前の話だ。


 天秤宮の里ことライブラは十二宮の中でもかなり特殊な地形や背景のあり、なおかつその広さは一番と言っても過言ではない。それが直接的な原因ではないが、他の里よりも固有の魔法を開発を積極的に進めていたし、天秤の名を冠するのに恥じないために公正公平な秩序のある人が長となって民を導いていた。


 そんな里であったとしても決して触れてはいけないパンドラの箱というものはある。


 魔女の里は宝瓶宮と双魚宮以外は地下に隠れるように街があり、その中でもライブラは地下にアリの巣を広げたような複雑な街の形をしていた。とは言っても主に人が住んでいるのは上層であり、大きな空洞をいくつか作りながら広場や市場を形成している。


 しかしその中で一つだけ全く使われることのない大きな空洞が存在した。そこは世界の穴と呼ばれ、たとえそれが里の長であったとしても普段は立ち入りを禁止するほどに危険視されている場所だった。


 漆黒の如く暗いその穴は、光を一切通すことがない。世界の中心か、はたまた世界の終わりか。そんなことを知る余地は誰にもなく、だからといって誰も知ろうとは思わなかった。


 かつてはその中に入ろうとする者もいたらしいが、入ってしまったら最後、誰一人として帰るものはいなかったと言われている。そんな場所なのだから、誰もが恐れるのも当然だ。


 何者もそこから逃がさないということからあやかってライブラで生まれた子供達は最初にこの世界の穴の前に連れてこられ、禊の儀を行う。


 0歳、3歳、6歳、9歳と計4度に渡りその儀式は行われ、祈りを捧げるというのがいつからかの風習になっていた。それによって体内にある呪いを祓うという名目で。


 そういうこともあり、この里の人達は呪いが溜まった穴だという別の理由でも恐れることになり決して普段は近づかない場所。当然、僕もその中の一人になるはずだった。


――――――――――—―――――――――

 そのきっかけは、本当にごく些細でなんでもないようなことだった。


 十二宮の人々は、必ず固有の魔法を覚えてから魔法使いになるというのが条件となっているが、ライブラでは4種類ある固有魔法の中から自分の適性がある魔法を習得するということになっていた。


 その魔法というのは、錬金術、浮遊魔法、天候魔法。そして、重力魔法だ。


 だがこれはあくまで候補という話であって、実際はというと重力魔法以外の適正しか現れることが無いというのが通例だった。なぜそんなことになっているのかと言えば、重力魔法の適正を持っている人がこの里の創設者しか今までいなかったからだ。


 加えて、他の3つの魔法が重力魔法に劣っているかと言われればそういうわけでもない。十分に優秀な魔法だったことで人々の記憶からはゆっくりと忘れ去られていき、リルが魔法使いを目指した頃にはもはや存在すら語られることも無いものになっていた。


 そんな中、リルは天からの授かりものなのか偶然なのかは分からないが重力魔法の適性を授かってしまった。もちろん里中で大事件が起こったかのような大騒ぎになった。奇跡の再来だとか神の代行者なんて行きすぎたことまで言われ散々崇め奉られた。


 だがそうなることも致し方なかった。なんせ、里の創設者以来適性がいなかったのだから。そうして崇めてもなんら不思議なことじゃない。もちろん、リルだってその時は有頂天になっていた。


 最初そんな話を聞いた親はリルのことを褒めちぎっていた。それが嬉しくてたまらないとでも言うように、リルは色々とその魔法を自分から練習するようになっていった。でもある時に気づいてしまったのだ。リルがその重力魔法を習得していくうちに周りからは友達が少しづつ減っていることに。


 親はそのことに気づいてはいたが、それは今だけできっと大人になった時にはみんなが尊敬するようになるとまだ子供だったリルには難しい言葉で諭していたが、そんな親ですらリルが大岩に魔法をかけて見えないくらい遠くの天に向かって重力に従うようにして飛んでいったのを見た時には恐怖を覚えていた。


 そうして気づいた時にはもう、リルの味方は誰もいなかった。


 その時の僕にはきっと、自分の魔法も、世界の穴も同じように見えていたんだと思う。


 だから僕はそれから、重力魔法を自ら封印するようになった。そしてその代わりに雷魔法を使うようになり、重力魔法のことについて誰も何も言わなくなった。それこそ、僕がその魔法の適性を受ける前の時のように。


 雷魔法があれば友達も親も僕を恐れることは無くなる。本当に心落ち着く魔法だった。そうやってまたいつもの日常に戻ったというのに、それでも子供は好奇心に従って動いてしまう。それは何の前触れもない。


 ただ、ある時にふと思っただけなんだ。


 雷魔法と重力魔法を合わせたらどんな魔法ができるんだろうって。この時以上に、僕は自分の魔法の才を高く見積もったことは無いし恨んだこともない。だって、ただ頭で想像したことを杖を使って実践してみせただけなんだから。


 本来成し得ることの無いそれを、構築されるはずが無かった魔法を、僕は作り出してしまった。


 その魔法は、端的に言えば世界の理に触れてしまう代物だった。何もかもが僕との時の運行がズレていく。魔法を行使するほどに時はゆっくりと流れていって、遂にはその時すらも止めてしまう。つまり、その時に僕は生み出してしまったんだよ、時間を司る魔法を。


 これはまだ年若い僕だったとしても、絶対に人には言ってはいけない秘密だと分かっていた。当然、魔法使いの鍛錬を積んでいた自分の頭の中には”禁忌”の二文字が浮かぶ。だからこそ誰にもバレないように僕は一人でこっそりとこの魔法の真理を確かめることにした。


 時間魔法の中でも、僕自身が操作することができる時間と、操作することのできない時間の範囲があると、何度も使っていくうちに分かった。操作することができる時間は現在から過去までで、未来を操ることはできない。だが、その対象には制限が無かった。


 色々と試してみたところで、僕は自分の操ることができる時間に名前を付けることにした。世界そのもの、自分以外を対象に掛けられる魔法を『時渡し』、自身の時間を戻したり止めたりすることを『時渡り』と呼ぶことにした。


 時間魔法には対象と自分の魔力量に依存するという弱点はあったが、それがあったとしてもこの魔法に打ち勝てる魔法なんてきっと無い。そんな自信のせいか、この時の僕は最強にでもなったつもりでいたよ。


 僕は結局、この魔法のことを誰にも打ち明けないままライブラを出た。きっと僕が今、ライブラを出ることになったとしても魔法の事を言うことはなかったんじゃないかな。だって、どうなるのかなんて目に見えているから。

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