粉雪[11]
激動シーンから、今回は静のシーンへ。
少し落ち着こうね、麻衣。
亮さんは、強く瞼を閉じて…泣きたい気持ちを抑え、涙が流れないように必死で堪えていた…と思う。
宮地さんは、こんな馬鹿者の私を優しくハグし、背中をポンポンと叩いた。
私は宮地さんの上着を、私の涙で汚してしまった。
「本当にごめんなさい」
「ふふふ…いいよ。吐き出せたじゃん。全部じゃないし、気がかりな事もまだまだいっぱいあるだろうけど、モヤモヤは一旦横に置いて、次の週末の夢乃を楽しみにしようじゃん」
優しい。本当はとても優しい人なんだ。その優しさが、今の私にはとても痛い。
亮さんに、感情的に詰め寄った私。親友を亡くして辛いはずの亮さんに、この馬鹿女はさらに傷を抉るような言葉をぶつけた。
「亮に言っとくわ。私もね、彼奴が山に登るのは良く思ってないから」
「だって、人の人生って…」
「だからぁ、命は落とすなよってね。それしか言えないわよ」
「はい…」
「ちょっと休んだら? コレクションまでは、仕事にも余裕あるから」
翌日、ユウさんから言われた。宮地さんからも、同じ事を言われた。
だけど、今休めばもっと深く沈んでしまいそうで。要するに、今は誰かに縋っていたい。
人は皆、何かしら我儘な気持ちを抱いて生きている。この我儘は不要なものかもしれないけど、私の中では外す事の出来ないもの。
仕事に熱中出来れば、この苦しさだって紛れる。そうは思うのだけど…。
「痛っ!」
事もあろう、カッターで指を切ったり。
「やっぱり休め」
そんな声さえ飛び交う中、それでも誰かに縋っていたいから、私は休まない。いいえ、休めない。
自宅に居たって、話を聞いてくれる人なんて居ない。ベルグでは、あんな失態を犯してしまった。
私の居場所は、ここしかない。
頭を抱えていた村崎さんから、指示が飛び出した。
「谷山さん、寺町のお店見て来て」
「はい…何かあったんですか?」
「いえ、その…、彼女。田上さんを連れて行って」
私? 何でお店に?
ユウさんも一瞬キョトンとしたが、すぐに元気のいい声が響いた。
「はいっ!」
12月に入った。季節はもう冬。
西高東低の気圧配置の影響で、北からの強い風が頬を叩くように吹き付ける。こんな日にお客様など来るのだろうか。
寺町京極のアーケード。本能寺の前を通り過ぎて、三条通と交差したら、私達の会社が経営する直営店「TmC SHOP」が在る。
だけどその前に圧倒されたのは、外国人観光客の多さ。彼らには冬も平日も関係ない。京都が醸し出す「和」のテイストを求め、入れ替わり立ち替わり様々なショップに入店する。
「あのブラウスが発売になったら、こんな人達も買って行ってくれるんだろうね」
「まさか…」
「何言ってんの。自信持ちなさいって」
お客様に紛れ、私達も正面から店内に入った。
整理整頓された店内。誰かが商品を手に取り、棚に返せば、店員はその人の動きを見ながら、すぐにたたみに行く。そしてまた棚が整頓される。
次のお客様が商品を手に取りやすい。
もちろん整頓そのものへの報酬など発生する訳じゃない。サービスの一環として、当たり前にやっている事。
レジカウンターの奥の壁に、ふと目が行った。
「夢乃さん? 南条さんも」
「そうね。南条さんの事務所に所属しているアーチスト、結構着ていただいてるわ」
その隣に、とても可愛く美しい…女性? それとも?
「その横が颯希さん。男女両方の性別をお持ちのXジェンダーさんですよ」
店員の独特な話し口調。洋服を買いに行けばどこでも聞かれる、あの少し鼻にかかったような声。
「よく来られるんですか?」
「当店のヘビーユーザーです。スタジオ・Soundboxって言って、京都で結成されたバンドばかり集めてはる事務所の…」
「よく知ってますよ。実はね私達、本社工場トップス部門に居るんですよ」
「はああっ! すみません。気付かなくて」
ユウさんと私は、「大丈夫」と言って笑った。
笑う事で少し気が楽になったかもしれない。
そして、宮地さんと夢乃さんの関係も…、
少し見えてきたかもしれない。
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次回「粉雪[12]」
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