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粉雪[10]

「私は別にやりたいとも思わないスポーツを続けて、怪我して引退して、その時思いました。スポーツを極めた時、潤うのは自分だけ。早くに引退したら、その後の目標を何に持って行くの? 幸いだけど、私には服飾があった。人を輝かせる服を作りたいっていう夢が出来た。それは、私が夢を叶えた時、私の服を着たお客様が輝いてくれるっていう副産物みたいなのがあって、私の知らないところでも誰かが幸せを感じてくれるっていう、本当に素敵な生き方を選んだと思ってます」


 宮地さんは、腕を組んで聞いてくれていた。でも、同じ仕事をしている宮地さんだって、何もかも同じベクトルで動いているわけじゃない。目指す場所は同じでも、考え方は違うんだとも気付かされた。


「我儘だね」


 何? これだけ話しても、答はそんなもの?

 いいえ、違うわ。宮地さんの口元は緩んでいる。なんか、今にも吹き出しそう。


「我儘…ですか?」

「ふふっ…我儘よ」

「私が?」

「ううん、みんな…ね」


 宮地さんはそう言って、少し笑った。だけど私にしてみれば、笑い事じゃない。気が変になりそうな程に難しい。


「亮も、アンタも、私も。みーんな我儘放題よ。みんな生きたい道を歩いて生きてるんだ。それって素敵な事よ。いい? 田上。人にはね、通してはいけない我儘と通さなきゃいけない我儘があるのよ」

「通さなきゃいけないって?」

「そうね、アンタを例に挙げるとね…」


 あれだけ期待されていた陸上競技を辞めた。だけどそれは、私の人生において本当の意味で必要な我儘。

 服飾を選んだ事。両親、特にお父さんの思いを蹴飛ばして、本気でやりたいと思った事を仕事にし、成果を上げている事。


「成果が伴わなきゃ、単なる我儘で終わってしまうわ。だけどアンタは…正直に言うと、“向いてる”よ」


 ―はぁ。


「だけど、もし今、歩果に会ったらどうするよ? 今のアンタに、歩果を幸せに出来る力があんの? それ以前に、歩果の目の前で冷静で居られる? 私は無理だと思うわ。歩果の気持ちを第一に考えるなら、それは通してはいけない我儘だね」


 分かる気がする。ていうか、マジでその通りだわ。 でもじゃあ、亮さんはどう? 事故を目の当たりにしてまでも登山家でありたいというのは…?


「私は…、それは通すべきだと思う」

「でもそれって、誰が幸せになりますか?」

「誰かが幸せになるとか、そんな事は分かんない。少なくとも、亮自身とか市川さん、山崎さん、藤野君辺りは喜んでるよね。そしてね、同じように登山家を目指す人達が、勇気を貰える。どんなスポーツだって、そのてっぺんを目指す人にとって、先人の成功は勇気になるのよ。それだけで、登山っていうのも立派な仕事になる。もっと言うなら、素敵な仕事なのよ」


 勇気を与える仕事。

 私、間違っていたのかなぁ。だけど私は、歩果を悲しませたあの(・・)登山家だけは賛同出来ないし、やっぱり許し難い。

 どんな素敵な人であったとしても。


「許す、許さないも、人それぞれの気持ちだから否定は出来ないわ。でもねぇ、志半ばでの無念を否定的に見られる尚哉君も、甚だ気の毒だわ」



 大それた事をやらかしてしまったかもしれない。

 だけど山岳会の人達は、決してこんな私でも否定しない。


「貴重な意見だね。ありがとう」


 そう言って、寧ろ感謝の言葉を口にする。困らそうとしてこんな事を言う私を、不思議だわ、本当に否定したり怒る事もしない。


「それも、人の数だけ意見があるって事さ。さぁ、尚哉と話したんだ。歩果は俺の妹だから、幸せにしなきゃ許さないって。なのに彼奴…なのに…」

説得力、ありましたでしょうか。

対立する心を鎮め、かつ尊重する言葉。

すっごく考えましたよ。その時私、宮地佳代になろうと必死だったのです。


アクセスありがとうございます。

次回「粉雪[11]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

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