粉雪[12]
研修生の頃、最初の3ヶ月間はショップに入った。営業だとか接客を学ぶより、どちらかと言えば市場の流れを感じ取る事を教えられた。
その後も時々はショップに入り、季節ごとの流行や求められる素材などを含め、リアルなお客様の声を聞いたりもした。
それは宮地さんだって同じ。
デザイナーという仕事は、自身の持てるアイデアを形にするだけじゃない。
生地の素材がデザインそのものにまで影響する事もあり、素材を決めてから形を創り上げていく事も稀じゃない。
素材については磐田さんの豊富な知識が重要視されるけど、あの人はSNSでのエゴサーチばっかりやっているので、縫製担当のユウさんが素材まで提案している。
「リアルな声なら、SNSを活用しましょう」
これは磐田さんの提案によるもので、かなりの功を奏しているとも言える。
でもね、それ。結局はエスカレートして、リアルな声とか言いながら酷いリプライを送り付けるアンチにイライラしてるだけじゃないの!
「私は助かってるわよ。アンチが湧くっていう事は、注目されてるって事。参考になる意見だって多いのよ」
これは村崎さんから言われた言葉。
そんなこんなでTmCは、少量生産・販売の小さなブランドではあるけど、チームメンバーそれぞれの個性が良い形で表れ組み合わさって、自信を持って世に放てる製品を生み出していると思う。
Soundboxの南条さんは、自身がジェンダー・アライとしてLGBTQの方々を支援しておられ、自身も「TmCの衣服を上手く活用すれば、より個性的な衣装としてステージで使える」として、トップスからボトムスまで取り入れてくださっている。
オーバーサイズ設定は、実はこんなところに活きている。
失礼だけど、男性の南条さんが私服にすればアクが強い。だけどロックミュージシャンとしてステージに立つなら、その姿はとても格好良い。
そこに魅せられた颯希さんは、男性の体を持ちながらも女性的な容姿体形であるため、TmCを着用し始めると見事に映えた。
そしてその流れで夢乃さんも…というところだろうか。
颯希さんには、とても惹かれた。
今までとは違う。恋に近い感覚なんて皆無だ。だけど、この人がステージで映える衣装を、そしてカジュアルでも使える着回しの良い衣服を提供していきたい。
こんな気持ちで仕事に打ち込めば、辛い現状にも打ち勝つ事が出来るんじゃないだろうか。
いいえ、自分で辛いって言えるぐらいなんだから、きっと打ち勝てるはずよ。
「どう? 何か掴めた?」
不意にユウさんから訊かれ、戸惑った。
「はい」と答えるけど、とても滑舌は悪い。
掴めたものは多いけど、それを活かしていく自信は…、正直なところ、今私の心を引っ掻き回すその全てが、前を向きたい私の心の邪魔をしている。
颯希さんなら、身長はおそらく30代女性の平均レベル。女性的とはいえ、元は男性の体なのだから、やや肩幅は広め。
骨格ストレートの女性を想定するなら、モデルとしては適しているかもしれない。
私は、これからのTmCにオーバーサイズ設定でのスリーサイズ展開を提案した。
颯希さんならMサイズ、南条さんならLサイズが着用出来ると思う。
じゃあ、Sサイズは?
そう考えた時に、いつも脳裏に浮かぶあの姿。
少し前まで胸をときめかせてくれた、あの姿。
だけど今は、悪戯に胸を騒つかせる存在に成り変わった。
今のこの感情。
私の心の内に留めておくのがいい?
それとも誰かに話すのがいい?
じゃあ誰に? 誰がこんな話を聞いてくれるの? たぶん、私以外の人にとっては悩む程のものではないはずで。
そう思うからこそ、前に進めない。それも分かっていて、そんな全ての感情が絡み合って、自分自身をどんどん闇に突き落として行ってしまう。
光が…、
光が欲しい。
ただ…って言ったら失礼かしら?
兎に角、ただの失恋じゃなくて、自身の失態を機に離れてしまった歩果への想い…かな?
複雑な心の葛藤。
まだまだ這い上がれそうにないわね。
アクセスありがとうございます。
次回「粉雪[13]」
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