粉雪[8]
夢乃さんの元気な姿、そしてその輝きを目の当たりにして、私の心にも光が差し込み始めた気がした。
―歩果に謝らなきゃ。
メッセージアプリなど、失礼だと思う。面と向かって、自分の声で謝罪の言葉を伝えなきゃ。
あの日以来、歩果とは連絡も取れていない。
宮地さんに聞けば、今どうしてるのかも分かるかもしれないけど、そんな事しても意味がない。また友達に戻って、友達として楽しい時間を共有するためには、歩果に直接許しを請う必要がある。
私はそう思っているし、それは間違っていないと思う。
「私、歩果に謝りたい」
宮地さんの鋭い目線が私を刺す。
「どうぞ…」
そして冷ややかな返事。これが宮地さんなのだから、返事が返ってきただけでも幸せだと思う。
部屋の片隅で心配気に私を見るのは、ユウさん。
話せばきっと、相談には乗ってくれるだろう。だけど、ユウさんは尚哉さんの事を知らない。だから答なんて出る由もない。
そもそも答なんて、周りを探したところでどこにもなくて、それは私自身が引き出さなきゃいけないもの。
だから、宮地さんに相談したり報告したりするのもどうなんだろう。
宮地さんがどれだけ事情を知っていたとしたって、歩果私との間に起こった事に関しては無関係。あの電話だって、必要な事を必要な時に伝える必要のある相手にかけただけ。
だから宮地さんだって、私に対して何も言える訳もなく、聞く必要もないはずだと思う。
だけど私、今はとても苦しくて。
何でもいい。兎に角今思う事を言葉にしなきゃ、他への思考が止まったままなの。
仕事に熱中すれば、気も紛れる。
普通はそうかもしれない。
でも、違うの。私が仕事に熱中出来る理由、それは、私が作った洋服を歩果に着せたいから。
歩果に着て欲しいからなの。
好みかどうかなんてどうでもいい。歩果が着てくれるかどうかも関係ない。
ただ、仕事をしていく中で、そのゴールを想像した時にはいつも歩果の笑顔があるの。
夢乃さんが着るコレクション出展用のものは、もう完成した。あとは本番を待って、反響を見て市販化への判断をするのみ。
次なる情熱はやっぱり、歩果を可愛く美しく輝かせる事に向いてしまっている。
今置かれた立場なんて、言われなくても分かってる。なのに、なのに私ったら…。
「麻衣…、次は麻衣のデザインのブラウスよ」
ワクワクとドキドキに満ちた、私達の職場。そんな中に居て、明らかに表情の暗い私。
ユウさんは、そんな私を気遣って声をかけてくれた。
それには笑顔で応えなきゃいけない。
「ベルグ、行ってきます」
話が噛み合っていない。私のブラウスだって言うのに、私の頭の中を支配しているのは、歩果への想いしかない。
「私も行こうかな」
「いえ、今日は1人でで行かなきゃって思うんです」
こんな事言えば、余計にユウさんを心配させてしまうのに。
ユウさんは気付いている。私と歩果が会っていない事、私と歩果との間に何かあった事を。
「話したくなったら話してね。聞くぐらいなら出来るかもよ」
ごめんなさい。その優しさにさえ、私は「ありがとう」も言えない程にもがいているの。
慌てて廊下に飛び出した。
ユウさんの優しい声が、胸を熱くした。
込み上げる想い、溢れる涙を隠しきれず、私はまたいつものトイレに駆け込み、人知れず泣き伏した。
ただ会いたくて。
でも会えなくて。
私の瞳を濡らす切ない思い出は、あの煌びやかな笑顔とアニメチックヴォイス。
―歩果。会いたいよ。またあの楽しかった日々に戻りたいよ。
―歩果。
日は差し込み、また陰ってしまう。
何か刺激がある度に、また深まる想い。
誰も聞いていなくても、兎に角声に出したい想い。
こんな気持ちになった事、ありませんか?
アクセスありがとうございます。
次回「粉雪[9]」
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