表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/146

粉雪[7]

「良かったわぁ!」

「おめでとうございます!」


 職場に華やかなムード。私の気持ちとは裏腹に、明るい笑い声が飛び交う。

 いつまでウジウジしてんの、私。もっと上げていかなきゃ!


 一階のホールには、各部門の代表者が集結している。

 今回のコレクションは、トップス、ボトムス、アウター3部門がそれぞれ申し合わせ、綿密な打ち合わせが行われた。

 しかも、中心となったのは私達トップス部門で、宮地さんがチーフデザイナー。


 考えすぎかもしれないけど、もしチーフが夏川さんや村崎さんだったら、ここまでまとめられたのかしら。

 ぶっきらぼうで一目置かれる存在の宮地さんだけど、その情熱は、人を惹きつける力を持っているんだ。



「おはようございまーす!」

「お世話になります」

「先日はご心配とご迷惑をおかけしました。おかげさまで、今はこうして…」


 そこに煌びやかな笑顔で現れたのは、私達の衣服を纏い、ランウェイを歩く予定のモデルさん。

 ガールズ・バンドのヴォーカルとして活躍してきた、夢乃さんその人。


 何故宮地さんと夢乃さんが繋がっているのか、それは分からない。宮地さんは何も語らない。その話に触れようものなら、逆に宮地さんの逆鱗に触れてしまいそう。

 だけど、宮地さんが私にその音楽を勧めた理由は、何となく分かる気がする。


 知らず知らずのうちに、叶わないと分かっているはずの恋に走った事。

 直向(ひたむ)きな想いに自ら傷付き、それでも強くありたいといういじらしさ。

 そんな可愛い女性になりたいって、ずっと思ってた私。

 宮地さんは、そんな私の心の奥を知っていたかのように、夢乃さんのバンドである“淡色組織”の楽曲を勧めてくれた。


♪memory あなたの声が聴きたくて

  memory 何度も受話器を握りしめた

 震える指が テレフォンナンバー

   呼び出せなくて…♪


 ふと胸の奥に、その楽曲が流れた。

 切ない詞と優しいメロディに、私は何度も涙してしまった。


 今私は、可愛い女性になっているんだろうか。理想とはかけ離れた、醜い女になっていないだろうか。

 もし、少しでも私に女らしいところがあるのなら…。



「特に注目していただきたいのが、トップスのデザインを基にした、というより、そのデザインをアウターに変化させた点。それと、もう一着は、柄を持たずに和をイメージさせるトップス。この組み合わせなので、ランウェイ上で大胆にトップスを見せる仕草が欲しいんです」


 振付師? 私達の要望に対し、細かくメモを取って夢乃さんに指示している。


「ボトムスは、アウターと組み合わせて洋、トップスと合わせて和のテイストを併せ持つ洋。ここをアピールしたいわ」

「じゃあ、アウターをキッチリ着た状態で出て来て、キャットウォークでスパッと脱いでトップスを見せましょうか」


 そのアウターを脱ぐ仕草までが、流れるような振りとなる。素人の私から見れば、凄く無茶な注文にも思えてしまう。

 だけど、ライブでも衣装を脱ぎ捨てる場面をこなしてきた夢乃さんは、これを難なくやってのけた。


「いいね! いいね!」


 腕を組み、じっと見つめる事務所社長・南条さんの、その口角が上がった。


 ミュージシャンでヴォーカリストだった夢乃さんは、バンドの中でも楽器を持たない存在。

 その歌声と寸分の狂いもない音程、そして、自らが考案した舞うような振付で注目されていた。


 今回は音楽とは違うので、少し勝手も違ってくるのだろう。

 それでも、支持された振りは見事にこなしていく。

 こなす、即ち注文以上の事までもやってしまう。その応用力の高さも半端ないわ!

 心配なのは病状だけど、この様子なら今は大丈夫だよね。


 前回のプレゼンが中止された事で、酷いアンチぶりを披露した広報のおっさん…あ、失礼。その人も、結局満足してるんじゃない!


 そりゃあそうよね。こんな素敵な方が、弊社のモデルなのよ。

 本番が凄く楽しみだわ。

半端なく凹んでた麻衣。

でも、夢乃さんに会って、少し前向きになれたかしら?


アクセスありがとうございます。

次回「粉雪[8]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ