粉雪[7]
「良かったわぁ!」
「おめでとうございます!」
職場に華やかなムード。私の気持ちとは裏腹に、明るい笑い声が飛び交う。
いつまでウジウジしてんの、私。もっと上げていかなきゃ!
一階のホールには、各部門の代表者が集結している。
今回のコレクションは、トップス、ボトムス、アウター3部門がそれぞれ申し合わせ、綿密な打ち合わせが行われた。
しかも、中心となったのは私達トップス部門で、宮地さんがチーフデザイナー。
考えすぎかもしれないけど、もしチーフが夏川さんや村崎さんだったら、ここまでまとめられたのかしら。
ぶっきらぼうで一目置かれる存在の宮地さんだけど、その情熱は、人を惹きつける力を持っているんだ。
「おはようございまーす!」
「お世話になります」
「先日はご心配とご迷惑をおかけしました。おかげさまで、今はこうして…」
そこに煌びやかな笑顔で現れたのは、私達の衣服を纏い、ランウェイを歩く予定のモデルさん。
ガールズ・バンドのヴォーカルとして活躍してきた、夢乃さんその人。
何故宮地さんと夢乃さんが繋がっているのか、それは分からない。宮地さんは何も語らない。その話に触れようものなら、逆に宮地さんの逆鱗に触れてしまいそう。
だけど、宮地さんが私にその音楽を勧めた理由は、何となく分かる気がする。
知らず知らずのうちに、叶わないと分かっているはずの恋に走った事。
直向きな想いに自ら傷付き、それでも強くありたいといういじらしさ。
そんな可愛い女性になりたいって、ずっと思ってた私。
宮地さんは、そんな私の心の奥を知っていたかのように、夢乃さんのバンドである“淡色組織”の楽曲を勧めてくれた。
♪memory あなたの声が聴きたくて
memory 何度も受話器を握りしめた
震える指が テレフォンナンバー
呼び出せなくて…♪
ふと胸の奥に、その楽曲が流れた。
切ない詞と優しいメロディに、私は何度も涙してしまった。
今私は、可愛い女性になっているんだろうか。理想とはかけ離れた、醜い女になっていないだろうか。
もし、少しでも私に女らしいところがあるのなら…。
「特に注目していただきたいのが、トップスのデザインを基にした、というより、そのデザインをアウターに変化させた点。それと、もう一着は、柄を持たずに和をイメージさせるトップス。この組み合わせなので、ランウェイ上で大胆にトップスを見せる仕草が欲しいんです」
振付師? 私達の要望に対し、細かくメモを取って夢乃さんに指示している。
「ボトムスは、アウターと組み合わせて洋、トップスと合わせて和のテイストを併せ持つ洋。ここをアピールしたいわ」
「じゃあ、アウターをキッチリ着た状態で出て来て、キャットウォークでスパッと脱いでトップスを見せましょうか」
そのアウターを脱ぐ仕草までが、流れるような振りとなる。素人の私から見れば、凄く無茶な注文にも思えてしまう。
だけど、ライブでも衣装を脱ぎ捨てる場面をこなしてきた夢乃さんは、これを難なくやってのけた。
「いいね! いいね!」
腕を組み、じっと見つめる事務所社長・南条さんの、その口角が上がった。
ミュージシャンでヴォーカリストだった夢乃さんは、バンドの中でも楽器を持たない存在。
その歌声と寸分の狂いもない音程、そして、自らが考案した舞うような振付で注目されていた。
今回は音楽とは違うので、少し勝手も違ってくるのだろう。
それでも、支持された振りは見事にこなしていく。
こなす、即ち注文以上の事までもやってしまう。その応用力の高さも半端ないわ!
心配なのは病状だけど、この様子なら今は大丈夫だよね。
前回のプレゼンが中止された事で、酷いアンチぶりを披露した広報のおっさん…あ、失礼。その人も、結局満足してるんじゃない!
そりゃあそうよね。こんな素敵な方が、弊社のモデルなのよ。
本番が凄く楽しみだわ。
半端なく凹んでた麻衣。
でも、夢乃さんに会って、少し前向きになれたかしら?
アクセスありがとうございます。
次回「粉雪[8]」
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