粉雪[5]
クールだと思ってた。
突然溢れ出した、宮地さんの感情。
そして戸惑う麻衣。
「さぁ、私は曝け出したわ。みんなにじゃなくて、アンタだけに…なんだけど」
宮地さんは、涙ながらにそう言った。まさか歩果の事が原因で離婚だなんて、思ってもみなかった。
だけど、それは歩果のせいじゃない。
こんな壊れやすい子なのに、愛情もろくにかけてあげない両親…。だけど、両親が悪いのかと言えば、きっとそうでもないんだろう。
何をどう受け止めようと、他人の家族の事情だ。愛情がかけられないのなら、それ相当の事情があるに違いない。
誰も悪くない。歩果、そして宮地さん自身の運命がこうだっただけ。
―いいえ、ちょっと待って。本当にそれでいいの?
自身が結婚して、歩果も婚約。
これでやっと自分の人生を自分の時間の中で過ごせるはずだった。
なのに、歩果の婚約者である尚哉さんは、まさかの急逝。
ボロボロに壊れた歩果を救おうとすれば、夫とすれ違い。
そんな辛い境遇なのに、宮地さんはその全てを受け入れている。
何故? 聞いているだけで目眩がしそうだわ。
「それでね、私、宮地佳代っていうデザイナーじゃん。だから“宮地”からも離れられないの。ははは…。どうしたもんだろね」
少し苦笑いすると、宮地さんはもう一度私に近付いた。
「それでも、これは私の人生なの。否定なんてしたら、生きていけない。だから全て受け入れて、この境遇を楽しむのよ」
「そ、そんな…」
「田上麻衣っ。自分はどう? 自分の境遇を、どう受け止める?」
答えられない。人と違う自分にまだ戸惑う私。
「自分を活かそうとは思わない?」
「活かす? どうやって?」
「ふふ…。アンタ、何の仕事してんのよ。婦人服作ってんでしょ? 女性を輝かせようとする仕事なんだから、女性を愛せる心って有利と思わない?」
言われてみれば、本当にそうかもしれない。女性の立場から、女性が輝ける服をデザインする。そこに愛が重なれば…。
「だったら、言っちゃえばいいのよ。私は女性を愛する女性ですって。愛する人に着て欲しいから、服を作ってんだって」
愛する人に着て欲しい。それもズバリだわ。
ワンサイズ設定に異議を唱え、小柄な女性にもTmCの服を提供したい。
そんな想いは、歩果の笑顔と重ねて描いてきた。歩果の笑顔があるから、私はそれを輝かせるために一生懸命になれた。
恋は叶わなくても、愛する人がこの服を着て輝いてくれるのなら。でも…。
「分かるの。分かるんです。でもそんな、すぐに切り替えられませんよぉ」
なす術も分からずにもがく。もがけばもがく程に涙が溢れ、言葉がネガティヴになる。だけど、宮地さんはそれを否定しない。
「そんなもんだよ。人って弱いものだから。だけどね、服飾に携わる人って、誰もがみんな、誰かを輝かせようとしてるんだよ。私だってそう。夢乃の歌に感化されて、夢乃をもっと美しくしたい一心でやってきた…」
言葉が途切れた。随分と時間が流れた気がする。
この静寂の後の言葉が怖かった。
そして静かに、宮地さんの涙声が聞こえた。
「もうすぐお別れになるかもしれない。だから、あの子の最後のステージは、あの子を思いっきり輝かせたい。私なら出来る。出来るはずなの。だって、アンタ達が居るから」
正直言って、私には重い。この戸惑いは、きっと顔に表れていると思う。だけど、力になりたい。ならなきゃいけないんだ。
そう思った私は、強張りながらも真剣な気持ちで頷いた。
宮地さんは続けた。
「そしてね、このプロジェクトが終わったら…」
「はい…」
「新しいステージへ進むのよ。アンタもそのつもりでね」
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次回「粉雪[6]」
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