表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/148

粉雪[3]

 曝け出すっていったって、どのように? 同性愛なんて、差別対象じゃないの?

 抱え込んでいれば、苦しむだけ。それは分かるんだけど。でも、人に話すのも怖い。


 宮地さんは言う。


「伝える必要もないわ。もっと自然体になりな」


 人は“心”を持つ生き物。

 心というものは、見えないけどその人の全てを表すもの。

 一人ひとり、合う仕事も違えば趣味も違う。好きになる人だって、違う。違って当たり前。

 それは、個性なのだと。


「好きなものを好きって言えずに生きて、それは自分にとって楽しい生き方だと思う?」

「いいえ。でも、今までそんな生き方してきたと思います」


 胸が痛い。

 宮地さんの言う通り、本当の心を隠して生きていくのは辛い。私ももちろんそう思う。


 陸上に打ち込んだあの時から、私は常に自分の本心を隠してきた。全てを曝け出すなどしたら、家でも居場所がなくなる。

 変な話ね。でもそんな家庭だったから、あんな怪我をするまで、好きでもないスポーツに必死になってきた。


 陸上を続けられない足になった事で、あの家での私の居場所なんて、もう既になくなってしまっている。

 家に居ようがそうでなかろうが、特に父は私に無関心だ。


 言いたくても言えない。そんな環境だった。そう、何事に関しても。


「私、もし恋が叶うって言うのなら、何でも曝け出せると思います。1人の人として、純粋に恋したいんです。自分を隠してたから…違う、自分に気付けなかったから、恋らしい恋なんてした事がなかったんです」

「恋…かぁ」


 デリケートで難しい問題なんだ。それは私自身が一番分かっている。

 同性へ抱く恋心を誰かに話したとして、その瞬間だけは気持ちが晴れるだろう。

 だけど、人は多数派に流れるもの。そして、少数派は嫌われるのが常。結果煙たがられ、居場所を失うんだと、私は聞いた話からそう感じている。


 歩果に出会って、共に行動して、初めて気付いた自分のマイノリティな心。

 今になって思えば、久松美咲にTシャツを作ろうと思ったその行為が、既に同性への興味を表していたんだと思う。


 その時は気付かなかった。

 私が恋をするとしたら、そら君しかないと思っていた。


 2回目の恋は、ユウさんだったのかもしれない。

 “出来る先輩”として憧れを抱いた、その心も…、恋だったのかもしれない。


「ねぇ、宮地さん。人って、そんなに自分を曝け出せるものなんですか? 宮地さんだって、何か抱えているものがあるんじゃないですか?」

「私がそうだったとして、それを聞いてどうなる?」

「曝け出せって言うけど、曝け出せていない人に言われているのなら、かえって辛いわ」


「ほう…」と言って、宮地さんは窓の外に目をやると、


「そっくりそのまま返すわ」


 そう言ってもう一度私の方へ振り向き、人差し指を立てた。


「論点すり替えようと思ってる?」

「あ…い、いえ…」

「今、誰の話するためにここに居るか分かってる?」

「はい…」

「大事な話。アンタがどうありたいか、その話よ。答え出せずにいるから、話を聞こうと思ってんじゃん」


 どうありたい? 私、どうありたいの? あまりにもざっくりしていて、何も整理出来ないわ。


「やらかした事に関しては私が絡んでるんだから、私もちょっと考えなきゃだけど」

「あの…まず、そこを知りたいです」

「そう…か。意味が分からなきゃ、話は進まないか」


 宮地さんは、おもむろにスマホを取り出した。そして、電話をかけ始めた。


「あ、谷山? うん、ちょっと時間かかりそうだから。そう言っといて」


 時間が?

 そんなに複雑なの?

アクセスありがとうございます。

次回「粉雪[4]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ