粉雪[3]
曝け出すっていったって、どのように? 同性愛なんて、差別対象じゃないの?
抱え込んでいれば、苦しむだけ。それは分かるんだけど。でも、人に話すのも怖い。
宮地さんは言う。
「伝える必要もないわ。もっと自然体になりな」
人は“心”を持つ生き物。
心というものは、見えないけどその人の全てを表すもの。
一人ひとり、合う仕事も違えば趣味も違う。好きになる人だって、違う。違って当たり前。
それは、個性なのだと。
「好きなものを好きって言えずに生きて、それは自分にとって楽しい生き方だと思う?」
「いいえ。でも、今までそんな生き方してきたと思います」
胸が痛い。
宮地さんの言う通り、本当の心を隠して生きていくのは辛い。私ももちろんそう思う。
陸上に打ち込んだあの時から、私は常に自分の本心を隠してきた。全てを曝け出すなどしたら、家でも居場所がなくなる。
変な話ね。でもそんな家庭だったから、あんな怪我をするまで、好きでもないスポーツに必死になってきた。
陸上を続けられない足になった事で、あの家での私の居場所なんて、もう既になくなってしまっている。
家に居ようがそうでなかろうが、特に父は私に無関心だ。
言いたくても言えない。そんな環境だった。そう、何事に関しても。
「私、もし恋が叶うって言うのなら、何でも曝け出せると思います。1人の人として、純粋に恋したいんです。自分を隠してたから…違う、自分に気付けなかったから、恋らしい恋なんてした事がなかったんです」
「恋…かぁ」
デリケートで難しい問題なんだ。それは私自身が一番分かっている。
同性へ抱く恋心を誰かに話したとして、その瞬間だけは気持ちが晴れるだろう。
だけど、人は多数派に流れるもの。そして、少数派は嫌われるのが常。結果煙たがられ、居場所を失うんだと、私は聞いた話からそう感じている。
歩果に出会って、共に行動して、初めて気付いた自分のマイノリティな心。
今になって思えば、久松美咲にTシャツを作ろうと思ったその行為が、既に同性への興味を表していたんだと思う。
その時は気付かなかった。
私が恋をするとしたら、そら君しかないと思っていた。
2回目の恋は、ユウさんだったのかもしれない。
“出来る先輩”として憧れを抱いた、その心も…、恋だったのかもしれない。
「ねぇ、宮地さん。人って、そんなに自分を曝け出せるものなんですか? 宮地さんだって、何か抱えているものがあるんじゃないですか?」
「私がそうだったとして、それを聞いてどうなる?」
「曝け出せって言うけど、曝け出せていない人に言われているのなら、かえって辛いわ」
「ほう…」と言って、宮地さんは窓の外に目をやると、
「そっくりそのまま返すわ」
そう言ってもう一度私の方へ振り向き、人差し指を立てた。
「論点すり替えようと思ってる?」
「あ…い、いえ…」
「今、誰の話するためにここに居るか分かってる?」
「はい…」
「大事な話。アンタがどうありたいか、その話よ。答え出せずにいるから、話を聞こうと思ってんじゃん」
どうありたい? 私、どうありたいの? あまりにもざっくりしていて、何も整理出来ないわ。
「やらかした事に関しては私が絡んでるんだから、私もちょっと考えなきゃだけど」
「あの…まず、そこを知りたいです」
「そう…か。意味が分からなきゃ、話は進まないか」
宮地さんは、おもむろにスマホを取り出した。そして、電話をかけ始めた。
「あ、谷山? うん、ちょっと時間かかりそうだから。そう言っといて」
時間が?
そんなに複雑なの?
アクセスありがとうございます。
次回「粉雪[4]」
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