粉雪[2]
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようさーん」
明るい挨拶から始まる、月曜日の朝。みんな、どんな3連休を過ごしたんだろう。
私が過ごした3連休。とてもじゃないけど、人に語れるものなんかじゃない。悟られないように、笑われないように、一生懸命笑顔を繕って見せる。
―あぁ、何てぎこちないんだろう。
「おはよっ」
いつものように軽やかな挨拶で、ユウさんは私の肩をポンと叩く。
「おはようございまーす!」
元気を装って、私も精一杯声を張り上げて挨拶をしてみる。でもそれ、歯を失った歯車の如くグルグルと空回りしているよね。
「田上!」
ドアの外からあの呼び捨てる声が聞こえて、私は振り向いた。佳代ちゃん…歩果がそう呼ぶ人、宮地さんがそこに居る。
もう駄目。その顔を見た瞬間に、私の心はガラス細工が壊れるように砕けた。
「宮地ぁ〜ん…」
なりふり構わず駆け寄って、思わず抱きついてしまった。
宮地さんは、そんな私をガッシリ受け止め、優しく抱きしめてくれた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
何も伝える言葉が浮かばず、ただ「ごめんなさい」を繰り返すだけ。
「わかったよ。こっち…おいで」
かつてない程の優しい口調で、宮地さんは私の背中をポンポンと叩き、またあの倉庫へと向かった。
私は今にも崩れそうなおぼつかない足取りで、その背中を追った。
「まず言っとくね。歩果、夜行バスで帰って来た」
「はい…」
「私ね、田上が歩果と一緒だって知らなかった。電話からアンタの声がしたから、ほんとビックリしたわ」
「言わなかったですね。ごめんなさい」
「ううん、それは謝る事じゃないじゃない。だって、旅行行くからって、いちいち誰と行くとかは普通話さないだろ?」
「はい…」
早めの入浴、早めの食事。歩果は軽井沢を20:23発の大阪行バスに飛び乗ったという。
兎に角無事に帰ったという事で、胸を撫で下ろした。
「私、歩果の言う佳代さんが、まさか宮地さんの事とは思ってなくて…」
「そうよね。言ってないもん」
宮地さんは、私がユウさんと話す中で“ベルグ”という名称から、歩果との関わりを察知したと言う。
そう言えば、私達の盛り上がる様を見て、「深入りするな」って。そう言われたのを、ふと思い出した。
「奔放に見えて、人一倍壊れやすいのよ、あの子」
ADHD…。
奔放な性格として片付けられてしまいそうだけど、確かに多動性や衝動的部分が見られた。
取り分け家庭内ではそれらが強く表れ、子供の頃から両親共に手を焼き、歩果が中学生の頃にはもう、疲れ果てて無関心になってしまった。
「私はすぐ近所に住んでてね。親同士が仲良かったから、その流れで歩果ともよく遊んだわ。衝動的な行動を、両親は凄く怒ってた。でも私は何故か、それも歩果の個性として受け止める事が出来たわ」
だから互いのご両親より、宮地さん、亮さんと、歩果の繋がりが強く深くなった。
そんな風に、宮地さんは語る。
「ちなみに私は、元々からこんな性格よ。ぶっきらぼうなんで言われるけど」
「はい」
「あとね、もうひとつ言っとくわ。田上、アンタ…、同性愛よね? レズビアン」
今度は、胸を引き裂かれるように痛みを感じた。
宮地さんは、私が自身レズビアンである事に気付く前から、見抜いていたようだ。
「目で分かるわ。歩果の事を話す時の目」
「私…、どうしたら…」
宮地さんは、少しだけ間を置いて囁いた。
「自分を認めて、曝け出せばいいよ」
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次回「粉雪[3]」
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