表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/150

粉雪[1]

大変な事をしてしまった麻衣。

ここから苦悩の日々が始まります。

第8話「粉雪」スタートです。

 特急しなの8号名古屋行。


 列車は長野駅を、定時の10時ちょうどに発車した。

 街並みから山へと変わっていく車窓をボーッと眺める、私はひとりぼっち。

 今にも溢れ出しそうな涙を何とか堪え、焦点の合わない瞳で、ただ変化していく車窓に意識を持って行こうと、胸の奥で必死にもがいている。


 全て私が悪いんだ。それは間違いない。

 事もあろう、恋心を抱いてしまった私が。

 恋に気付いた瞬間から、我を制御出来なくなった私が。


 初めての、本気の恋。

 その相手は、同性。

 きっとそれは、間違いなんだ。

 女は男性を好きになる。そうあるべきなんだと思う。



「麻衣ちゃん!!!」


 宮地さんからの電話を受け、それが私のものではないと気付いた刹那、背後から大声が私の体を突き抜けた。


 間違いとはいえ、自分のスマホを手に他人の電話を受けている私の姿は、歩果から見れば信じられないものだろう。

 怒るのも当然だし、そんな醜態を目の当たりにすれば、最早信用など出来る訳もない。そんな私なんかと一緒にいられる訳など、あるはずもない。


 目の前が真っ白になった。

 その瞬間に起こってる事態さえも、頭の中で整理がつかなかった。

 歩果は自分のスマホを取り返そうとして、私を突き飛ばしたのだと思う。強い衝撃を受けた事は、記憶の真ん中に残っている。


 ゴソゴソと重苦しく鳴る音。

 私はただ畳の上に倒れ込んだまま体を起こす事もなく、背中で歩果の動きを追っていた。


 しばらくして、テーブルに何かを叩きつけるような音と共に、「さようなら」という声が微かに聞こえた。涙声のようだった。

 そしてドアの開く音がした。


 歩果は去って行った。

 テーブルの上に残されたのは、本当は受け取るべきではないホテル代。

 私はこれを、財布とは別の場所に入れた。


 何も言えない。

 何も出来ない。

 無事に帰って欲しい。そう祈るのみだった。



 今、私は歩果と一緒に乗るはずだった電車に乗り、2人で楽しみたかった車窓を眺める。姨捨や寝覚の床などの絶景。なのに感動を覚える事もなく、ただ自分の愚かさを恨み、噛み締めてたまま、その美しいであろう車窓を眺めている。


 有頂天からの、奈落の底へ転落。そんな感じ…だろうか。


 およそ3時間、列車は名古屋に着いた。

 人の流れに呑まれないよう、そそくさと新幹線ホームに向かう。駅には売店や飲食店がいくつも在るのに、今の私には食欲など1ミリもない。ただ真っ直ぐ京都へ帰るだけ。早く、早く帰ってしまいたい。


 3連休最終日。わずか35分の乗車で着席など、気が引けるだけ。私なんかデッキで立っていればいい。罰ゲームも同然。何ならバケツでも持とうか?



「尚哉君の3回忌…」


 3回忌…。尚哉さん、2年前に他界してる…? だって、歩果の口ぶりじゃ…?


 ようやく自分の事への動揺が落ち着いてくると、ふと宮地さんの電話の声が思い出される。


 2年前、何があったんだろう。

 当時の私は、山の事なんて興味もないし、知る由もない。

 だけど、歩果と宮地さんの温度差を、確かに感じた。


 尚哉さんが亡くなったのなら、歩果は…? 葬儀にも行かなかったと? 宮地さんはそう言ったはず。



 そんな事を考えてたら、歩果の笑顔がまた脳裏に現れる。駄目。耐えられないわ。


 ドアの窓におでこを押し当て、強く瞼を閉じた。それでも涙という奴は、どこからともなく流れてきやがる。


 泣くもんか!

 そんなのはただの強がりだわ。


 私、泣きたい。めちゃくちゃに、ボロボロに、なりふり構わずに泣きじゃくりたい。

 自分自身で壊し、行き場をなくした夢。大好きな歩果にもう会えないのなら、涙で思い出を流してしまいたい。


 だけど、そんな事すら出来ずに…。


 それでも私、やっぱり歩果を愛している。

アクセスありがとうございます。

次回「粉雪[2]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ