夢の行方[23]
「夢の行方」最終話。
2人の関係はどうなるの?
麻衣の夢は?
「何号室だっけ?」
「鍵に書いてあるよ、ほら」
「あ、203号室ね。え〜っと…」
「ここが207だから、この廊下を真っ直ぐだね」
部屋の鍵を開ける。一度入った部屋ではあるかと、あらためてその豪華さにため息を漏らした。
テーブルを挟み、私と歩果は向かい合って腰を下ろす。
「えへへへ…」
「きゃはは…」
目の前に、ニッコリ笑う歩果。何だか照れ臭くなって苦笑いした。
今の今までキャッキャと騒いでいた2人だけど、部屋で2人きりのになると何故かよそよそしい。
昨日の旅館とは違って、妙義山チームとは別のホテルに居る私達。今は、完全に歩果と2人きり。そして、気付いてしまったが故に、さらなる高揚感で心臓が激しく鼓動を打つ。
「うふっ、麻衣ちゃん、何か…緊張してる?」
しない訳がない。豪華な部屋もさることながら、歩果とこの部屋で2人きりなのだ。
折角のこの素敵なひとときなのに、話す言葉を失ってしまった。
そんな“間”を察知した歩果は、お風呂が気持ち良かったからと言って、またタオルを持った。
「お風呂、良かったよね! もう一回入って来ようかな。麻衣ちゃんはどう?」
「あ、私は…」
返事に詰まってしまう。
さっきの入浴で歩果の体の全てを見た私は、刹那、事もあろう高揚してしまった。
そんな胸の内、今はまだ知られたくない。きっとこれからも、知られてはいけないんだ。
「あ、わ、私…。あとで。ちょっと酔ったから、少し覚めてから行くわ」
そう言って誤魔化し、私は2回目の入浴を遠慮した。
「じゃ、行ってくるね」
「ごゆっくり〜」
歩果は閉めかけたドアの隙間から手を振った。ドアが閉まると当然見えないのだけど、きっとまたあの跳ねるようなステップで大浴場へと向かったに違いない。
そんな姿が目に浮かぶ。歩果ばかりを見てきた。歩果の行動は、大方想像するに容易い。そして、妄想の中の後ろ姿に笑みを溢さずにいられない。
歩果を送り出し、私はこの部屋で1人きり。
そうなると、いろいろ余計な事を考えてしまう。駄目だと思いながらも、あの透き通るような白い肌を思い出してみる。
そして自己嫌悪…。
「はぁ〜…」
部屋の隅に置かれた、歩果の荷物。シンプルにまとめた着替えの衣服が、バッグから少しはみ出している。
私はそのスエットに手を触れると、そのまま頬に当ててみた。
いい香りがするような気がした。
―ダメダメ! こんな事しちゃ。
気を取り直してスマホを手に取り、今日1日の行程を振り返ってみるものの、気持ちはどうしても落ち着かない。
―あぁ、もう。
―BOOM BOOM BOOM…
突然スマホの震える音が響き、私の如何わしい思考を切り裂く。
―はっ! 電話だわ!
電話がかかっている。
少し焦ってしまった私は、手に持っている物が何かも考えず、テーブルに置かれたスマホに目をやった。
「宮地佳代…えっ!? 宮地さん? 何かあった!?」
表示された発信者の名前。
私は慌ててそのスマホを手に取ると、応答ボタンに触れてしまった。
「あぁ、歩果。佳代だけど。今、どこに居る? 電話大丈夫?」
―歩果? 宮地さんが?
「もしもし! 歩果。この前言ってただろ? 尚哉君の3回忌…」
「さ、3回忌!?」
「そうよ。お前、葬儀も行かなかったじゃん。3回忌、参列までは言わないけど、後で食事会あるからその出欠だけでも早く…って、え? 誰? 歩果じゃないの? え? 田上? 田上よね? 何で???」
―こ、これ、歩果のスマホだわ!!
まさかの間違い。私は右手に目をやった。確かに握られている私のスマホ。
―な、何て事…。
自分のスマホを手に持っているというのに、その事も忘れて、事もあろう私は、歩果のスマホにかかった宮地さんからの電話に出てしまっていた。
「ご、ご、ごめんなさい。あ、あ…」
そのまま私は固まり、両手にスマホを握ったまま動けなくなってしまった。
その刹那…、
「麻衣ちゃん!!!!!」
歩果の、叫びにも似た声が私の名前を呼んだ。
目の前が、頭の中が、全て真っ白になった。そして私は、ポカンと口を開いたまま石像のようになってしまった。
「麻衣ちゃんっ!!!」
アクセスありがとうございます。
第7話「夢の行方」これにて終了です。
次回「粉雪[1]」
第8話スタートします。
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