表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/152

夢の行方[20]

 熊ノ平は、標高682m。

かつて駅があったというこの場所は、その痕跡を色濃く残している…らしい。私にはよく分からないけど、説明してもらうと「なるほど」と思える。

 でも、こんな所に造られた駅を、どんな人が利用したんだろう。


 軽井沢の標高が939m。だけどその前に、旧信越線最高地点の碓氷峠を越えなきゃ行けない。その標高は960mだから、ここからあと278mの標高差を登り続ける事になる。


「結構キツイよね」

「しっかりハイキングだわ」


 だけど私、ここまでずっと足の事を忘れていた。はしゃぐ歩果を見てるのが楽しすぎて、不安なんて一切合切忘れていた。

 もちろん思い出したからと言って、急に痛みが出たりとかではないけど、ここまで何の問題もなく歩いて来た。


「歩果は大丈夫?」

「それなりに疲れるけどね。でもぉ、うふっ! 夜は温泉入ってビールよ!」

「それ! 絶対最高!!」

「「イェーイ!!」」



 ハイタッチして立ち上がる。後半戦スタートだ。ここからは短いトンネルの連続になる。


「ほんっとトンネル多いね」

「山をひとつひとつ越えるとなると、この下にある谷から登ってまた降りてになるでしょ」


 そんな大変な事! 絶対あり得ない。電車が登山家みたいな事、出来る訳ないじゃん。だから山を潜り、谷を渡るんだ。

 当たり前の事かもしれないけど、言われてあらためてその行程を知る。


「麻衣ちゃん」


 暗闇に、歩果の声が響く。私を追い越した彼女は、この闇の中から手を差し伸べていた。


「足、大丈夫? 辛くないの? ほら、あたしがエスコートするわ」


 暗くてよく分からないけど、きっと歩果は、とても素敵な笑顔で私を見たと思う。


 その手に触れた。

 小さくてか細くて、柔らかいその感触が、指先から脈を伝って胸を振るわせた。

 きっと私、今、顔を真っ赤にしているはず。でもいい。暗いから誰も気付かないもの。



「皆さーん! ここが旧信越線最高地点、碓氷峠になりまーす。標高960m。横川駅前から、573mの標高差を登って来ました。ここから長野県に入ります。軽井沢まで少し下ります。あと少し、頑張って歩きましょう!」


 ガイドさんの声が、一際大きく響いた。ここまでの道のり、11.2kmの殆どが上り坂。山と谷を、いくつものトンネルや鉄橋で越えて来た。

 正直、かなり疲れた。だけど、私の足…!


 そして、緩やかな下り坂になる。

 足への負担が大きくならないよう少し小股になって、ゆっくり歩いて行く。


「皆さーん! あそこが…」


「麻衣ちゃん! ゴールだよっ!」

「やったねえっ!! 歩けたよ〜、歩果。足、痛くないよぉ!」


 歩果は両手を上に差し出した。

 私も同じように、両手を差し出した。


「「イェーイ!」」


 ハイタッチすると、そのまま私の手は歩果の手を掴み、そして歩果の体を引き寄せた。


 歩果が私に抱き付いた。私は歩果を抱きしめた。

 参加者の皆さんが、その様子を見守りながら笑顔を贈ってくれている事に気付くには、そう時間を要しなかった。

 私と歩果は、いつしかこのグループの華になっていたそうだから。



 この後、パックツアーの参加者は送迎バスに乗り込み、ホテルへと向かって行った。

 一般参加の私達と、他数名は、軽く挨拶を交わし、それぞれ軽井沢の町へと消えて行った。


「歩果、温泉だね!」

「うん! じゃあ、疲れたからタクシーにしよっか」

「おっけ!」


 軽井沢のお洒落な町並みに興味がない訳ではないけど、歩き切って疲れた足には、人混みは辛い。

 そんな事は最初から分かっていたから、明日の出発時間を少し遅くしている。

 今夜、歩果と2人で宿泊したら、明日のお昼を町で食べて…うふふっ。

やったね! ゴールしたよ。

さあ、今夜のお楽しみは…ね!


アクセスありがとうございます。

次回「夢の行方[20]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ