夢の行方[19]
スタートした廃線ウォーク。
どんなウォーキングになることやら。
様々な思考を繰り返しながら、横川駅から程近い受付所へと、ゆっくり歩く。
ちょっと時間早かったかも。
「2名で申し込んでます」
「朝比奈様と田上様ですね。この枠の中にに必要事項をお書きください」
ツアーみたいなものだ。鉄道会社が運営するイベントで、登山というかハイキング的なもの。おのずと体力を使う事になるため、保険も用意されている。
「麻衣ちゃんは入っといた方がいいよ」
「足…かぁ。そうね。じゃあお願いします」
歩果は大丈夫そうだけど、私は足の心配もあるので、プラス500円を現地払いした。
ウォーキングがスタートするまで、1時間以上。
歩果と私は、妙義山・丁須の頭の岩峰が見える場所に座り込み、寄り添った。
私の気持ちの上では寄り添っていた。この時歩果は、どんな気持ちだったのだろう。
さりげなく距離を詰める。肩が触れそうなこの感じが心地良い。
そっと歩果の横顔を見た。
同時に、歩果も私を見た。
「何よぉ〜」
「何でもないよぉ」
―あはははははは。
「お兄ちゃん達、あのてっぺんに登るのかなぁ」
「ねぇ」
山に囲まれたこの町。
手を伸ばせば届きそうなぐらいに迫り来る岩峰。それでも、挑むとなると生半可な気持ちでは不可能。
「あんな岩峰、普通登らないよ」
受付の係員さんは、そう言って笑った。
ここから見えるのは、裏妙義だそうだ。山崎さん達3人は、確か表妙義に登るって言ってた。
「だけど、裏妙義の登山道より表妙義の方が険しいんだ。お仲間たち、相当なエキスパートだね」
そうなんだ。やっぱり…。
「廃線ウォークへご参加の皆様、お集まりください」
主催者側からの呼びかけに、参加者が集合する。行程と注意事項の説明を受けると、先導するスタッフに付いて歩き始めた。
線路が剥がされたアプト道。赤煉瓦造りの変電所跡を見て、そこから坂道は徐々に角度を増していく。
急坂とは言うものの、鉄道が走れる坂なのだから…?
いやいや、結構キツイぞ。
「ほら、麻衣ちゃん! 頑張れっ」
「え? まだまだ大丈夫よ」
「あたしがシェルパになってあげるから、ねっ」
ドン!
「あ、歩果…」
「うふふっ、やらかいお尻」
「ちょっと、お尻、お尻ぃ〜っ」
―きゃはははは!
何故か私のお尻を何度も触ってくる歩果。もうっ! でも、歩果だから許せてしまうし、歩果だから悪くはないと感じた。
峠の湯を過ぎると、長いトンネルに入る。私達は予め主催者側からヘルメットを被るよう配布されていて、さらに用意していた懐中電灯を手に持つ。
山のトンネルは、地下鉄とは違って照明が皆無。足元に注意しながら、真っ暗な道をゆっくり進んで行く。
危険だから、おふざけはなしよ。
「さあ! 皆さん。ここが…」
5号トンネルを抜けると、一気に視界が開けた。碓氷第三橋梁、所謂「めがね橋」だ。
何て美しい橋なんだろう。こんな橋をただ列車で通過してしまうなんて、当時の旅行客はもの凄く贅沢をしていたんだ。
並走する旧国道18号線に下りると、そこからは、この橋を見上げるように観覧出来る。
この地点で標高601m。まだコース全般の標高差には半分も及ばないけど、横川から220m登って来た地点でのビューは、周辺の山々を彩る木々がオレンジに染まり始めていた。
登る。まだ登り続ける。
いくつものトンネルを潜る。
参加者の皆さんと一緒だし、そして横に歩果が居る。
暗闇だって、何も怖くない。足元をしっかり照らし、一歩一歩小股で進んで行く。
緩やかだと言っても、決して楽ではない。だけど、勾配は一定だから不安感もない。
熊ノ平で昼食が支給された。
「碓氷の釜飯じゃん!」
「昨日食べたね」
「でも美味しいから、何度でも食べれるわ」
「容器、麻衣ちゃん持って帰るでしょ?」
「もういい〜! 一個でいい〜」
―あはははははは!
アクセスありがとうございます。
次回「夢の行方[20]」
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