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お年頃の王子様は悶々とする②

お年頃な王子様の続きです。

 放課後、図書室の奥にある特別閲覧室では完璧な王子様の仮面を外したユーリウスがソファーに腰掛け、寛いでいた。

 テーブルの上に慣れた手つきでティーセットを並べたリージアは、持参した保温ポットからティーカップへミルクティーを注ぐ。

 二人分のミルクティーを注ぎ終わったタイミングで、おもむろにユーリウスは口を開いた。


「今週末、デートをしないか?」


 ガチャンッ!

 リージアの持つ保温ポットがティーカップに当たり、ミルクティーが少しだけテーブルに溢れる。


「ああっ!」


 慌てたリージアはスカートのポケットからハンカチを取り出し、テーブルに溢れたミルクティーを拭き取った。


「えっと、デートを、ですか?」


 落としかけた保温ポットを両手で握り、リージアは丸くした目をパチクリと数回瞬きさせた。


「落ち着いたらデートをしようと、約束しただろう? 卒業する前にリージアとデートを楽しみたいのだ」


 切なそうに目を伏せたユーリウスは、リージアの手から保温ポットを取りテーブルの上へ置いた。

 指を絡ませた彼女の指先にそっと口付ける。


「……駄目か?」


 目元をほんのり赤く染めたユーリウスから、返答を求めるように見詰められたリージアは「うっ」と言葉に詰まった。

 何だかんだ言っていても、少し弱気になった王子様から送られる子犬を彷彿させるような、少し潤んだ瞳で見られると弱いのだ。

 返答に困り、みるみるうちにリージアの眉尻は下がっていく。


(はぁ、困った顔も可愛いな。もっと困らせてしまいたくなる)


 息を吐いたユーリウスはリージアとの距離を縮める。


「せっかくのデートだ。邪魔な護衛も付けずに二人きりで行きたい」

「そ、それは危険です。何かあったら、」

「護衛達へ伝わるようにすれば問題は無い。それに、俺も弱くはない。あの時の様に倒れはしない。何があってもリージアを守るよ」


 座学だけでなく、魔法と武術の実技成績も学園トップクラスの実力の持ち主であるユーリウスと一緒に居れば危険な目に遭うことは少ない。

 数か月前、自身の油断から命の危険にさらされたユーリウスだったが、物理魔法攻撃以外の攻撃、香料に対する対策も今ではとっており二度と失態を演じるつもりは無かった。


「はい」


 ユーリウスが昏睡状態に陥った時の事を思い出したのか、眉を寄せて大きな瞳に薄っすら涙を浮かべたリージアは泣き出しそうになるのを堪え、結んだ唇を震わせる。


(うっ!!)


 涙で潤んだ瞳と目元を赤く染め、頬を紅潮させ見上げて来るリージアは可愛いだけでなく、彼女から立ち上る色香によって甘く美味な存在に感じられた。


(ハァハァ、可愛い。こんなに可愛い顔で熱く見てくるなんて、美味そうな唇を向けてくるなんて、俺から口付けろというアピールか?)


 ブチンッ!

 頭の中で理性の糸が切れる音が聞こえた。

 押し倒したいという荒ぶる衝動を必死で抑え込み、無言でユーリウスはリージアの肩へ腕を回し抱き寄せる。


「好きだ」

「私も、好きです」


 ちゅっ、ちゅっ、リップ音を立ててリージアの額から鼻先へ啄むように口付けていく。


 トントントン!

 互いの唇が触れ合う直前、閲覧室の扉が勢い良くノックされた。


「ちっ」


 肩を揺らしたリージアを抱き締める力を緩めず、ユーリウスは噛み付くように紅く色付いた唇に口付けた。


「殿下、シュバルツ殿下がお呼びです! 至急、研究室へ来るように、とのことです!」

「ユ、ユーリウス様っ」


 扉越しに声をかけてきた護衛騎士の声に反応したリージアはユーリウスの胸を押して、密着していた二人の間に隙間が出来る。


「は、はいっ! 今行きます!」

 

 乱れた髪を手ぐしで整え、リージアは返事をして立ち上がった。


 元生徒会長としての、学園関係の用事ならば多少遅れても許される。だが、叔父に呼び出されていたため遅刻は許されない。


(くっ、叔父上め。何の用だ? リージアと一緒に居ると分かっていて呼び出すとは、嫌がらせのつもりか?)


 舌打ちしたくなるのを堪え、渋々立ち上がったユーリウスはテーブルの上に置かれたままの、ミルクティーを拭き取ったハンカチをジャケットの内ポケットへ仕舞った。




 ✱✱✱




 執務用の椅子に座り、部下からの報告書に視線を落としていたシュバルツは、呼び寄せた相手が研究室の扉前まで来た気配に気付き顔を上げた。


「入れ」


 ノックする前に声をかければ、一瞬扉の向こう側に居る相手が躊躇するのが分かり、ぐしゃりと報告書を握りつぶした。


「お呼びですか?」


 警戒心を滲ませて研究室内へ入ったユーリウスへ、側に来るよう手招きしてシュバルツは口元だけの笑みを浮かべる。


「ユーリウス。ここ数日の間、市井の情報を集めているらしいな」

「ええ。王都や地方都市で流行っているもの、国民の関心事を知ることも必要だと思いまして。私と同年代の者達から情報を集めていました」


 ぎしり、シュバルツが組んでいた足を下ろし、椅子が軋み音を発した。


「ロベルトのことは聞いているな? 羽目を外したロベルト同様、学園卒業を前にして少々ユーリウスも浮ついているのではないかと、心配していたのだ」


 鋭い視線を向けられ、無表情だったユーリウスの目元が微かに動く。


「叔父上、私をロベルトと一緒にしないでいただきたい」

「……そうだといいが。廃王妃のせいで王都の貴族と王族の動向に国民は敏感になっている。少しでも失態を見せれば王家へ対する反意の声が上がるだろう。お前を王太子の座から引きずり下ろし、フリウスを担ぎ出す輩も出てくるかもしれぬ。くれぐれも軽率な行動はするな」


 忠告に含まれた強烈な圧力。

 まるで喉元に剣の切っ先を突きつけられたような感覚を覚え、ユーリウスは顔を歪めそうになるのを堪えて奥歯を噛み締める。


「心に刻んでおきます」

「話は、これだけだ」


 シュバルツが圧力を解除すると、ユーリウスは深々と頭を下げて研究室から退室した。



「くっ、」


 研修室の扉を閉め、息を吐いたユーリウスの全身からドッと冷や汗が流れ出た。


(軽率な行動はするな? そんなことは分かっている。いくら叔父上でも、邪魔されるわけにはいかない。これ以上の我慢は俺が爆発してしまう!! 少しくらい、少しだけ進展させてもいいだろう!?)


 動悸を落ち着かせるため息を吐いたユーリウスは、先程リージアがミルクティーを拭き取ったハンカチをジャケットの内ポケットから取り出す。

 ミルクティーの香り以外に、ハンカチからほのかに残る彼女の香りを肺いっぱいに吸い込んだ。




 三日後。

 卒業前の多忙期にデートの時間を確保するため、寝る間を惜しんで王太子の執務を終わらせたユーリウスは流行りの服一式に着替え、全身鏡の前に立っていた。

 ジャケットを羽織り髪を整え、仕上げに黒縁眼鏡をかける。


「殿下、それは変装ですか?」


 眼鏡一つで雰囲気が変わり、一般市民では彼が王太子とは分からない。


「いや、変装ではない。女子は普段と違う姿の、ギャップ萌え、というものにときめくのだろう?」

「は、はぁ」


 何だそれはという思いを声に混ぜて、長い間ユーリウスに仕えてきた側近の青年は、婚約者が絡むと残念な思考となる主へ呆れた視線を向けた。


「そんなことよりも、しっかり誤魔化しておけよ」

「殿下、よろしいですか? 誤魔化せるのは陛下とご一緒される夕食までの5時間です。それ以上誤魔化すのは無理ですからね」

「分かっている。父上も急に夕食を共に食べようなどと、どういう風の吹き回しだ?」


 大方、忠告してきたシュバルツが暗部を動かし国王へデート計画を知らせたのだろう。

 父親と叔父の二人が揃ってデートの邪魔をしようとするのかと、ユーリウスの中に苛立ちが湧き上がってくる。


(リージアとのデートを邪魔などさせてなるものか! 邪魔されるのならば……)


 “護身用”に、使い手の魔力によって刀身が伸縮する魔剣を手にする。


 魔剣を手に、鬼気迫るユーリウスの表情を間近で見た側近の青年は、その禍々しさにギョッと目を見開いた。


次回、悶々デート回。

HPのブログで、王子様の疑惑を呟いていたりします。

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