18-2 刻を越えて
7章 残滅
「…まだ、私には生きる理由がある」
アルテミスは、突き刺した槍を引き抜く。引き抜かれたところからは血が吹き出す。
魔物は怒ったように、逆鱗に触れられたように激しく彼女に向かって攻撃を加える。
でもそれも、指輪の加護がかかった彼女には、無意味。
やがて魔物は理解したようにクロノスに攻撃を加えた。
「…オレには、愛する人がいる」
少年は、剣を魔物に突き刺した。黒く、綺麗な剣に魔力を込めて。
魔物は一際耳が痛くなるほどの声で暴れまわる。
「あなたは、可哀想な人……」
アルテミスは悲しげな顔をして、魔物の上をひらりと舞い踊る。
「……お前は、虚しいな…」
クロノスは悲嘆な顔を浮かべて、魔物の下をくるくると剣舞する。
悲痛で美しい剣戟が飛び交う中で、二人はまるで自分たちだけの時間を作るようにお互いを見つめる。
切迫した状況なのにも関わらず、お互いを思い、笑い、涙を流す。
まるでゆっくり時間が過ぎ去っているように見えた。
「…ありがとう」
その一言が、最後になった───ように見えた。
魔物の心臓に剣と槍が突き刺さり、魔物は絶命したように見える。が、それは間違い。
正しくはアルテミスの魔法で、槍と剣、そしてそれぞれの宝石の中に、魔物の魂を埋め込んだ。きらきらと吸収される魔物は、指輪や剣でも押さえきれない力を蓄えたとき、未来再び覚醒する。
遠からず近からず、きまった定め。
それか、決まった条件下が揃ってしまった時それは起こる。
アルテミスは、呪いのような、災厄のような爆弾を残して、一夜で魔物を一刀両断にしてみせた。
「英雄だ!」
「女神様…!」
次の日には、神殿以外はすっかり元通りになっていた。
禁忌なのかもしれないが、アルテミスは厭わず民たちの記憶を操作して、魔物の存在を無かったことにした。
そして、神殿の近くにある虹の降る丘に結界を結んだ。魔法で石碑を作り出し、王族のみに伝承されるように魔物の存在を伝えた。
神殿は女神の像を立てて、綺麗そっくりに作り直した。
来るべき光と闇の戦争に備え、警鐘を鳴らし、それを後世へと伝えるために、その上に雫の形を成した「トリクル要塞」を作り出した。
クロノスは、軍が中に入ったときに、決して攻撃できないように完璧なる結界を結んだ。
今では決して語られることも無く消滅した、神話の物語。
これで終わり、そう思われていた。
───思っていた。




