17ー5 神話の世界
5章 少年と少女は
「会いたかった……!」
女神と呼ばれしその少女は、少年をひしと抱きしめた。
少年もまた、ひとしおの思いで少女を撫でた。
♢♢♢
「少女の名は、アルテミス」
道化師は懐かしむようにその名を告げる。
「少年の名は、クロノス」
道化師は寂しげにその名を告げる。
♢♢♢
「……アルテミス」
少年は、愛おしげに少女の名を呼ぶ。
戦争の最中の二人にとってそれは、あまりにも贅沢な幸せだった。
それから、戦争は双方の国を疲弊させるものになっていった。勢いも一時期に比べて弱まり、終焉を迎えようとしていた。
だがその矢先、またも二人は運命の女神に嘲り笑われる。
───邪神、邪竜と呼ばれし魔物の誕生
その報せは、どれほどの速さで光と闇と蒼を突き抜けたのかは定かではない。
けれど確かにそれは瞬間的に全ての地に伝わった。
魔物が誕生した瞬間、全ての地に激震が渡った。次いで爆風と猛烈な音が空気を支配し、人々は本能的に逃げ惑った。
そして、魔物が誕生したのは神殿だった。
なぜか。
───復活させたのは、女神と呼ばれし少女と、何も持たなかった少年だったのだから。
「アルテミス……!」
「…クロノス…大丈夫、大丈夫だから」
二人は、共に神殿で祈りを捧げていた。
戦争を、滞りなく終わらせられるように。
しかし神はそれを間違った方向へと読んでしまったのだろうか。次の瞬間には、二人の身体は宙へ舞い上がっていた。
「なに……!?」
魔法でふっと軽くなった身体で、神殿の方向を向けば、そこには大きく、おぞましく、畏怖を抱かせる異形のものがあった。
ぐぁあ……と咆哮をあげて、それはうごめいている。
「そ……んな…」
天災というレベルではなかった。
魔法でも人でもどうにも出来るようなものでもないと、アルテミスは悟った。
「アルテミス!」
「クロ…ノ…ス」
ひらひらと舞う中で、アルテミスはクロノスにぎゅっと抱き付いた。
魔物から離れたところで着地した二人は、早々に民たちから恐怖の対象として見られることになる。
「あの人たちよ!」
「女神様がきっとなんとかしてくれるわ!」
二人───王族を見たことのない人々らは、神殿の方から降りてきたアルテミスとクロノスを見て、魔物は彼らが生み出したのだと言った。
───国をつぶそうとしている、とも。




