16ー1 未来を奪いし者
36章 未来を奪いし者
「あ……」
がたがたと足が震える。
前にも後ろにも、転がるのは死体と、おびただしく流れる赤黒い血と、鼻をつく匂い。
「……よくも」
一人の少女は息を荒くしながら、剣を杖にして立ち上がる。
目の前には、微笑を湛えて立ち尽くす異形の者。少女は、いくつも傷を抱えながらまた立ち上がり、無謀にも挑み、嘲り笑われる。
「あぁっ……!!」
また、床に叩きのめされ、額からは汗と鮮血が伝う。
──酷い匂いだ。焼き殺してやりたい。
少女は、その血を床に散らし、赤い華ほどに綺麗な死に様を御免としてもう一度立ちあがる。
あまりにも無様な有り様に、私は一度瞳を伏せた─────。
♢♢♢
「……!」
アイリスがその最悪の微睡みから目覚めたのは、過去を変えてから一週間後。
疲労困憊で身体がついていかなかった。
「あ……ゆめ……」
傍らには、若き日の大好きだった母が眠っている。綺麗で、いつ見てもさらりとした銀色の髪。白い肌、長いまつげ。どれもアイリスには憧れで、羨ましくて、大好きだった。
はず、なのに………
とめどなく涙がこみ上げてくる。
ぽろりと涙が彼女の頬に滴り落ちる。なま温かいそれに気付いたルナが起き上がる。
「お母様…」
ぎゅっと抱きしめる。そして、その掌には
────ナイフが握られていた。
「…ごめんなさい」
♢♢♢
「アイリス?」
「…っ!」
二度の夢を見て目覚めたアイリスは、ふと自分の目を、近くにある鏡越しに覗き込んだ。
自分が自分に話しかけられているようで、不気味。
「お母様………」
夢の中で私は母をどうした……?
アイリスはぐるぐると考えながら、のそのそ起き上がる。
古城の近くの湖のほとりには、朝日が差し込んでいた。
「アイリス、おはよう」
用意された紅茶を一口、口に流し込む。
ごくりと飲み込んで、一人ペガサスに乗り込んだ。
十数年後もの時がたったアイリスの相棒である聖槍を取り出して、みるも無惨に近くの魔物を一刺しにする。
もやがかかったように魔物は消えていく。
どうしてしまったのだろうと、アイリスはずっと考えていた。
「もし、黒いナイフの呪い返しが発動していたら………」
あの時、道化師に刺された黒いナイフ。
『僕はいつでも、君を見ているよ……』
ケタケタと、くつくつと、狂ったような、アイリスを嘲笑うようなあの気持ちが悪い笑み。
アイリスの背中が、冷や汗でぐっしょりと濡れる。
───私は、今も昔もひとりぼっち
聖界に預けられていた頃を思い出して、一人寂しく笑った。
もう新しい一年が始まって二週間です。
皆さん如何お過ごしですか?




