13ー1 黒いナイフと道化師と
21章 道化師
ニタニタ、ニタニタと不気味に笑い続ける道化師に、アイリスは鑑定魔法を見よう見まねで使ってみた。
もちろん、彼は道化師と出るはずだった──のだが、彼にとってそれは既に嘘であったことをアイリスは感じた。
「鑑定魔法とか、並大抵の魔法なんて通じないよ」
「…随分たちが悪いのね」
ぎっと道化師をアイリスは睨む。
何の因縁があったかももう忘れた。ただ、異様なほどこいつにはむしゃくしゃする。
「怖いこと言うねえ…ここは一切の魔術を吸収するから、僕には効かないし、君にも何も効果はない。吸収するか否かは僕の自由だけどね」
アイリスは聞こえないように舌打ちをした。いつもなら、美しくひらひら揺れるオッドアイも、真っ直ぐ彼を見据えじっと動かないでいる。
「黒いナイフ…というものは…もしかして黒魔術のお一つかしら?皇帝のみが扱える…というもの」
「ああ、そうだよ」
道化師はこっくりと頷く。
アイリスはそれに疑問を覚えた。何故。
「あなたは道化師なのでしょう?どうして…黒魔術を使えるの」
「それは…僕が真の皇帝だからだよ、アイリス」
「…!」
想像の斜め上の答えだった。つまり…ロワは皇帝じゃないことを意味するように見えた。しかし、そうではなかった。
「僕はトリクル要塞の地下にある神殿の女神…あの姫と戦った。この意味は分かるよな、アイリスなら。僕は遥か昔──あの時代の皇帝…になりそこねた者。──そろそろ時間のようだ。
忘れるなよ。僕は君をずっと見ている。人ならざる行いをすれば、その時は黒いナイフが君を貫く。」
「…っ!余計なことしてくれたのね…!」
すると、周りが更なる闇に包まれ、アイリスの焔もかき消された。周りはさっきまでいた廊下で、目の前には国王ロワがいた。
「…っ…」
「どうしたんだ…アイリス」
「分かるのですか…?」
「珍しい者から先程手紙が来てね。オッドアイを持つ者なんて今はアイリスしかいないから。それと、エレメントについて調べに来たんだろう?こっちに来てくれ。」
ロワは優しくアイリスに話しかける。
「お祖父様…」
アイリスはさっきの話を哀れに思いそうになる。けれど、そうではない。
ロワは、アイリスの苦い視線になど気付かず、ふっと笑って従者たちと話す。
「…おや、私ももう年頃の孫がいるお祖父様なのか…」
優しい顔と言葉が、威圧的な格好を和らげるようにロワは佇む。アイリスは彼に鑑定魔法を使いつつ、警戒しながら進んだ。




