20―1 狂い始める世界─エアリアル
6章 描かれなかった先
それはルナとマリンが、違う世界の未来を変える為に時空の扉を開いた日。
「う………」
マリンが、「私たちが闇を変えたのならその逆も然り」とアリアを心配するルナを慰めたその日。
アリアは、どこかで目覚めた。
固い石畳で寝ていたようだった。周りは鬱蒼とした草原…に見える。
どこかで、愛する少女の笑った顔が見えた、気がした。
「…………」
誰かの名前を呼ぶ。でも、彼にはその名前が思い出せない。黒い髪が、黒い瞳の前でさらりと揺れる。手には、真新しいきらきらと黒く光る指輪。
「お……れは…」
彼は立ち上がり、石畳の道のままに歩く。歩く。歩く─────。
その先に、彼の前に現れたのは。
「これは……っ!」
美しい「白」で出来た神殿だった。
吹き抜けのように見回せるそれは、白く美しく輝いていた。
磨かれたばかりのような柱、誰かをかたどったような女神の像。
どれもこれも、彼には見たことがあった。
「あっ…クロノス!」
自分を「クロノス」と呼び、駆けてくる愛らしい少女。
───オレは、あの人を知っている気がする
「……ただいま」
胸に飛び込んでくる娘をひしと抱きしめ、何故か出たのは帰ってきたことを示す言葉。
「おかえり……会いたかった!」
いやされる娘の身体は、見ない間にすっかり小さくなったように感じる。
自分が大きくなったのかもしれない。
でも、オレはこの先にいってはいけないし、行く資格も持っていない。
なぜなら、オレは「クロノス」と呼ばれるべき人ではない。
どこかに、大事な人を、家族を残して来た。
だから、帰って、抱きしめて、安心させてあげなくてはならない。
「アルテミス、オレは中には入らない」
少女はあっけに取られたような、残念という顔を浮かべる。「どうして」そう言われた気がした。
「せっかく、会えたのに……」
「戻らないといけないから」
アルテミスは、一瞬ふっと涙を零した。きっと顔をあげて、歪んだ顔をして、
「……狂い消えて」
そう言い放ち、神殿の中へと踵を翻した。
ぽかんとした彼だったが。すぐに我に返って絶句する。
「狂い消えて、皇帝魔術……」
その言葉は、今では皇帝しか使えない特別な魔法。───今?
そう、今。
「──オレは、アリア・レイ・フィンスターニス」
胸元の布を握り締める。自分は今この瞬間、過去に、いる。
見たことがないはずなのに、あの少女を知っている───。
「───戻れ!!」
皇帝魔術の初歩である時空の行き来魔法を唱える。
───アリアの姿が、遙か彼方へかき消えた。




