19ー5 奏でる戦いの音
5章 姉妹王女
「…ころ、さなきゃいけない。あんなきんきを犯したやつは、わたしがころす…ころす…」
幼いころから、憎い両親を殺したくて仕方なかった娘がひとり。
魔法で生み出した赤子など、可愛がってくれるわけもないと、ずっと娘は両親を拒絶していた。
「クラリス、いいこよ」
敬愛する姉は、いつも妹を可愛がり、けれど自らも戦に赴いた。
妹は、それから見よう見まねで魔法を覚えた。
殺し屋「ウィスレット」に扮して、過去に遡ってから、毎日親を殺すために人を殺した。
人殺しは、練習だった。
♢♢♢
「……母様は嫌いよ」
ふん、と子供らしく首をそっぽに向ける。
「クラリス、ごめんなさい。未来と同じ道を歩んでしまって。禁忌を犯してしまって。」
ルナは、深く深く頭を下げる。アリアはクラリスとまだ会っていない。会ってしまえばきっと、クラリスの憎悪が積もってしまうかもしれないから。
「でも、ここは未来と違う。わたしは、変えて見せる。あなたを、愛する。きっと、きっと……それができなかったルナの為に…」
「そんなの…ただの建て前じゃない!」
「クラリス!」
アイリスが掴み掛かろうとするクラリスとルナを引き剥がす。
いくら経っても、クラリスのルナへの憎悪は晴れることは無く。
「……外、行ってくる」
クラリスは何も持たずに外に出て行った。
ばたん!と凄い勢いで扉が閉まる。
「…禁忌とは、なんなのでしょう」
アイリスが、ぼそりと呟いた。
「禁忌は、私たちがしてはならない事を示したこの世界の文言。第一条のマナーやルール、第二十五条の魔法のこと。犯せば、反動として命が奪われることだって……」
「そんなの…知りません。おかしくないですか?戦争ではあんなに人殺しが横行していたし、今までに禁忌なんて話、一度も出たことがありませんでした。お母様、この世界は………狂い始めています」
アイリスだけが取り残されたように、狂い始めた世界に気づく。この時空にいてはならない、アイリスただ一人が。
「何かが、おかしい。確かに私というイレギュラーな存在で何かが生じていようと、未来でさえ「禁忌」なんてものは無かった。
人々は規則なんかに縛られず、けれどわきまえて暮らしていた。どうして今になって禁忌?してはいけないこと?お母様、お母様!」
強く呼ばれ、ルナはぼうっとしていた意識を覚醒させる。そうだ。そんなものは無かった。
───世界が変わっている
体をびくりとさせて、ルナは立ち上がった。
「……アリア様なら、知っているかもしれない」
アルテミス、かつては女神と呼ばれた少女の魂が、一人の愛する少年を探している。




