19ー4 奏でる戦いの音
4章 ばらばらな記憶
「…っ……」
銀色の髪に、美しい紫紺と、蒼瞳。そして、空を示すであろう紋章。
それは間違いなく、クラリスであることを示していた。
「お母様は…殺すべき、人…姉様にも、邪魔はさせたくない」
「…クラリス、そうだとしたら、あなたは大馬鹿者よ」
殺意に満ちた瞳でルナを見るクラリスに、アイリスは普段見せないような「怒り」を込めて身体をふるわせる。
アイリスの勢いに気圧されるクラリスは、尚も殺意を緩めない。ナイフは握りしめたまま。
その双眸は細く、けれど今にも涙を落っことしてしまいそう。
「未来は、変えられない……って、見てしまったから、私を、時空を歪めて誕生させる禁忌を、本当に、そうだったから」
「……で、も!でも!私は見た、見えた!未来が変わった瞬間を見たわ。お母様と一緒に、時空のかなたで変えられたのよ!」
二人の未来と今、そして過去までも巻き込んだ怒りと、苦しみと、悲しみは自身を責める。ルナはあわあわとしながらも、邂逅したもう一人の娘、クラリスを見つめる。
「───ぁ」
ふと、小さくクラリスが喚いた。それは、アイリスにもルナにも、届いたかは分からないけれど。それくらい、小さな声で。
「母様…なん、て……」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れた顔を、袖に押し付ける。ぐす、ぐすと聞こえる嗚咽を聞いて、ルナは泣き崩れたクラリスをそっと撫でる。
───大嫌い。その一言も言えないまま、クラリスはルナの胸の中で泣き疲れ、眠りについた。
♢♢♢
「───ぅ…ん」
「クラリス、おはよう」
朝。アイリスは、クラリスのためにしつらえた寝室で、優しく彼女を起こした。
あれほどぼろぼろに泣いて、なおも瞳は赤く腫れ、鼻はぐすぐすとまだ音をたてて啜る。
「姉様、母様は…?」
はっとした瞳で姉を見るクラリスに、アイリスはむぅっと膨れた顔を見せる。
それは、他でもないアイリスの、姉としての立派で気丈なもので。
「もう、すぐにお母様お母様って。お姉ちゃん、やきもち妬いちゃうわよ」
「違っ…そ、そんなつもりじゃ…」
わたわたと、年相応に可愛らしい反応を見せるクラリスに、アイリスもよしよしと、雑な笑いをする。
「……クラリス」
真面目な顔に戻るアイリスに、クラリスもつられて口を閉じる。アイリスのほんのちょっと年下で、でもアイリスを姉と敬愛する彼女は、今や一人で運命に立ち向かい、抗っている。
「────偉かったね」
そう、瞳を皮膚で覆い隠して、アイリスは言った。寝間着で、ベッドの上で、クラリスを抱きしめる。
未来には無かった、暖かい「命」があった。




