19―3 奏でる戦いの音
3章 殺し屋、再び
世間には、表向きに出産ということにした。
いずれ王女として育つのだからと、ソレイユとマリンが念押しして準備が整えられた。
アイリスのいうとおり、儀式では「空の力」を賜ったクラリス。聖界で、ルナと会うことなく過ごすことが決まった。
「…運命は、変わらないのかしら…これは、強制なの…?」
そんな風につぶやくアイリスを、ルナは知らない。
その夜。爽やかな風が窓から吹き抜けていた。
アリアとともに暮らす離宮で、ルナはあからさまにアリアを避けていた。
「ルナ……」
「リン、もう下がっていいわ」
従者のリンを下がらせ、ルナは一人になった。
自室の窓を開け放つ。すっきりした気分になり、目を閉じる。
───次の瞬間、首もとに冷たい感触を感じた。
「お久しぶりです、二年ぶり、ですかね?」
「え………?」
ゆっくりと目をあける。首にはナイフが当てられて、目の前には、なんだか見覚えのある顔。
ルナは至って冷静にすっと後ろに下がる。盾のように魔法で風を作り、凶器から距離をとった。
「ウィスレットさん、ですね」
「覚えていてくれたのね」
ワインレッドの長い髪が、ウィスレットの存在を主張する。
2年前、闇の城への作戦遂行の一夜、ルナの首もとにナイフを突き刺した人物。───女神の加護によって、ルナは無傷で済んだものの。
「何をしに、ここへ?」
ルナは槍に手をかけられる距離まで下がった。ウィスレットはそれを横目に、誰かを待つように窓に座り込む。
「…?」
不信感は覚えるが、かと言って大きな問題にはしたくない。ルナは訝しげに見つめつつ、後ろのドアが開かれるのを待つ。
ギィとノックも無しに開いた扉の先には、アイリスがいた。
「…ウィスレット、お帰りなさい」
「アイリス…!?」
驚愕の目線を浮かべて二人を見るルナに、ウィスレットは苦い視線を、アイリスは愛らしい笑みを送る。
卒倒しそうなルナに、アイリスは話し出した。
「ウィスレットは、私の妹です。お母様」
「え……!?」
「…勝手なこと、いわないで、姉様。」
ウィスレットを妹だと言うアイリス、アイリスを姉と慕うウィスレット。
わけが分からず、ルナは思わず槍を引き抜いてしまった。
「え…と…」
ウィスレットの眼光が鋭い。
今にも飛びかかろうとしたその時、アイリスがウィスレットの心臓にナイフを逆に突き刺す仕草をした。目をつぶり、そのときを待つウィスレット。
でも、血は流れず、涙も流れなかった。
「…姉様!殺らせて」
「駄目よ」
アイリスはウィスレットを止める。
逆上もせずにウィスレットは姉と慕う彼女の命令を受け入れる。
「…ちゃんと言いなさい」
「嫌よ……」
ウィスレットは一回すっと飛んで、赤い髪を揺らす。着地する頃には、赤い髪は銀色の綺麗な糸のような髪に、右は青く、左は紫の瞳には、空の聖痕が刻まれていた。
「クラ…リス……?」




