02 きくばり
優吾たちは、引っ掻かれた優里たちを縛るために、ロープを買いに向かった。
途中に事故現場があったので、
「大丈夫ですか」
と声を掛けた優吾だったが、後部座席から「うううう」と聞き慣れたような声を耳にすると、運転手のほうへと駆け寄った。
対向車との正面衝突。声をかけるべき相手はもう一台分、存在する。
だがひとまずは。
近くのほうにあった車の運転手は、無事だった。エアバッグのおかげだろう。ただ、気になるのは、
「手を引っ掻かれたりしませんでしたか?」
ということ。
「いやあ、突然運転の邪魔をされて、この通り」
運転手は腕を見せながらそう言った。タクシーの運転手だ。
もう一台の方に近づくと、そちらからは呻き声は聞こえなかった。
(こっちは事故被害側か)
「ああもう、最悪」
と、こちらも作動したエアバッグから抜け出して来た。こちらの一台には一人しか乗っていなかったらしい。彼女だけが出て来て、
「あんまり壊れてないけどグシャッとなっちゃってるじゃん、ああもう。もう。激おこだよ?」
この女性は今の事態を知らないかもしれない。一応、優吾は、話しておいたが、
「そんなのまさか。あーでも、ま、とりあえず事故処理だわ」
と彼女はスマートフォンで通報。事件ですか事故ですか、というあれだろう、と感じ取った優吾は、タクシー運転手のほうへと近づいた。
彼に、乗客についてのことをすべて話すと、
「嘘だろ、俺もああなるのか?」
「ならないかもしれない! でもなるかもしれないんです。それで、注意をしていてほしくて。なるべく自分を縛っておくとか、自分からどこかに隔離されておくとか」
「嘘だろ、あれだ、大掛かりな、ドッキリ……」
だんだん顔が暗くなっていき、彼は、それ以上言わなかった。
「ニュースを見てみてください」
そう言い残すと、
(さ、自分たちのことに集中しないと)
と、優吾は、日用品店へと、それからはまっすぐ向かった。
店は静かだった。優吾やほか数名が、
(被害はここに及んでいない?)
と思うほどの静けさ。
優吾は財布を取りに教室に戻った時のことを思い出した。そこら中で呻き声がしていたのをだ。あまりにも対比的。
瞬一が、
「あっちだ」
と言った、その方向に向かうと、優吾一行は、ロープ売り場を見つけた。
種類ごとに色々とあるが、とりあえずは、
(これでいい)
「これを沢山買っていこう」
白くてよくあるロープをレジに持って行った。
レジにいる店員は女性で、様子がおかしい所は一切なかった。
ただ、事態をあとから知ることにはなるんだろう、それを思うと、恵美菜は、
「ニュース、いま見たほうがいいですよ」
と言葉を連ねた。
ネオ東京市は特大の鉄壁に囲まれた。なぜそこまで厳重にしなければならないのか不思議に思った優吾だったが、そんなことはさて置き、彼らは天堂高校へと戻ってきた。
辰彦や優里、その他数名をそれぞれ別々に、手が前に来るようにして縛り、そのロープで水飲み場をぐるりと囲んだ。ゆとりはある。だがそれでいい。ゾンビのようなあの状態の教師音山も、押し込んだだけの机のバリケードをどうにもできずにいる。
(まあゾンビっていうよりは、ツリーマンみたいな名前のほうが合ってるんだろうけど)
優吾がそう思った。
縛り方として別々にしているのには理由がある。トイレの際に一人ずつ行かせられるようにしたかったからだ。まあ、発症し暴走するまでの話ではあるが。
「この状況、撮影してどこかにアップロードしたほうがいいんじゃ」
ふと恵美菜がそう言った。
「そうだね、少しはほかの人の助けになるかも」
とは優吾が。
言ってから、優吾は考えた。
(それに、そうやってアップロードし続けている人がほかにもいそう。動物の緑化研究所って所の誰かも。そこまで詳しい情報の出所って言ったら、そもそも、そこの可能性が高いよなぁ。一番、変化というか、情報の更新が早いのもそこかもだし)
留意することにし、撮影もしてみた。そうやって撮った動画のアップロードも。
あとは時間をどう過ごすか。
ほとんどの教室で悲鳴が聞こえていた。教師はほぼ全滅。授業どころではない。
「私は本でも読むわ」
そう言う者もいれば、
「ボール持って来てサッカーでもしようぜ、体育の授業」
と言う者もいた。
昼は弁当と学食があったからよかったが、夜はどうなのか。
「ファストフードでもいいから詰め込まないと」
「だよなぁ」
辰彦に対してそう言った優吾。優吾は、
(ほかのクラスも同じような動きを始めてる)
そう思いながら、
「誰か、マクダナルズとかで働いたことある人、いる?」
と聞いてみた。
もしかしたら、店自体、開いたまま機能していない可能性はあった。
「あたし、経験あるよ」
実夢という名の女生徒が手を挙げた。




