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ヒーローの指揮者 〜ロートルヒーローの勝たせ方〜  作者: MIYA
第2章 指揮者の才能

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第30話 見すぎる

合同管制の評価は、それで終わらなかった。


 ヴィランを警察へ引き渡してから一時間ほど経ったあと、レンたち四人は本部研修棟の別室へ移された。


 壁面の大型モニターには、さっきの倉庫街が映っている。


 現場映像ではなく、四人の管制記録を重ねたものだった。


 どの画面を開いていたか。どこへ指示を出したか。警告が表示されてから処理するまで何秒かかったか。


 レンは自分の席へ座った。


 桐生、瀬川、藤崎もそれぞれ端末を開く。


 研修担当者が最初に表示したのは、作業員が配送車の陰に残っていた場面だった。


 画面が四つに分かれる。


 桐生は現場全体の地図を開いていた。


 瀬川はブレイクハンマーとヴィランの距離を確認している。


 藤崎はラインバインドの拘束範囲と、作業員の位置を同じ画面に入れていた。


 レンの画面には、グリットが大きく映っている。


 「天城さん。この時点で、残っていた作業員を把握していましたか」


 「してます」


 レンは答えた。


 「グリットがそっち見てたんで」


 担当者が記録を数秒戻す。


 グリットが道路の左へ移動する。


 その動きを見てから、レンが作業員を探して地図を開いていた。


 「つまり、先に発見したのはグリットです」


 レンは画面を見た。


 「そうですね」


 「あなたではありません」


 言い方が少し引っかかった。


 レンは椅子へ背を預ける。


 「でも見つけてますよね」


 「見つけています。ただし、その間に別の情報を二つ落としています」


 画面の右側に記録が追加された。


 レイヴンの位置更新。


 警察部隊の待機地点変更。


 どちらにもレンの確認記録がなかった。


 警察の位置はあとで桐生から聞いた。


 レイヴンについては、いつ屋根から降りたのか分からなくなった時間がある。


 レンは何も言わなかった。


 研修担当者が次の場面へ進める。


 ラインバインドが攻撃を受けかけた場面だった。


 レンの画面が拡大される。


 ラインバインドが右腰を見る。


 レンもほぼ同じ瞬間にそこを見ていた。


 次にグリットへ視線を戻し、距離を確認している。


 七メートル。


 〇・五秒。


 指示。


 グリットが間に入る。


 「ここは?」


 担当者に聞かれ、レンは画面を見た。


 「間に合ったんだから、いいんじゃないですか」


 「指示自体は問題ありません」


 担当者が表示を一つ増やした。


 レンがラインバインドの視線を追っていた時間に、レイヴンから位置報告が入っている。


 レンの端末には受信履歴だけが残り、確認した記録がない。


 さらにブレイクハンマーの生体情報にも一度警告が出ていた。


 軽度ですぐ戻っている。


 それも見ていなかった。


 「二つとも、結果として問題にはなりませんでした」


 研修担当者はそこで映像を止めた。


 「でも、問題にならなかったことと、見なくてよかったことは同じではありません」


 レンは机の上で指を組んだ。


 言われていることは分かる。


 それでも、あの瞬間に全部を見ろと言われても無理だった。


 ラインバインドの癖を確認して、グリットが届く距離を測り、肩を使わず入れる位置まで見ていた。


 その三つを確認したから間に合った。


 「全部見たら、たぶん間に合ってないです」


 レンが言うと、担当者は否定しなかった。


 「そうでしょうね」


 返事が予想と違った。


 レンは顔を上げた。


 「じゃあどうしろって話です?」


 担当者は四人分の記録を一つの画面へ戻した。


 「桐生さん。作業員の位置は」


 「見てました」


 「瀬川さん。ブレイクハンマーの警告は」


 「確認してます。接敵直後の心拍上昇だけです」


 「藤崎さん。レイヴンの位置報告は?」


 藤崎が端末を見る。


 「受けてます。桐生さんからも共有が来てました」


 レンは三人を順番に見た。


 同じ現場に四人いた。


 だから、自分が見ていない情報を誰かが見ていた。


 それは当たり前だった。


 ただ、レンは最初から自分の画面で確認しようとしていた。


 ブレイクハンマーの足も、ラインバインドの視線も、レイヴンの反応も、自分で見つけたからだった。


 研修担当者が昨日からの評価を並べる。


 個人分析は突出。


 複数対象監視は不足。


 状況判断も低い。


 今日の合同実地でも、その並びはほとんど変わっていなかった。


 「天城さんは、一人を見る能力が高い」


 担当者が言った。


 「だからこそ、一人を見すぎます」


 レンは評価表から目を離さなかった。


 グリットを見る。


 右肩の角度を見る。


 足を見る。


 呼吸を見る。


 そのうえでヴィランを見れば、相手の腕が太くなったことにも気づける。


 けれど、その間に別の画面が落ちる。


 昨日の模擬指揮でも同じだった。


 一人目の右脚を見ているうちに、別の警告を見落とした。


 何も変わっていない。


 「でも、一人を見ないと俺の意味なくないですか」


 レンが言った。


 桐生がこちらを見る。


 研修担当者は少し考えてから答えた。


 「見るなとは言っていません」


 「じゃあ?」


 「自分で見なくても入ってくる情報まで、確認し直さないことです」


 レンは眉を寄せた。


 「他人が間違えてたら?」


 「あなたも間違えます」


 すぐに返された。


 レンは黙った。


 それは知っている。


 知りたくなかった形で、もう一度確認したこともある。


 〇・四秒まで削った猶予を〇・五秒へ戻したのも、その結果だった。


 瀬川が椅子を少し回した。


 「俺がブレイクハンマーの足を見てるなら、お前までずっと見なくていいってことだろ」


 藤崎も続ける。


 「ラインバインドの残弾も俺が見てる。必要なら言うよ」


 レンは二人を見る。


 「それ、信用しろってことですか」


 「合同ならな」


 桐生が答えた。


 短い言葉だった。


 レンは画面へ視線を戻した。


 休憩に入ると、廊下のニュース画面には引退ヒーローの捜索願が流れていた。


 名前と顔写真が出たあと、天気予報へ変わる。


 レンは自動販売機で水を買い、そのまま研修室へ戻った。


 机には、さっきの四人分の記録が残っている。


 一つの現場。


 四つの画面。


 全員が同じものを見ていたわけではない。


 それでも案件は終わった。


 レンは自分の記録だけを開いた。


 見落とした箇所には印が付いている。


 数は多かった。


 それを全部埋めようとすると、また同じことになる気がした。


 レンは画面を閉じた。


 研修終了後、第九分署へ戻ると、ガイはいつもの席で紙の地図を見ていた。


 レンは鞄を机へ置く。


 「ガイさん」


 「何だ」


 「現場で、俺が見てないもんあったら言ってください」


 ガイが地図から顔を上げた。


 「前から言ってるぞ」


 「そういうのじゃなくて」


 レンは言いかけて止まった。


 どう違うのか、自分でもまだうまく説明できない。


 今までは、ガイが何かを言っても自分の画面で確認してから判断していた。


 それを一回減らす。


 たぶん、その程度の話だった。


 「……見えたもん、そのまま言ってください」


 ガイは数秒だけレンを見た。


 「分かった」


 それだけだった。


 端末に研修担当者から最後の通知が届いたのは、帰る準備を始めたあとだった。


 追加課程の評価欄には、個人分析の横に「突出」の文字が残っている。


 複数対象監視は「不十分」。


 改善とは書かれていなかった。


 その下に、次の課題が追加されている。


 単独指揮。


 レンは画面をしばらく見た。


 三人から情報をもらえばいいと教えられた日に、次は一人でやれと書いてある。


 「研修って性格悪いな」


 ガイは聞こえていたはずだが、何も言わなかった。

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