ACT3.「痛みを伴う回復…後編」
ショータ達勇者パーティーは連携確認のため中級クエストを受けたのですが…
午前中二日酔いばかりだった勇者パーティーはお昼には食堂でランチを食べられるくらいに元気を取り戻していた。
「はー、食った食った♪」
スキンヘッドの大男がパンパンに膨らんだ腹を叩いて満足感を表してる。
どうやらガルドは腹八分目という言葉を知らないようね。
アタシだってお腹いっぱい食べたい誘惑を我慢してるのに!
まあそれは置いといて。
「じゃあ一時間後にこの中級クエストに出かけようか。」
「中級?おいおい俺らは勇者パーティーなんだろ、そんなレベルのクエストなんざせいぜいC級かD級辺りの冒険者パーティーにでも任せておけば…」
「エボリュー、幾ら勇者がいるとはいえアタシ達はまだ昨日結成したばかりのパーティーなのよ?」
「そうです、このカラスさんの言うように個人の力が強くても集団戦のセオリーは守らないと各個撃破される危険がありますよ?」
「初めて意見があったわね発情猫、これでアタシをカラスじゃなくてルクスと呼んでくれたら良かったんだけどね?」
「そちらこそ私の名前は発情猫でなくルチアーナ、縮めてルチア!間違えないでくださいますか?」
「おー、それは悪かったわね、ルチアーナさん?」
「いいえこちらこそ失礼致しました、真っ黒ルクスさん?」
「言うじゃない、腹黒ルチアーナ!」
アタシとルチアーナは激しく睨み合った。
そんなアタシ達の頭をポンポン!とリズム良く丸めた紙で軽く叩いたのは勇者パーティーのリーダーである勇者ショータ。
「はいはいジャレてないで話しを進めるぞ。」
「「ジャレてない(です)し!!」」
不本意ながらアタシとルチアーナの声がハモった。
………。
一時間後、アタシ達は平原に立っていた。
「あの小高い丘の向こうにオークの群れがいたそうだ、数は凡そ百体。」
「「「「百体?!」」」」
ガルド、エボリュー、アローネ、ミカが驚いた。
何で驚くのかわからない。
ビビったようにエボリューが言う。
「さ、流石に多くないか?普通はせめて10体程度だろ?」
ガルドも嫌そうだ。
「そうだぞまだ俺達昨日出会ったばかりの即席パーティーなんだからよ!」
アローネの意見はもっともだった。
「そうだよ、私の矢の数何本だと思ってんの?」
ミカはと言うと。
「アハハ…あの数は流石に疲れそうだにゃあ…」
まあ常に走り回りそうな役割だからそう思うのも無理は無いわね。
連中が情けないことばかり言うから
「あれ?アンタら百体て数にビビッてんのお?」
と、アタシは含み笑いしながら新メンバーの四人をからかった。
それしても…
「あの四人は難色示してるのにルチアーナは平気そうだな?」
「勇者様、こう見えて私は多い時に百人程度の傷病者を癒して来たのです。」
「いやいや、戦うのと癒すのとでは違うっしょ?」
アタシが疑問を口にすると
「皆さんが戦い私が回復と支援をする、ちゃんと皆さんが役割を果たしていただけるなら何の問題もございません。」
「ですよね?勇者♪」
「お、おう…そうだな。」
ショータは返答しづらそうだった。
まあそりゃそうよ、確かにショータとアタシは何度も数十体の魔物や魔族に囲まれ窮地を切り抜けてきたけど幾ら戦力補強したとはいえ新メンバー四人の実力はまだこの目で確認してないし。
「ショータ、ヒーラーにここまで言われたんだからアタシ達がちゃんとやれるって見せつけてやろうよ。」
「でも俺は正直、集団戦なんて初めてだからな。」
ここでガルドがアドバイス。
「それならまずは編成を決めるんだ、俺は傭兵経験があるから部隊編成の重要性を知ってる。」
「そりゃすげえ、頼めるかガルド?」
「そういうエボリュー、オマエも兵士上がりだそうじゃないか?」
「いやあ、俺はああいう上下関係が苦手で…」
…つまり、逃げ出してウチに来たわけね?
ていうかエボリューって少しチャラそうだし男だらけのムサ苦しさが嫌だっただけなんじゃないの?なんてね。
「ヘックシ!」
エボリューがクシャミをした。
そして今度はアローネが意見を話しだす。
「でもさ、部隊編成というかパーティーの陣形ってだいたい決まってるようなもんじゃない?」
「ヒーラーである聖職者ルチアを真ん中にして守る、盾役ガルドがルチアの前で守り、両脇をロングレンジ攻撃できる弓兵の私と魔法使いルクスが固める、勇者ショータが前衛のアタッカー、その後ろに槍使いのエボリュー、遊撃と後方の守りは自由に動ける盗賊のミカ、こんなとこじゃない?」
「へえ〜、アローネ詳しいにゃあ?」
「こう見えて私他の冒険者パーティーにいたからね。」
「へえ〜、私のいた盗賊団も役割決め厳しかったけど戦闘の編成なんて無かったからにゃあ〜。」
部隊編成の事で四人はヤンヤと盛り上がっていた。
コイツら以前は複数名で活動してた時があるようね。
「ま、ともかく勇者であるショータがリーダー何だからショータが編成決めるべきだよね♪」
「る、ルクス?俺はリーダーなんて柄じゃあ…」
「何今更言ってやがる、俺達は勇者の元に集まったんだ、その勇者のオマエがみんなを引っ張らないでどうする?」
「ガルドさんの言うとおりです、ショータ様、ここは難しく考えずに御自分のお考えになる勇者パーティーの形を皆さんに伝えるべきかと。」
おおっ、ルチアーナがマトモな事言ってる?
伊達に聖職者やってないわね。
「…ルクスさん?今何か私に対して失礼な事を考えませんでしたか?」
ニコッとしながらルチアーナが私を見た。
「う、ううん?アタシは単純にアンタを高く評価しただけだよ〜?」
アタシも笑って返した、嘘は言ってないよ?
「…よし!みんなの意見を聞いた感じ、アローネがさっき言った通りの編成でやってみよう。」
「ルクス、まずは高範囲魔法でオークの後方を攻撃、連中の背後を攻撃して浮き足立たせよう。」
「わかったわ!」
アタシは高範囲の攻撃魔法を撃つため詠唱に入った。
まあちょっとした攻撃魔法くらいなら無詠唱でも出来なくはないけど、詠唱した方が何か気分が乗るし実力を隠してる感じがしてなんか良くない?
ていうか今回のは少し派手な高範囲攻撃だからね。
でも威力は相手相応にセーブしとくかな、威力あり過ぎで他のみんなから変に思われちゃヤダし。
「続いてルチアーナ、全員のバフがけよろしく!」
「はい、ショータ様!」
ルチアーナも支援魔法をかけ始めた。
みんなの身体に光が注ぎ、見る見るステータスが爆上がりしていくのがわかる。
アタシの鑑定眼に映るみんなのパラメーターの全ての値が倍がけになってる!
凄い何コレ!
言うほどの事はあるわね、ルチアーナ。
というか並の聖職者でこんな何人もステータス倍がけなんて出来るもんじゃないわ、宮廷魔道士とか神官クラスとは言わないけどかなりのものね!
おっとヨソ見してたわ、詠唱も終わった事だしアタシも負けずに高範囲攻撃魔法発動!
「ヴォルカニック・レイン!」
アタシが叫んだその瞬間、天から赤く燃える岩石の雨が地上に振り注いだ!
と、言っても精々100個くらい?
半径もニ、三百メートルくらいかな。
(結果で言えばこれを3回くらい繰り返してやった、
岩石100個をこの範囲に落とすから結構外れるのよね、おかげでオークがいる場所の地面は総じてボコボコになるんだけど。)
…相手がオークならこの程度の高範囲魔法で充分でしょ。
まあ少し本気出せば他にも稲妻系でもっと凄いの出せるけどまだそんな場面じゃない。
と言ってる間に。
ドゴドゴドゴゴゴン!!!
天から降らせた燃えたぎる岩が雨のようにオークの群れへと落下していく。
ギャギャギャギャッ?!
いきなり燃える岩が降ってきてオーク達はパニックに陥り逃げ惑う。
全高3メートル近くのデカい図体が必死に右往左往してる、当然固まって集まってたところでそんなパニクったら互いが邪魔で満足に逃げられやしない。
ぶつかり合ったりコケたり、そこへ容赦無く燃えたぎる岩石が振り注いでいく。
岩の一つ一つはオークの頭くらいの大きさだけど地面に落下した時はその三倍くらいの広さで地面を抉った。
その岩石のうち半数くらいがオークに大ダメージを食らわせたようだ。
少なくても20体くらいは倒せたかな、あとはダメージ小のを加えたら残り75体くらいってとこかな?
そして赤く焼けた岩は土と草を焦がし辺りに煙を発生させるとようやく黒くなった。
その下になったオークの焦げた部分は完全に炭化してる。
こんだけ焦げたら食べても美味しく無さそうだ、焼き加減まちがえたかな、なんてね(笑)。
「ふう…どう、ショータ?こんなもので。」
「おう、バッチシだ、いつもながら流石だなルクス!」
「エヘヘ♪」
アタシがショータに褒められいい気になってると
「す、すげえ…なんだよ今のは!」
エボリューが驚きと興奮を隠せないようにさっきの高範囲魔法についてアタシに聞いてきた。
「え?そんなに凄かった?」
「まあアタシってほら、天才魔法使いだし?そんじょそこらの魔法使い達とはレベルが違うわよ、レベルが!」
「自分で天才とか言いますか?普通…。」
るっさいわねルチアーナ!
「ショータ、魔法使いのルクスの攻撃魔法はいつもあんな破壊力なのか?」
「ん?いつもあんなもんだよ、でもいつ見てもすげえよな、高範囲魔法の攻撃力って。」
「ショータ…もしかしてアンタ他の魔法使いの攻撃魔法とか、見た事ないの?」
アローネが頭を押さえながら言った。
どうしたんだろ?二日酔いの頭痛がぶり返したー、とか?
「少しくらいなら他の魔法使い達の攻撃魔法や高範囲魔法の攻撃見た事あるぞ、確かにルクスに比べるとショボく見えたけどそれだけルクスが天才ってことじゃん、ルクスすげえよな!」
「アハハ…ある意味天才かにゃ、と言うよりかは天災と言い換えてもいいけどにゃ…」
盗賊のミカが何か不穏なセリフを言った気がするけどアタシはスルーした。
「と、とにかくルクスの力も分かったし(ショータが天然な事も分かったがな…)オーク達は混乱してる、これは好機だ一気に攻めようショータ!」
ガルドが途中小声で何かボソボソ言ってたけどちゃんとアタシの耳には聴こえてたからね、なんせアタシは地獄耳だからさ!
「オーク達が立て直し始めてるよ、急がなきゃだにゃあ!」
ありがとミカ、そうだねグダグダしてらんなかった。
「突っ込むぞ!」
ショータを先頭にアタシ達は陣形を保って斬り込む。
ショータは皆の戦いや連携確認のために敢えて剣はオークの武器を受け止める防御にしか使ってない。
拳と蹴りだけでオークを倒していく。
勇者の加護でショータは素手でもかなり強いのだ。
だから威力の強過ぎる星剣の出し惜しみも出来る。
そしてショータを回避するように横へ回り込むように攻めてくるオークはエボリューの槍、ガルドの盾と斧が捌いていく。
それでもオーク達も馬鹿じゃないから更に真横から囲むように来たりもする。
「ルクスちゃん、私達でルチアを守るわよ!」
「了解、ヒーラーを守る!」
「…なんでヒーラー呼びなんですか?私はルチアです!」
「間違いじゃないでしょ?エンチャンター。」
「だから職業名でしょそれ?」
「何でいけないのよ?ていうかそんなにアタシに自分の名前呼ばれたいわけ?…うわ、もしかしてソッチの趣味あったのアンタ?ツンデレ?」
「んなワケないわよこのカラス女!」
アタシがふざけたらすぐ食いつく、単純だなあルチアーナは(笑)。
なんて風に余裕こいてたのが不味かった。
グオオオッ!
オークに後ろを取られた!
「マズイにゃん?!」
ガツッ!ズドッ!
ミカが何とか一体仕留めたけどソコソコ身体を打ったらしい。
「痛た、ヤラレちゃったにゃん…」
「ミカさん、直ぐ治癒します!」
ルチアーナが治癒魔法でミカを治す。
すると今度はアローネが。
「くっ…キャッ!?」
「アローネさん?」
アタシは咄嗟にファイアーボールをアローネを襲ったオークの顔面に放ってコレを倒した。
「くっ、後衛は近接戦闘に弱いメンバーばかりだからそこを狙われると弱いな…」
ガルドも目の前のオーク達相手で手一杯だ、近接戦闘のメンバーは前の方に集中してるから囲まれて乱戦となると流石に分が悪い。
この編成にこんな弱点があったなんて…やはり実戦で試しておいて正解だったわね。
まだまだオークの数は60体くらいは残ってた。
アローネの治癒中今度はミカが奮闘してる、アタシはなるだけオークを三人に近づけないよう魔法をぶっ放し続けた。
しかし
ガスッ!
運悪くオークの破損した武器の破片がアタシの腕に刺さった。
「グッ…」
まさか?…くっ、油断した…。
アタシは杖を持ち直した、けど自己治癒魔法が発動しない。
杖が折れてる?それでか!
こうなりゃ杖無しで…て、危ない危ない、他のみんなに見られてるし。
アタシはみんなの前じゃ天災…じゃなかった、天才魔法使いで通さなきゃならない、杖無しで魔法使えると知られるのはマズイ。
え?無詠唱は良いのかって?
良くないけど杖無しよりはマシ!
さてどうしたものか…
「ルクスさん、お怪我…」
珍しくルチアーナが心配してくれた?
雨が降るかもね、さっきアタシが岩石の雨降らしたばかりだけど。
「あ、ああコレ?杖が折れて自己治癒魔法使えなくてね。」
「…はあ…、仕方ありません、私が治癒します。」
ルチアーナは少し嫌そうに治癒魔法をアタシにかけた。
アタシも嫌だけどそれは顔に出さない。
魔法を使えなきゃこの戦い乗り切れないからね、仕方ないのはアタシも一緒だった。
ピカア…
ルチアーナの手から光が。
と、
ピクン!
??
ビクビクッ、ビリビリ〜ッ!!
「あ、アン、ギャッ!アンギャッ?!」
「どうされましたルクスさん、変な声を出されて…?」
「い、いや何か知らんけど…ひっ?ひっ、ひいいいいっ?!」
か、身体が、痛い?
なんか、ビリビリするような〜?!
アタシが痛みに悶絶してると
「まあお傷が痛いのですね?では単なる治癒魔法以上の神聖魔法でより強力な回復を…」
ビカアッ☆
ズバババン!
あれっ?普通回復とか治癒の魔法ってもっとこう優しいイメージの光や感覚のイメージが…それなのに
「うぎゃあああ〜〜〜〜っ?!」
な、何でこんな痺れるような痛苦しい〜〜???
「クス…」
ん?
い、今笑った?
「る、ルチアーナ…アンタ人が苦しんでるっちゅうのに笑ってる…?」
「あらとんでも有りません、誤解でございます♪」
「い、今【♪】付いてたわよね?!」
「気の所為でございます(笑)。」
「あーっ、ヤッパリ笑ってるう〜っ?!」
アタシがルチアーナから謎の痛みを伴う治癒回復…と、言う大義名分の【攻撃】を受けていると。
「みんな、このままじゃ拉致が開かん!」
「星剣を使う、全員目を閉じろ!」
勇者ショータが叫んだ。
…ような声がした。
次の瞬間視界が真っ白になった。
………。
気が付くと戦いは終わってた。
いやあ、星剣て凄いわよね…。
「ルクス、大丈夫だったか?」
ショータがアタシの側に来て心配してくれた。
「あ、アタシなら大丈夫…」
「あらルクスさん、まだお怪我が…」
ワザとらしいセリフを言いながらルチアーナがアタシにさっきの神聖魔法による治癒回復の魔力をまたかけた。
ピリッ!ビビビッ!!
「うっぎゃあーっ?!」
アタシは再び痛みで悶絶した。
「ルクス?大変だ、直ぐ病院に!」
ショータがアタシを抱え上げようとした途端ルチアーナは治癒回復魔法を止めた。
「だ、大丈夫だよショータ?もう治まったから。」
アタシとしてもショータにみんなの前でお姫様抱っこなんかされた日にゃ恥ずかし過ぎて暫く引きこもってしまいそう。
でもちょっとだけ残念ではあった。
「ショータ様がルクスさんを心配するだなんて…」
「この手はあまり使えないですね、チッ。」
あ、今舌打ちしやがったこの発情猫!!
…それにしても。
アタシの治癒回復魔法にルチアーナが悶絶し…
今度はアタシがルチアーナの治癒回復魔法に悶絶…
一体どういう事なの?!
パーティーの弱点が露見。
人数が増えたとはいえ、やはり数で押し切られては不利か。
そしてルクスとルチアーナ、彼女らは何故相手からの治癒回復魔法で全身痛みを伴うのか…?




