ACT2.「痛みを伴う回復…前編」
勇者パーティーのメンバーも決まり、早速連携確認を兼ねて軽いクエスト…と、普通はなるんだけど…。
「痛たた…」
「うう〜、ズキズキしますう〜」
勇者と聖職者が頭を押さえながら唸っていた。
狂乱の勇者パーティー結成記念歓迎会の翌朝。
事もあろうに勇者パーティーメンバーの殆どが二日酔いで頭を押さえているのだった。
一番頑丈そうな大男のガルドは
「何だ何だみんな、あれしきの酒くらいで!ガハハハッ!」
…と、一人元気なのに。
「うう〜っ、つ、つい他の連中のペースに乗せられちまったぜえ…」
新規加入の槍使いエボリュー。
彼は周りのピッチに乗せられペースを上げてしまったらしい。
「うぷっ…ダメ、手元どころか足元もおぼつかない…。」
弓兵アローネは肝心の弓矢の狙いすらおぼつきそうもないほど指がプルプル震えている。
「うわはあ〜♪夜が明けたら太陽が回ってるにゃあ〜?」
盗賊のミカはまだ目を回してる…完全に酔いが抜けてないわね、この様子じゃ。
「あのさーアンタら、この様子じゃとてもミーティングや連携確認なんて無理だから今日は宿で寝てなさいよ?」
「そ、そんなワケに行くか…オレ達は一日でも早くちゃんとした連携を身に付けて人類を守る戦力にならないといけないんだ…うっぷ。」
ショータはヨロヨロしながら言ってる、言葉は確かに立派だけど肝心の身体が全然着いて来てないから説得力にかける。
「いや、だから先にアルコール抜けっての。」
「そ、そうですわ…私の神聖魔法で皆さんの身体の中のアルコールを浄化して解毒すれば…」ルチアーナが自分の出番とばかりに目を輝かせた。
すると。
「馬鹿いえ!それじゃ酒が毒みたいな言い方じゃねえか?酒は百薬の長!浄化なんて出来るものか、それにもし浄化しちまったらせっかくの酒が勿体ねえだろが!?」
ガルドはルチアーナの言葉に文句を言った。
酒を毒扱いされたと思ったんだね。
「…いや、それ多分アンタだけの意見だと思うけど?みんな苦しそうだし。」
アタシが二日酔いに苦しむみんなを指差すと、ガルドはこう言った。
「軟弱ものめ、鍛え方が足りん!毎日浴びるように飲めば直ぐ平気になるわい!」
…いやそれやったら確実に肝臓大ダメージだからね?年取ったら後悔するよガルド。
「…と、そうだった。その浄化とやらでみんなの二日酔い治せるんなら早くやんなさいよ聖職者様?」
「る、ルチアーナですう!縮めてルチア!」
「あれそんな名前だったっけ?…まあ別に良いじゃんそんな事♪で、やってみせなよルチ…ええと、ルチアーナ…さん?」
「ルチアだってば!人が下手に出てれば…いつっ☆」
「頭痛するんならサッサと浄化すればいいじゃん。」
「…出来ないんですよ…」
「は?」
「自分自身への治癒回復となる魔法は出来ないんですよ!何故か私の神聖魔法だと自分の治癒回復だけは出来ないんです!汚れを落とすクリーン魔法程度しか使えないんです!」
「何それ、結構不便な魔法なんだね神聖魔法って」
初めて知った。
聖職者って自己回復出来ないの?
それかこの聖職者だけが特別なの?
ま、いいか。
「ムフフ〜ん。」
自然と顔がニヤケてくるのが自分でもわかる。
「な、なんです?その薄気味悪い笑顔…」
「べっつにい〜?ただ、ちょっとだけアンタの回復を手伝ってあげてみてもいいかな〜ってね?」
「ど、どういう風の吹き回しです?何か企んでませんか?」
ルチアーナが警戒してギュッと杖を握り締める。
「怖くないよ〜?少しばかりアタシがアンタに治癒魔法かけてあげても良いかな〜?てね。」
「浄化魔法と違ってアルコールとやらは消えないけど身体の調子は戻るはずだよ。」
「あ、アナタの魂胆は読めてます!これで私に恩を売って私を勇者様に近付きにくくするおつもりでしょう?」
「やだね〜、仲間相手にそんな事しないよお〜?」
まだ仲間と認めてないヤツは別だけどね?
誰とは言わないけど。
「何か信用出来ませんけど…でもそんな事も言ってられません…はあ〜。」
「魔法使いさん、仕方が無いので私の酔いを覚ます魔法をかけてくれませんか?」
「魔法使いさんじゃない!アタシの名前言ってみな?」
「いいじゃありませんか魔法使いなんだから。」
「良くない!てかアンタはアタシの名前忘れたの?」
「忘れたも何もいつアナタが私に名乗られましたか?」
「アタシが名乗ってないだって?そんな事…」
あれ?名乗らなかったっけ?
覚えてない、まあいいか。
「…ルクス。アタシはルクスだよ。」
「ではルクスさん、私に酔い覚ましの魔法を。他の皆様は私の酔いが覚めたら私が神聖魔法を…」
「お願いします、が抜けてんだけど?」
「…くう〜っ…!」
ルチアーナは心底悔しそうに歯を食いしばった。
けど今回ばかりはこのアタシには逆らえない!
アハハ!いい気味(笑)♪
「お、お願い致します、私の酔いを覚ましてください…ルクス、さん…」
「う〜ん、なんか言い方が丁寧じゃないなあ〜。」
ここで勇者ショータがルチアーナに助け舟を出した。
「い、いい加減にしろルクス?みんな二日酔いで苦しんでるんだ、このままじゃパーティーは機能しない!もしここで魔物が現れたりしたらどうする気だ?」
いやそれはアンタらが二日酔いになるまで飲んでたせいでしょが?!
せっかくルチアーナ弄りが出来て面白かったのに。
アタシは理不尽に思ったけど、まあショータの言うことにも一理あるわね。
ショータも二日酔いで苦しんでるんだからアタシの魔法で治してあげても良かったんだけど、アタシ実は正直他人の治癒回復魔法はそんなに得意じゃない。
それに他の酔っ払い連中まで面倒見るのも正直面倒臭いからそれならルチアーナだけ回復させて他の連中はルチアーナが一人で全員回復させた方がいいよね、本来それがヒーラーでもある聖職者の役目なんだから。
「じゃ手っ取り早くチャッチャと回復させるわよ!」
アタシはルチアーナに手を向けてジンワリと魔力を放った。
黒い魔力…と言ってもかなり闇属性をセーブした魔力を送った。
闇属性だけでなく四元素魔法も使えるんだけど、治癒回復魔法使おうとすると闇属性が混ざっちゃうんだよねアタシの場合。
ま、仕方ない…それはアタシが…。
と。
「あ?…あっ、あつっ、痛っ?イタタタッ!!」
あれ?何か知らんけどルチアーナが喚き出した?
何がそんなに痛いんだろう?
「いつつつっ、や、やめてください…!」
「?」
何を?
誰に?
「痛いからやめろってんです、この真っ黒カラス!」
ルチアーナがアタシの顔見て叫んでる、それでやっとアタシに向かって言ってたんだとわかった。
…て、何?アタシの治癒回復魔法が痛い?
「何痛がってんのよせっかく人が治癒回復してやってんのに?」
「何故だか知りませんけどアナタのその回復魔法?の薄黒い魔力はとても痛いんです!」
「そおなの?まあ確かに殆ど自分にしか使った事ないからわかんないけど…あ、ショータなら平気そうだったけど?」
コレはホント。
「勇者様は平気だったのですか?」
ルチアーナが不思議そうにショータに尋ねた。
「ルクスの治癒回復魔法?…ああ、そういやなんか黒い光な魔力だったけど、見た目のそれ除けばちゃんと効いたし、他にはなんとも?」
ルチアーナはショータの言葉を聞き少し考え込む。
「それでルチアーナはなんでそんなに痛がってたんだ?酔いは覚めたのか?」
「痛いなんてもんじゃ…て、あれ?」
なんか元気そうじゃないルチアーナのヤツ。
「ね、ちゃんと効いたでしょう?さっきの痛みとやらは多分あれね、ほら好転反応とか言うじゃん?治る前に色々症状が出るとか言うやつ?」
「…適当な事言ってるようにしか聞こえません。」
なんだよコレじゃ納得できないってか?
まあアタシも良くわかってないけどさ。
「それに痛みは効いてる証拠ってヤツじゃない?」
とアタシが言うと
「消毒薬かよ!」
とショータが言った。
…てか、ショードクヤクって何?
ともかくルチアーナの酔いはアタシの魔法で覚めたようだし、ショータも段々気分が良くなって来たのか元気を取り戻した。
ルチアーナは勇者を治して好感度上げようとでも思ってたようだから残念そうだけど、ショータは勇者なんだから早くシャンとしてもらわないとね!
それからルチアーナは他のみんなの二日酔いを治癒回復魔法でちゃんと治した。
「おおっ、とても清々しい!サンキュ、ルチア。」
「吐き気がとても楽になったわ、ありがとうルチア♪」
「へええ〜、凄いにゃ〜!流石は聖職者だね♪」
エボリュー、アローネ、ミカが口々にルチアーナに礼をのべた。
ていうかみんな?それアタシがルチアーナを治したおかげだからね?
するとガルドが二日酔いが治ったばかりのみんなに「迎え酒だ!」とニコニコしながら酒樽とジョッキを担いで来た。
「アホっ!」
ガツン!
ガルドはショータに思いきりド突かれ顔面が酒樽に突っ込んだ。
お望み通り好きなだけ迎え酒を飲めたんだからガルドも本望だろう。
そしてルチアーナはドヤ顔でコッチ見ながらアタシにこう言った。
「やはり私の神聖魔法ですね、誰も痛みや苦しみ無く皆さんの二日酔いが治りました、オホホホ♪」
「自分の酔いはアタシに治してもらったクセに。」
「ハイハイ、その説は感謝いましておりますわ」
「【闇魔法】使いさん。」
「なんで【闇魔法】って強調するかな?ちゃんと四元素魔法だって使えるんだかんね!」
「なら私がダメージ負った時に痛み苦しみを伴わない治癒回復魔法をかけて下さいな?これからダメージ負うたびアナタの痛みを伴う治癒回復魔法浴びせられると思うとたまったもんじゃありません!」
「だからワザとじゃないってば!」
「ワザとじゃないなら余計タチが悪いです!」
「ああ…なんでここの勇者パーティーにはこのカラス女以外に私を治癒回復出来る魔法使いがいないのかしら?」
ルチアーナが大袈裟な芝居みたいにワザとよろめいた。
あーつくづく嫌味な女だね。
アタシもムカついたから言い返す。
「気に入らなけりゃ他のパーティー入れば?」
するとショータが場を収めるように言った。
「よせよルクス、彼女自身には何も問題無いんだ、ルクスの魔法がたまたま彼女と相性悪いだけなんだよきっと。」
相性悪いのは確かに認めるけどね、色んな意味で!
「何にせよ今のうちにパーティーの問題点がわかったんだから良い方に捉えよう?魔法で補えないなら他の方法で対処すればいいだけだ。」
「…ということでルチアーナ、キミは他のみんなより治癒回復ポーションを多めに持つといい、今はこれが一番現実的だと思うけどどうかな?」
「…面白くありませんけど暫くそれで対処するしかありませんね。」
「早く私を苦しめないような治癒回復魔法を編み出してくださいな、頼みましたからねカラスさん!」
「ルクスって呼べよ、魔法使いさんより酷くなってるじゃない聖職者!」
「やれやれ…まあ喧嘩する程仲が良いって言うしな?」
ショータは苦笑しながら言った。
「「仲良しじゃ無いし!」」
アタシの声にルチアーナの声が重なった。
不本意だ!
というわけで今回もアタシは少し嫌味な聖職者からめっちゃ嫌味な言い方されたからついつい言い返した。
コッチだってそんなつもりじゃなかったんだけどねえ。
まあルチアーナが痛がってギャーギャー騒いでたのは愉快だったけど(笑)。
にしてもあのコなんであんなにアタシの治癒回復魔法をあんなに痛がってたんだろ?
ショータは平気だったのも気になるな。
この時はまだアタシはルチアーナが得意体質なんだろう、慣れればそのうち痛がったりしなくなるんじゃない?なんて呑気に考えてた。
次回、痛みを伴う回復…後編へ続く
何と歓迎会で酒を飲まなかったルクス以外全員(ガルドを除く)二日酔い!
しかもこれで聖職者ルチアーナは自分で自分を回復出来ないポンコツが判明!
しかしルクスのかけた治癒回復魔法にルチアーナは激しく悶絶…何故に?
ラストのルクスの言い方も何か含みありそうな…。
大丈夫なのか、この勇者パーティー?




