第9話 開戦の理由
ひまりがログアウトしたあと。
BEWのDiscordサーバー、その幹部専用チャンネルには、まだ四人が残っていた。
団長グラディオ。
副長ルシエル。
ミスティア。
そして、スカーレット。
さっきまで笑い声の混じっていた空気は、もう少しだけ硬くなっている。
ミスティア『で、団長。ナハトさんと、今後どうするか話はしたの?』
最初に切り出したのは、ミスティアだった。
グラディオは、少し間を置いて答えた。
グラディオ『今回の戦争は、シルヴィスの独断だ』
低い声。
だが、その声音に苛立ちはない。
グラディオ『ただ、ここしばらく大きな戦争は起きていなかった。PK界隈はどこもまったりしすぎて、退屈した連中がゲームから離れ始めてる』
ミスティア『まーね。たしかに暇だったよね』
ミスティアが軽く笑う。
ミスティア『俺やルシさんは、PKだけじゃなくて、ウォーフロントやスカーミッシュもやってるから、そこまで暇ってこともないけどさ。PKだけやってる連中は、ひまだったよね』
グラディオ『それもあって、状況的にはよかったのではないか、というのが俺とナハトの見解だ』
ルシエル『……よかった、ですか』
ルシエルが小さく言った。
責めるというより、確認するような声だった。
グラディオ『ああ。界隈に火が入ったのは事実だ』
一拍。
グラディオ『とはいえ、同盟を一方的に破棄して、不意打ちで開戦するやり方は問題がありすぎる。落としどころに困ってる』
ミスティア『こっちも、向こうの装備ルートしたしね』
グラディオ『お互いPKだ。あれは相応の報いだろう』
即答だった。
グラディオ『ルシの《ガーディアン・エンジェル》はともかく、お前のアンブロ消費だけで、ルート品を換算しても赤字だ』
ミスティア『そこ言う?』
ミスティアが呆れたように笑った。
ミスティア『団長さあ。正直に言いなよ』
声の調子が、少しだけ変わる。
ミスティア『今日来てたDaybreakの精鋭って、あれ、ほとんどシルヴィスの関係者だよね? ナハトさんは聞いてなかったみたいだけど、今日の戦争、Day側はやる気満々で来てたんじゃない?』
少しの沈黙。
ミスティア『あれ、マジでひまりちゃん落としに来てたよね?』
グラディオ『ミス』
グラディオの声が低くなる。
グラディオ『お前、誰かから何か聞いたのか?』
ミスティア『スカーミッシュのランカーつながりで、Day側の人間とも話すからね』
ミスティアは、あっさりと言った。
ミスティア『シルヴィスって、団長の彼女気取りで、団長から冷たくされてるから助けてって、あちこちに言って回ってるらしいじゃん』
ルシエルが、わずかに息を呑む。
ミスティア『っていうか、俺にもそのwhis来たし』
スカーレット『……来たのか』
ミスティア『来たよ。めんどくさいから流したけど』
軽い口調だった。
だが、言っている内容は軽くない。
ミスティア『今日の開戦理由って、Day側の言い分だとさ』
一拍。
ミスティア『シルヴィスという彼女がいながら、他の女をギルドに入れて囲ってる悪い男グラディオを誅殺する、って話なんじゃ?』
チャンネルが、しんと静まった。
グラディオは、しばらく黙っていた。
それから、短く言った。
グラディオ『わかってるなら、隠す理由もないな』
ミスティア『団長、だから怒ってルートまでしたんだよね?』
グラディオ『ああ』
即答だった。
その一言で、ルシエルが静かに息を吐く。
ルシエル『……なるほど』
スカーレット『足りない』
スカーレットが、低く呟いた。
スカーレット『もっと剥いでよかった』
ミスティア『スカちゃん、物騒』
スカーレット『事実だ』
グラディオ『やりすぎると、今度はこちらが話をまとめられなくなる』
スカーレット『まとめる必要がある?』
グラディオ『ある』
グラディオは短く言った。
グラディオ『戦争を続けるにしても、終わらせるにしても、筋は通す必要がある』
ミスティア『これさー、落としどころってあんの? 俺、ちょっと考えられないけどな』
グラディオ『それはマジで俺も知りたい』
珍しく、グラディオの声に疲れがにじんだ。
グラディオ『一応、今回の戦争は明後日までの期限付きにした。明後日の晩、シルヴィスとナハトとオフで会うことになってる』
ルシエルが、すぐに反応した。
ルシエル『リアルで、ですか』
グラディオ『ああ』
一拍置いて、グラディオが続ける。
グラディオ『ルシ。悪いが、時間を都合してほしい』
ルシエル『いいですよ』
ルシエルは、静かに答えた。
ルシエル『シルヴィス嬢は、俺は苦手ですけどね』
その声は穏やかだった。
けれど、普段より少しだけ冷たかった。




