第8話 Discord 幹部専用ボイスチャンネル
配信を終えたひまりは、BEWのDiscordサーバー、その幹部専用ボイスチャンネルに呼ばれた。
「こんばんはー。あー、えっと……戦争、おつかれさまでした?」
なんとも言えない挨拶になってしまい、ひまりは自分で苦笑する。
幹部チャンネルには、団長のグラディオ、副長のルシエル、ほか、スカーレットとミスティアがいた。
何と言っていいかわからないひまりに、ルシエルが優しく声をかける。
ルシエル『ごめんね、ひまちゃん。ただのギルドハントになるはずだったんだけど、まさかの戦争になっちゃって。こわかった?』
「ええと……何が起きてるか、ぜんぜんわかりませんでした」
ひまりが正直に言うと、ルシエルが苦笑した。
ルシエル『そっか……ほんとごめん。団長がさっき、お詫びの品をリング配送で送ったから、受け取ってね』
「え? いえ、そんな」
ひまりは慌てて首を振る。
「配信は、すごく盛り上がりましたし。ありえないくらいの同時接続数で、チャンネル登録者も今日だけで三百人増えましたから、お礼どころか、こちらからお礼しないといけないくらいです」
ルシエル『配信は成功したんだね。よかった』
ルシエルの声が明るくなる。
ルシエル『コメント欄が荒れたりしなかった?』
「荒れるなんて、ぜんぜん。常連の視聴者さんたちが、いろいろ解説してくれてました。ルシエルさん、褒めたたえられてましたよ」
ルシエル『うわあ、それはちょっと恥ずかしいかな』
ルシエルが照れたように笑ったところで、ミスティアが口を挟む。
ミスティア『団長、なんで黙ってるの? もしかして、Daybreakと裏で話してたりする?』
グラディオが、少し間を置いて答える。
グラディオ『……ミス。勘がいいな。いま終わった』
その一言で、空気が変わった。
グラディオ『シルヴィスはヒステリーで話にならんらしい。副長のナハトがなんとかまとめてるが、装備品をごっそりルートされて、やる気なくしたのが多数。で、こっちに泣きを入れてきた』
ミスティア『あーね』
ミスティアが納得したように笑う。
ミスティア『ルート品返してほしいとか言ってきてんの?』
グラディオ『今回はなあ』
グラディオの声が少し低くなる。
グラディオ『嫌な予感はしてたけど、まっすぐひまりを殴ってきてたからな』
ミスティア『あれね、やっぱり今回の開戦の原因は女の嫉妬ってこと?』
ミスティアが、面白そうに言う。
グラディオ『どうだかな』
グラディオは少しだけ考えるように言った。
グラディオ『ナハトとリアルで付き合ってるはずだし、ひまりに八つ当たりするのは、的外れな気がするんだが』
ミスティア『ナハトさんって、もともとうちの団員だったんだよね?』
グラディオ『ああ。シルヴィスと付き合うってことで、うちから移籍した』
ミスティア『ふぅん?』
ミスティアが意味ありげに笑う。
ミスティア『それだけじゃなさそうだけどねえ』
グラディオ『ミス』
グラディオが短く制す。
ミスティア『はいはい。ひまちゃんに聞かせるような話じゃないね』
ひまりは、なんとなく聞いてはいけない空気を感じて、黙った。
するとグラディオが、少しだけ声の調子を戻した。
グラディオ『ひまちゃん、アイテム受け取ってくれた?』
「え、あ、はい……」
ひまりはアイテム欄を見て、目を丸くした。
「えー……あの、このハンマー、すごすぎるんですけど」
ルシエル『どれ?』
「なんですか、このエンチャント成功率120%UPって。こんなの初めて見ましたけど」
グラディオ『あー、それ』
グラディオが少し笑ったようだった。
グラディオ『表示ミスらしいんだよね。仕様だと六十%以上にならないはずだから、表示120%になってても、実質六十%だと思うけど、おもしろいなと思って、とってあったんだ』
「そんなこともあるんですね。おもしろいなあ。でも、六十%もすごいと思います」
グラディオ『エンチャントは運だからね。それは、どっちかっていうと縁起担ぎみたいなものかな』
「うーん……」
ひまりは困ったように言う。
「これ、高そうなんですけど……もらってもいいんですか?」
グラディオ『うん。ひまちゃん、入団記念も兼ねて』
一拍おいて、グラディオが続けた。
グラディオ『それで、俺の装備のエンチャント頼む』
ミスティア『あー、抜け駆けだ!』
ミスティアがすぐに騒ぐ。
ミスティア『ひまちゃん、俺の装備も頼むよ』
スカーレット『……俺のも』
スカーレットがぼそっと言う。
ルシエル『ひまちゃん、運よさそうだから、俺も頼もうかな』
ルシエルまで笑いながら言い出して、ひまりは思わず吹き出した。
「ええっ!? そんなにですか!?」
戦争のあととは思えないほど、チャンネルには笑い声が響いていた。




