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第6話 ギルド・ウォー

 開戦通知が流れた瞬間、戦場の空気が変わった。


 さっきまで共同で狩りをしていた相手は、もう同盟ではない。


 敵だ。


グラディオ『ルシ、そのままシルを拘束しておけ』


 グラディオの低い声が、BEWのボイスチャンネルに響く。


ルシエル『了解!』


 ルシエルが、ひまりの前で剣を構えたまま返事をする。


 白金の翼が大きく広がっていた。


 《ガーディアン・エンジェル》。


 ルシエルの持つ、鯖に一本しかない奇跡のナイト専用武器。


 専用スキル《守護者の盾》。


 その追加効果――《セラフィックウィング》。


 周囲の味方に、防御上昇、CC無効、ファストキャスト、ファストリキャストを付与する。


 さらに、神エンチャントの効果で、ルシエル自身はほぼ物理無効。


 戦場の中心で、完全な壁になっていた。


 グラディオは、その効果時間を頭の中で数えていた。


グラディオ『第2アライアンス。セラフィックの効果中に敵前衛へCCを入れろ』


 各所で拘束魔法が飛ぶ。


 その時、グラディオが鋭く言った。


グラディオ『第2アラ、ターゲット3担当、位置がずれてる。目視でタゲるな、マクロを使え』


 返事はなかった。


 けれど、一瞬遅れて、拘束魔法の軌道が修正される。


 重なり合うCCの円が、敵前衛を綺麗に包み込んだ。


グラディオ『スカ』


スカーレット『……いる』


 低い声が返る。


グラディオ『敵後衛を黙らせろ。詠唱職から落とせ』


スカーレット『了解』


 スカーレットの姿が消えた。


 スタンを入れる。


 硬直のあいだに、攻撃スキルを叩き込む。


 相手の詠唱が戻る前に、沈黙を重ねる。


 スカーレットの後衛落としは、その数拍をコンマ秒単位で詰めて組まれていた。


 だが、その日の戦場は重かった。


 ルシエルの《セラフィックウィング》が白金の羽を散らし、戦場全体にエフェクトを撒き散らしている。


 そこへ、後方でミスティアが詠唱準備を始めた。


 魔法陣が重なり、ログが遅れて流れる。


スカーレット『……重い』


 スタンは入った。


 けれど、次の攻撃が遅れた。


 ほんの一拍。


 普通の狩りなら、誤差にもならない遅れ。


 けれど、対人の後衛落としでは、その一拍で相手が動く。


【Battle】スカーレットの《シャドウバインド》。

【Battle】Daybreak_Mage01はスタンしました。


 続くはずの刃が、硬直の終わりにかすった。


スカーレット『ミス、エフェクト切れ』


ミスティア『無理。まだ撃ってない』


スカーレット『すでに邪魔』


ミスティア『知るか。そっちも仕事して』


 スカーレットは舌打ちした。


 マクロを切る。


 次からは、手動だった。


 スタンの着弾を見てから、攻撃を一呼吸遅らせる。


 沈黙を先に入れる。


 逃げスキルを吐かせてから、背後へ回る。


 予定していた順番ではない。


 だが、落とせれば同じだ。


【Battle】スカーレットの《サイレントエッジ》。

【Battle】Daybreak_Mage01は沈黙しました。

【Battle】スカーレットの《バックスタブ》。

【Battle】Daybreak_Mage01は死亡しました。


グラディオ『スカ、マーカー4。ヒーラー』


スカーレット『見えてる』


 短い返事。


 その声は、いつもより少し低かった。


【Battle】スカーレットの《シャドウステップ》。

【Battle】Daybreak_Healer02は死亡しました。


グラディオ『ミス』


ミスティア『はいはい』


 軽い返事。


グラディオ『アンブロシア。チェインメテオ』


 一瞬、ミスティアが黙った。


ミスティア『……そこまでやる?』


グラディオ『やれ』


 グラディオの声は冷たい。


グラディオ『精鋭が固まってる。ここで折る』


ミスティア『スカちゃん巻き込むよ?』


グラディオ『避ける』


ミスティア『信用が雑だねえ』


 ミスティアが、くすっと笑った。


 アイテム欄を開く。


 《アンブロシア》。


 決戦用の超希少アイテム。


 MP超回復。


 詠唱速度上昇。


 リキャスト短縮。


 普通なら、戦争で使うことすら惜しい品だ。


 ごくり。


ミスティア『……っは』


 喉を鳴らす。


 ごくり。


 もう一本。


ミスティア『やば』


 さらに飲む。


ミスティア『これ、やばい』


 その瞬間、ルシエルが前方で剣を振り上げた。


ルシエル『ガーディアン・エンジェル――セラフィックウィング!』


 白い羽のような光が、ミスティアを包み込む。


 アンブロシア。


 セラフィックウィング。


 二重の加速。


 本来なら五秒かかる《チェインメテオ》の詠唱が――消えた。


ミスティア『――チェインメテオ』


 空が割れた。


 赤黒い巨大な隕石が、敵後衛へ降り注ぐ。


 一撃目。


 焼き払う。


 二撃目。


 抉る。


 三撃目。


 蒸発。


 だが終わらない。


ミスティア『――チェインメテオ』


 再び。


 空が裂ける。


ミスティア『――チェインメテオ』


 さらに。


 三連鎖の隕石が、間を置かずに降り続ける。


 戦場が赤く染まった。


 その分、スカーレットの画面はさらにひどいことになっていた。


 隕石の着弾で視界が赤く潰れる。


 ダメージログが滝のように流れる。


 ターゲットマクロは、今度こそ完全に噛み合わない。


スカーレット『……ミス』


ミスティア『なに?』


スカーレット『後で覚えてろ』


ミスティア『味方に言うなよ』


 それでも、スカーレットは止まらなかった。


 詠唱バーの伸びている敵を、ログではなく目で探す。


 名前が読めないなら、立ち位置で読む。


 着弾が遅れるなら、先に沈黙を刺す。


 予定していたマクロが崩れても、手動で拾い直す。


【Battle】スカーレットの《サイレントエッジ》。

【Battle】Daybreak_Priest03は沈黙しました。

【Battle】ミスティアの《チェインメテオ》。

【Battle】Daybreak後衛部隊に大ダメージ。

【Battle】Daybreak_Priest03は死亡しました。


ミスティア『っはは……!』


 ミスティアが笑う。


ミスティア『脳汁出るよ、これ……!』


 《Daybreak》の精鋭後衛が、まとめて消えていく。


 魔導士。


 回復役。


 支援役。


 戦場を支える要が、一瞬で蒸発した。


グラディオ『……前へ出る』


 グラディオが、槍を構える。


 黒槍を携え、混乱する敵陣へ突っ込んだ。


 白銀の軍装が振り返る。


 シルヴィスだ。


シルヴィス『っ……!』


 だが遅い。


 黒槍が、その胸を貫いた。


【Battle】Sylvis was defeated by Gladio.


 一瞬、戦場が静まる。


グラディオ『……ルートしろ』


 グラディオの声が響いた。


グラディオ『戦利品確保。終わったら撤退だ』


 BEWの団員たちが、一斉に動く。


 倒れた敵の死体は、すぐには消えない。


 このゲームでは、死体から装備やアイテムを奪うことができる。


 倒して終わりではない。


 奪いきるまでが、PKだ。


グラディオ『撤退準備』


 グラディオが最後に言った。


グラディオ『ひまりを連れて戻る』


 戦争は、わずか数分で終わった。


 だが、その数分で。


 《Daybreak》の心は、折れていた。


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