第4話 共同ギルドハント
《Blood Ring Online》には、公式に用意されたインスタンス型の対人コンテンツがある。
大人数で陣営に分かれて戦う《ウォーフロント》。
少人数で短時間の勝敗を競う《スカーミッシュ》。
どちらもマッチングで参加でき、ルールも報酬もはっきりしている。対人戦に興味を持ったプレイヤーの多くは、まずそこで遊ぶ。中には、そこだけで満足する者も多い。
けれど、PKフィールドは違う。
そこには、マッチングも終了時間もない。
狩りの途中でも、素材を拾っている途中でも、相手がその気になれば襲われる。
相手が戦いたいかどうかは関係ない。
戦う覚悟があるかどうかも、関係ない。
それでも人は、PKフィールドへ行く。
高ランク装備の素材。
高ランクエンチャント素材。
そして、生産スキルを極めるために必要な、最終素材。
危険な場所ほど、いいものが落ちる。
BROは、そういうゲームだった。
だから、上位PKギルド同士が共同で狩りを行うこともある。
ただの狩りではない。
盾役、火力、支援、回復、妨害役をそろえ、素材の分配先まで決めてから出る、戦争ギルドのための狩りだ。
高ランク装備を維持するには、強い敵を倒すだけでは足りない。
素材を集め、スクロールを貼り、燃えた装備の穴を埋め続ける必要がある。
だから、戦争ギルドは狩りにも本気になる。
その日。
《黒き終焉の翼》――BEWは、六人パーティを三つ接続した、一アライアンス。
十八人。
対する《Daybreak》は、二アライアンス。
三十六人。
合わせて五十四人規模の、大規模ギルドハントだった。
ひまりは、それを初めて見る。
ルシエル『ひまちゃん、今日のギルドハント参加してもらえないかな?』
Discordで声をかけてきたのは、ルシエルだった。
「私も行っていいんですか?」
思わず聞き返す。
ルシエル『うん』
ルシエルは、少し申し訳なさそうに笑った。
ルシエル『危ない場所の狩りに連れ出して、ごめんね』
「え?」
ルシエル『うちと同盟関係のDaybreakのメンバーが、ひまちゃんのこと興味あるみたいでさ』
「ええっ」
ルシエル『ほら、匿名掲示板とかで話題になったし』
ひまりが小さく固まる。
ルシエル『なんなら配信してもいいよ』
「えっ!?」
ルシエル『ひたすらMOB狩りしてるだけだから、つまらないと思うけど』
ルシエルが笑う。
ルシエル『でも見たことない人、多いだろうし。視聴者受けはするかも』
その言葉に、ひまりの目が輝いた。
確かに、自分も見たことがない。
なら、視聴者もきっと――。
「わあ、ありがとうございます!」
すぐにSNSを開く。
本日臨時配信!
PKフィールド大規模狩り見学いきます!
投稿して数秒で、通知が鳴り始めた。
《リプライ》
:え!?
:見る!
:まじ!?
:やば
リプライが一気につく。
そのやり取りを聞いていたスカーレットが、ぽつりと言った。
スカーレット『……俺も行く』
ルシエル『え?』
ルシエルが聞き返す。
ルシエル『スカーレット、お前ギルドハントだるいって、いつも嫌がってただろ』
スカーレット『……行く』
一拍。
スカーレット『枠くれよ』
ルシエル『いや直前でそれは無理』
ルシエルが困った声を出した、その時。
グラディオ『ルシ』
低い声が入る。
グラディオだった。
グラディオ『第3パーティでいい。スカを入れてくれ』
ルシエル『グラさんまで無茶言う……』
グラディオ『頼む』
短い。
だが、断りにくい。
ルシエル『……仕方ないなぁ』
ルシエルがため息をつく。
ルシエル『第3パーティの誰かに交代頼んでみるよ』
スカーレット『……』
ルシエル『うちのメンバーも、ひまちゃんと狩り行くの楽しみにしてるし、もしかしたらもう一アラ増えるかも』
グラディオ『それでいい』
グラディオが即答する。
グラディオ『人数多いほうがいいかもしれない』
空気が少し変わった。
ルシエル『……グラ?』
グラディオ『全員、荷物軽めで来るだろうが』
一拍。
グラディオ『今日は、念のため臨戦態勢で来るよう伝えてくれ』
ルシエルの声が少し低くなる。
ルシエル『……ひまちゃん見物に、他のPKギルドが来るかもってこと?』
グラディオ『何もなければ、それでいい』
グラディオの声は変わらない。
グラディオ『だが、今日は準備したほうがいい気がする』
ルシエルが小さく息を吐く。
ルシエル『わかった』
ルシエル『連絡と、今オンラインのメンバーにも声かける』
ルシエル『もう一アラ編成するよ』
グラディオ『頼む』
その頃、ひまりは。
「ど、どうしよう……!」
いそいそと配信準備をしていた。
その裏で、戦争の匂いが少しずつ濃くなっていることにも気づかずに。




