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第23話 祭りだワッショイ!

【System】攻城戦を開始します。


 その文字が流れた瞬間、鉄血旅団の前衛が一斉に動いた。


 重装の盾役が前へ出る。

 その後ろに、斧と槍。

 さらに後方に弓と魔導士。


 きれいな突撃だった。


 派手ではない。

 叫びながら無秩序に走るわけでもない。


 けれど、全員が同じ場所を見ている。


 黒翼城の城門。


 そこへ向かって、鉄の塊みたいな集団が押し寄せていく。


「始まりました。鉄血旅団さん、正面から来ています」


《コメント》


:きたああああ


:正面だ


:鉄血らしい


:うわ足並み揃ってる


:城門一直線


:これぞ攻城戦


 ひまりは、観戦区画から戦場を見下ろしていた。


 ここには攻撃が当たらない。


 外の【Say】は拾える。

 戦場全体も見える。

 でも、戦闘には干渉できない。


 だから、ひまりにできることは、見えたものをそのまま伝えることだけだった。


 鉄血旅団の前衛が、黒翼城の門前に迫る。


 そのとき、城門の内側から、二人のキャラクターが出てきた。


 ひまりは、思わず画面を寄せた。


 一人は、黒い鎧を着た大柄な戦士。


 手にしているのは、太い片手斧。


 もう一人は、錆びた赤色の鎧をまとった斧戦士だった。


 どちらも、BEWのメンバーではない。


「あれ……? 城門前に、知らない方がいます」


《コメント》


:え


:誰?


:BEWじゃなくない?


:小麦畑?


:待って


:あれ黒潮じゃね?


:は?


:黒潮!?


:初代!?


 コメント欄が、一瞬で跳ねた。


 ひまりは、目を瞬かせる。


「黒潮さん……?」


 その名前には聞き覚えがあった。


 小麦畑のマスター、SHIMAN0。


 その別キャラ。


 鉄血旅団の初代マスター。


 そう、ミスティアが言っていた。


 ひまりは、画面の中の黒い戦士を見つめた。


 普段のSHIMAN0は、釣りと素材と加工の話をしている、気のいい生産ギルドのマスターだ。


 しかし、今、城門前に立っている黒潮は、まったく違って見えた。


 何もしていないのに、もう邪魔だった。


 そこに立っているだけで、鉄血旅団の正面突撃が、その人を越えない限り先へ進めないとわかる。


 その横で、赤い錆色の斧戦士が肩を回した。


【Say】赤錆:おーおー、ちゃんと走ってくるじゃねえか


【Say】黒潮:ヴォル坊にしては、悪くない


【Say】赤錆:三代目だからな。これくらいやってもらわねえと困る


《コメント》


:赤錆もいる!?


:二代目!?


:初代と二代目じゃん!


:なにこれwww


:鉄血の先代がBEW側にいるw


:小麦畑どうなってんのw


:生産ギルドとは


 ひまりは、完全に混乱した。


「えっと……黒潮さんが鉄血旅団の初代マスターで、赤錆さんが二代目マスター、で、今は小麦畑にキャラがある、ということで……合ってますか?」


《コメント》


:合ってる


:たぶん合ってる


:情報量が多い


:小麦畑の畑から戦争屋が生えてきた


:麦じゃなくて斧が生えた


:草


 城門前では、鉄血旅団の前衛が足を止めなかった。


 黒潮と赤錆が立っている。


 だからこそ、止まらなかった。


【Say】鉄血旅団員:黒潮さんだああああ!


【Say】鉄血旅団員:赤錆さんもいるぞ!


【Say】鉄血旅団員:祭りだああああ!


【Say】鉄血旅団員:うおおおお教育されに来ましたあああ!


 ひまりは、思わず笑いそうになった。


「教育されに……?」


《コメント》


:教育されに来ましたw


:現役鉄血、嬉しそうで草


:初代と二代目がいるならそりゃ祭り


:今日死んでもいいやつ


:いや死ぬやつ


:確定で死ぬやつ


 鉄血旅団の斧戦士が、黒潮へ向かって突っ込んだ。


【Say】鉄血旅団員:初代! 胸をお借りします!


【Say】黒潮:高いぞ


【Say】鉄血旅団員:払います!


 次の瞬間、黒潮の斧が横から入った。


【Battle】黒潮の《黒潮崩し》。


【Battle】鉄血旅団員に 7,842 ダメージ。


【Battle】鉄血旅団員は体勢を崩しました。


【Say】鉄血旅団員:安い!


《コメント》


:安いwww


:払ったw


:体勢崩されてるんだよなあ


:初代つよ


:これが教育か


 崩れたところに、赤錆が踏み込んだ。


 錆色の斧が、下から跳ね上がる。


【Battle】赤錆の《ジャガーノート・ブレイク》。


【Battle】鉄血旅団員に 10,216 ダメージ。


【Battle】鉄血旅団員は死亡しました。


【Say】鉄血旅団員:ありがとうございました!


《コメント》


:死んだwww


:礼儀正しいな


:ありがとうございましたじゃないんよ


:教育完了


:祭りだワッショイ!


 ひまりは、口元を押さえた。


 戦争が始まった。


 城門前では、本気の攻防が始まっている。


 鉄血旅団は城門を割りに来ているし、黒潮と赤錆は本気で止めている。


 なのに、空気がどこかおかしい。


 誰も手を抜いていない。


 ふざけているわけでもない。


 それなのに、楽しそうだった。


 鉄血の盾役が、黒潮の前へ出る。


 その背後から、槍職が突きを重ねる。


 黒潮は一歩下がって、斧の柄で盾を弾いた。


 赤錆がその隙間へ踏み込み、斧を振り下ろす。


 重い音がした。


 画面越しでもわかる、気持ちいいくらいの重撃だった。


《コメント》


:うわ


:赤錆さんの斧やば


:ジャガーノート重すぎ


:でも鉄血ちゃんと押してる


:先代二人相手に正面行くのいいな


:ヴォルフラムどこ?


「ヴォルフラムさんは……あ、後ろにいます。全体を見てる感じですね」


 黒い両手鎌を背負ったヴォルフラムは、少し後方にいた。


 自分が真っ先に突っ込むのではなく、城門前のぶつかり方を見ている。


 初代と二代目が出てきた。


 その予想外の状況でも、隊列は崩れていない。


 むしろ、鉄血旅団の動きは少しだけ熱を帯びていた。


【Guild】鉄血旅団員:初代いる!


【Guild】鉄血旅団員:二代目もいる!


【Guild】鉄血旅団員:祭りだ!


【Guild】鉄血旅団員:城門前、死に場所です!


【Guild】鉄血旅団員:死に場所じゃなくて突破口にしろ


【Guild】鉄血旅団員:はい!


 そのギルドチャットは、ひまりには見えていない。


 けれど、動きだけで何となくわかった。


 鉄血旅団は、喜んでいる。


 先代二人が城門前に立っていることを。


 その二人を越えなければ、黒翼城へ届かないことを。


 面倒だと思っていない。


 むしろ、今日の一戦が一気に特別になったように、前へ出てくる。


【Say】鉄血旅団員:いえーい! ひまりちゃん見てるー?


 突然、城門前で殴り合っていた鉄血の斧戦士が、こちらへ向かって大きく手を振った。


 ひまりは固まった。


「えっ」


 次の瞬間、その斧戦士の身体が横へ吹き飛んだ。


【Battle】赤錆の《ジャガーノート・ブレイク》。


【Battle】鉄血旅団員に 9,604 ダメージ。


【Say】鉄血旅団員:見てた!?


《コメント》


:見てたwww


:めっちゃ見てたwww


:カメラ目線で死ぬな


:赤錆さん容赦ない


:ひまりちゃん見てたぞ


:よかったなw


 ひまりは、もう笑ってしまった。


「見てましたけど……!」


 その声が配信に乗る。


《コメント》


:ひまちゃん笑ってるw


:そりゃ笑う


:これは笑う


:戦争中にファンサすな


:でもちゃんと殴ってるんだよな


:殴られてるんだよな


 別の鉄血メンバーが、黒潮に向かって突っ込んだ。


【Say】鉄血旅団員:黒潮さん! 初代の洗礼くださーい!


【Say】黒潮:並べ


【Say】鉄血旅団員:はい!


 その鉄血メンバーは、本当に一歩だけ位置を直した。


 黒潮の斧が、そこへきれいに入る。


【Battle】黒潮の《黒潮崩し》。


【Battle】鉄血旅団員に 8,011 ダメージ。


【Battle】鉄血旅団員は死亡しました。


【Say】鉄血旅団員:位置取り、勉強になりました!


《コメント》


:勉強になったwww


:死んでるw


:授業料が命


:命っていうか耐久


:これが鉄血ゼミ


:黒潮先生


 ひまりは、肩を震わせた。


「鉄血ゼミ……」


 言ってしまってから、自分でもおかしくなった。


《コメント》


:ひまちゃん拾ったw


:鉄血ゼミ開講


:第一講、死に位置


:第二講、斧は避けろ


:避けられてないんよ


 城門前では、黒潮と赤錆が並んでいた。


 その前に、鉄血旅団が押し寄せる。


 BEW本隊は、城壁と門の内側で防衛ラインを作っている。ミスティアの魔法が後方から飛び、ルシエルが城門側のラインを支え、スカーレットの姿は時々消えて、次に見えた時には鉄血の後衛が一人倒れている。


 グラディオは中央で指示を出していた。


 黒潮と赤錆は、その前に置かれた巨大な蓋みたいだった。


 城門に向かうなら、まずこの二人をどうにかしなければならない。


 鉄血旅団は、それをわかったうえで、正面から殴りに行く。


 黒潮が崩す。


 赤錆が吹き飛ばす。


 鉄血がまた詰める。


 盾が割り込む。

 槍が伸びる。

 魔法が飛ぶ。

 斧が唸る。


 画面の中は、もう完全に戦争だった。


 なのに。


【Say】鉄血旅団員:赤錆さん! ジャガーノート見せて!


【Say】赤錆:見せ物じゃねえ


【Battle】赤錆の《鉄血斧ジャガーノート》。


【Battle】鉄血旅団員に 11,842 ダメージ。


【Say】鉄血旅団員:見えた!


《コメント》


:見えたじゃないんよ


:食らってるw


:嬉しそうに死ぬな


:赤錆さんキレがよすぎる


:祭りだワッショイ!


 ひまりは、ついに耐えきれなかった。


「こ、これが戦争……?www」


《コメント》


:草


:笑うなw


:いや笑うだろ


:これが戦争です


:これがBROです


:これが古参PKギルドです


:湿度ゼロ


:火力最大


:祭りだワッショイ!


 コメント欄が、ものすごい速度で流れていく。


 ひまりはもう、全部を拾えなかった。


 城門前では、鉄血旅団が本気で攻めている。


 BEWは本気で守っている。


 黒潮と赤錆は本気で叩き潰している。


 そして鉄血メンバーは、叩き潰されながらも、なぜか嬉しそうだった。


 Daybreakの時とは、まったく違う。


 あの時は、ひまり自身がよくわからない感情の中心に置かれていた。


 今回は違う。


 ひまりは、戦場を見ている。


 戦場も、ひまりの配信を少しだけ見ている。


 けれど、戦争の中心はそこではない。


 黒翼城。


 鉄血旅団。


 BEW。


 黒潮と赤錆。


 古い戦争屋たちが、城門前で笑いながら本気で殴り合っている。


【Say】鉄血旅団員:黒潮さん! 赤錆さん! もう一回お願いします!


【Say】赤錆:うるせえ、順番に死ね!


【Say】黒潮:前に出た順だ


【Say】鉄血旅団員:了解!


《コメント》


:順番待ちwww


:死の整理券


:教育列できてる


:黒翼城前、人気アトラクション


:攻城戦とは


:祭りだワッショイ!


 ひまりは、笑いながら画面を動かした。


 鉄血旅団の後方で、ヴォルフラムがようやく一歩前へ出る。


 黒い両手鎌が、ゆっくりと手に取られた。


 城門前で暴れていた鉄血メンバーたちの動きが、少しだけ変わる。


 浮かれた空気はそのままに、隊列が締まった。


 ヴォルフラムが前に出る。


 それは、鉄血旅団の三代目が、先代二人の前に立つということだった。


【Say】ヴォルフラム:黒潮さん。赤錆さん。


 その声は、ログに残るほど短かった。


【Say】黒潮:来たか、ヴォル坊


【Say】赤錆:遅えぞ、三代目


【Say】ヴォルフラム:鉄血旅団、参ります。


 ひまりは、息をのんだ。


 さっきまでの笑い声が、少しだけ遠くなる。


 祭りの真ん中に、本物の一戦が立ち上がる。


 黒潮が斧を構えた。


 赤錆が肩に担いでいた斧を下ろした。


 ヴォルフラムが、黒い両手鎌を構える。


《コメント》


:うわ


:三代目きた


:ここでヴォルフラム


:初代二代目vs三代目


:祭りの本命きた


:これは熱い


 ひまりは、画面の中央に三人を入れた。


 黒潮。


 赤錆。


 ヴォルフラム。


 鉄血旅団の過去と今が、黒翼城の門前で向き合っている。


「ヴォルフラムさんが、前に出ました」


 自分の声が、少しだけ低くなったのがわかった。


 笑っていたコメント欄も、まだ速いままなのに、どこか空気が変わっていた。


【Say】黒潮:教育の時間だ


【Say】赤錆:泣くなよ、ひよっこ


【Say】ヴォルフラム:泣かせる側で来ました。


 その一言で、鉄血旅団の後方が沸いた。


【Say】鉄血旅団員:うおおおおお!


【Say】鉄血旅団員:三代目ええええ!


【Say】鉄血旅団員:祭りだああああ!


《コメント》


:祭りだああああ!


:ワッショイ!


:ひよっこが泣かせに来たぞ


:熱すぎる


:これ見られるの最高


:ひまちゃん配信ありがとう


 ひまりは、思わず笑った。


 まだ戦争は始まったばかりだ。


 黒翼城の門は閉じている。


 BEWは守っている。


 鉄血旅団は攻めている。


 そして城門前では、初代と二代目と三代目が、今まさにぶつかろうとしていた。


 ゲームの中の戦争。


 古いギルドの約定。


 現役と先代。


 配信とコメント欄。


 全部がごちゃごちゃになって、でも、なぜかちゃんとひとつの祭りになっている。


「……祭りだワッショイ、ですね」


《コメント》


:タイトル回収


:言ったw


:祭りだワッショイ!


:祭りだワッショイ!


:祭りだワッショイ!


【Battle】ヴォルフラムの《黒鉄鎌グリムリーパー》。


【Battle】黒潮が攻撃を受け流しました。


【Battle】赤錆の《ジャガーノート・ブレイク》。


【Battle】ヴォルフラムは後方へ跳躍しました。


 黒い鎌と、二本の斧が、城門前でぶつかった。


 コメント欄が爆発した。

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