第20話 誰の戦争か
権蔵が帰蝶の古傷を刺してから、チャンネルはしばらく止まっていた。
誰も打たなかった。
帰蝶も、紫苑も、ヴォルフラムも。
文字だけの場所なのに、間があった。
最初に動いたのは紫苑だった。
――Discord:古戦場協定・臨時チャンネル――
紫苑:話を戻します。
その一文で、先ほどの沈黙はいったん脇へ置かれた。
紫苑:BEWは強い。装備、指揮、人脈、戦場経験。現環境では突出しています。
紫苑:このままBEW一強が固定されれば、古参PKギルド側の戦争文化は先細る。
紫苑:古戦場協定として、一度正面から楔を打つべきだと考えています。
整った文章だった。
整いすぎていて、少し冷たい。
権蔵:で
権蔵:発端はシルヴィスの泣き言だろ
帰蝶の名前の横に、入力中の表示が出た。
すぐに消えた。
紫苑:発端の一つであることは否定しません。
権蔵:一つ、ね
紫苑:開戦名分としてはBEW一強への牽制で十分です。
権蔵:綺麗な言い方だな
紫苑:必要な言い方です。
権蔵は少し間を置いた。
権蔵:つまり、シルヴィスの私怨を、古戦場協定の戦争に変えるわけだ
帰蝶:権蔵さん。
権蔵:違うなら違うって言えばいい
帰蝶は返さなかった。
紫苑も黙った。
そこで、ヴォルフラムが打った。
ヴォルフラム:BEWが現環境で突出していることは事実です。古戦場協定として、一度正面から当たる筋は立つ。
淡々とした文章だった。
怒りも、熱も、同情もない。
ヴォルフラム:ただし。
ヴォルフラム:シルヴィスの嫉妬には興味ありません。
チャンネルが止まった。
短かった。
だが、その一文で、場の湿った空気が切れた。
ヴォルフラム:約定に従って、BEWと戦争します。
それだけだった。
鉄血旅団は、シルヴィスのために動くのではない。
帰蝶に頼まれたわけでも、紫苑の言葉に乗せられたわけでもない。
約定に従う。
筋が立つなら、戦場へ出る。
権蔵:いいじゃねえか
権蔵:泣き言より、よほど戦争らしい
帰蝶は何も返さなかった。
紫苑:鉄血旅団としては、どのような形で。
ヴォルフラム:鉄血旅団が先鋒として、BEW城へ攻城戦を申し入れます。一戦だけです。勝てば続ける。負ければ降ります。
三ギルドが一斉にBEWへ襲いかかる話ではなかった。
まず、鉄血が出る。
勝てばそこから先を考える。
負ければ鉄血は降りる。
それだけだった。
紫苑:承知しました。
権蔵:山賊団は様子見だ。鉄血が勝つなら、山も動くかもしれねえ
紫苑:月下繚乱は。
帰蝶の返事は少し遅れた。
帰蝶:鉄血の一戦を見ます。必要なら、その後に動きます。
紫苑が条件をまとめた。
紫苑:一、古戦場協定としてBEW一強状態への牽制を開戦名分とする。
紫苑:二、まず鉄血旅団が先鋒としてBEW城へ攻城戦を申し入れる。
紫苑:三、鉄血旅団は一戦のみ。勝てば継続を検討し、負ければ降りる。
紫苑:四、月下繚乱と山塞の山賊団は、結果を見て以後を判断する。
権蔵:わかりやすい
ヴォルフラム:異論ありません。
帰蝶:異論ありません。
決まった。
ヴォルフラムが最後に短く打った。
ヴォルフラム:では、グラディオに通達します。
臨時チャンネルは、そのまま静かになった。
次に動くのは、鉄血旅団。
標的は、Black End Wingの城だった。




