第2話 配信者ひまり
「やっほー! 今日も、まったり生産配信はじめるよー!」
明るい声と一緒に、配信画面が切り替わった。
ゲーム画面の片隅には、小さなカメラ枠。
そこに映るひまりが、ふわりと笑う。
《コメント》
:こんばんはー!
:待機してた!
:きたあああ
:今日も癒やし
配信開始前から待っていた視聴者たちのコメントが、一気に流れた。
同時接続は、すでに八十人を超えている。
このゲーム――《Blood Ring Online》で、戦闘もない、生産と雑談だけの配信でこの数字は、かなり多い。
ひまりは、この界隈では明らかに人気配信者だった。
「毎日寒いよねー」
ひまりは、手をこすりながら笑った。
「みんな、風邪とかひいてない? 私はね、夕飯に鍋焼きうどん食べて、ほかほかだよ」
《コメント》
:鍋焼きいいな
:飯テロ
:腹減った
「でしょー?」
くすくす笑う。
「みんなも、あったかくして見てね」
いつもの柔らかい空気。
いつもの、平和な配信。
そのはずだった。
《コメント》
:……ひまちゃん、ギルドタグ変わってね?
ひとつのコメントで、空気が変わる。
《コメント》
:あ
:ほんとだ
:え?
:BEWって書いてない?
ざわ、とコメント欄が揺れた。
《コメント》
:それ、BEWって……あのPKギルド?
:ひまちゃんPKになったの!?
:えっ!?
「あ」
ひまりは画面の端に視線をやって、小さく声を上げた。
「あー……バレた?」
コメント欄が一気に加速する。
《コメント》
:バレたじゃないw
:いやいやいやw
:なんで!?
ひまりは困ったように笑った。
「うん、そうだよ」
あっさり認める。
「この間の配信終わってから、ゲームでDM来てね」
《コメント》
:DM!?
:誰から!?
:まさか団長!?
「えっと……生産援護で入団してほしいって」
コメント欄が爆発した。
《コメント》
:はあ!?
:スカウト!?
:なんで!?
:ひまちゃん強くないじゃんw
「そうなの!」
ひまりも大きく頷く。
「私のスキルくらいじゃ、とてもお手伝いにはなりませんって言ったんだけど……」
《コメント》
:うんうん
「それでも、って言うから」
そこで少し、目が輝く。
「PKギルドの生産設備って、すごいって言うでしょ?」
《コメント》
:あー……
:なるほど
:それは気になる
「見物したくて、お邪魔しちゃった!」
コメント欄が流れる。
《コメント》
:ひまちゃんw
:好奇心w
:かわいいから許す
:いやでもBEWだぞ……
ひまりが眉を下げる。
「えー? だめだった?」
《コメント》
:いや……
:いやあ……
:うーん
流れが止まりかけたところで、別のコメントが流れた。
《コメント》
:でも、生産スキルの最終ってPKフィールドのレアドロ加工しないと上がらないんだよね
それで空気が変わった。
《コメント》
:あー……
:まあな
:しゃあないか
:最後そこ詰まるんだよな
ひまりが、ぱっと顔を上げる。
「そこ、わかってくれて嬉しい!」
笑顔になる。
「レア素材の加工に誘惑されたって言っても過言じゃないよ」
《コメント》
:正直でよろしい
:それはそう
「やっぱり最後までスキル上げたいじゃん?」
《コメント》
:上げたい
:上げたい
:職人の夢だもんな
「ね!」
ひまりは嬉しそうに何度も頷く。
「だから、いままで通り、時間があるときは辻生産依頼も受けるから……許して?」
《コメント》
:許す
:しゃーない
:ひまちゃんがんばれ
:BEWに食われるなよ
「食べられないよ!?」
慌てるひまりに、コメント欄が笑いで埋まった。
画面の隅で、同時接続の数字が静かに増えていく。
九十。
百。
百十。
今夜の配信は、いつもより少し騒がしくなりそうだった。




