表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/38

第10話 公式カップル疑惑

 その夜、ゲームの外では、グラディオとルシエルが《Daybreak》側との会談に向かっていた。


 シルヴィスとナハト。


 BEWとDaybreak。


 昨日から続いている戦争の落としどころを探るための、リアルでの話し合いだ。


 けれど、ゲームの中には、いつも通りの時間が流れている。


 ひまりは、採掘用のサブキャラクターでログインしていた。


 いつもの癖で、倉庫を開く。


 銀鉱石。


 黒鉄鉱石。


 月光石。


 どれも、まだ少し足りない。


「うーん。せっかくだし、ちょっとだけ掘ってこようかな」


 ひまりは何も考えず、採掘用のつるはしを持って、ギルドハウスを出た。


 目的地は、近場の鉱山エリア。


 PKフィールドではない。


 普段なら、ソロの生産職が採掘していても、特に問題のない場所だった。


 けれど、今日は違った。


 ミニマップの端に、同じギルドの反応がふたつ映る。


 赤黒い小さな点。


 《Black End Wing》のギルドメンバーだ。


「……あれ?」


 ひまりは足を止め、ギルドチャットを開いた。


【Guild】ひまり:採掘しに来ただけなんですけど、誰かついてきてますか?


 少し間があって、返事が来る。


【Guild】ミスティア:うーん、気になったらごめんね

【Guild】ミスティア:戦争中だから、ひまちゃんがギルドハウスから出るときは、護衛しろって言われてるんだよ


「ひゃー」


 ひまりは思わず声を上げた。


【Guild】ひまり:護衛ですか? ただの採掘ですよ?

【Guild】ミスティア:戦争中は、PvPフィールド以外でも攻撃できちゃうからね

【Guild】スカーレット:普通に危ないだろ


 短い文字。


 スカーレットらしい返事だった。


 ひまりは画面の前で、申し訳なさそうに肩をすくめた。


【Guild】ひまり:うわあ、すいません、そうなんですか。じゃあ、ギルドハウスに戻りますね

【Guild】ミスティア:いや、いいよ

【Guild】ミスティア:護衛なんて滅多にしないから、結構楽しいしね

【Guild】ひまり:じゃあ、あとちょっとだけ掘らせてください

【Guild】ミスティア:うんうん


 ひまりは、少しだけほっとして、鉱石の採掘ポイントに向かった。


 採掘モーションが始まる。


 かん、かん、と軽い音が響く。


 画面の外側で、スカーレットが木陰に立っているのが見えた。


 ほとんど動かない。


 けれど、あれはたぶん、周囲を見ている。


 ミスティアは少し離れた岩場に腰かけるようにして、杖を出したままチャットを返していた。


【Guild】ミスティア:こうしてる間も俺は山ほどwhisが飛んできて、対応しないといけないんで

【Guild】ミスティア:退屈はしてないから、気にしなくていいよ

【Guild】ひまり:え? なんですか? それ

【Guild】ミスティア:ひまちゃん、昨日、小麦畑のドレス配信したじゃん?

【Guild】ひまり:はい

【Guild】ミスティア:あのときのSSが、今日はめちゃくちゃバズってる


「えっ」


 ひまりは採掘の手を止めた。


【Guild】ひまり:バズってるんですか?

【Guild】ミスティア:うん

【Guild】ミスティア:問い合わせ多数

【Guild】ミスティア:特に、ひまちゃんとルシさんが並んでるやつ


 ひまりの頭に、昨日の光景がよみがえる。


 小麦畑の聖堂風ホール。


 白いドレス。


 ステンドグラスの光。


 そして、隣に立ったルシエル。


「……あれですか」


【Guild】ミスティア:あれです

【Guild】ミスティア:ルシさん、ウォーフロントっていうコンテンツで、めちゃくちゃ人気だったから

【Guild】ミスティア:ファンの女の子がいっぱいいるんだよ


 ひまりは、少し青ざめた。


【Guild】ひまり:まさか、私、恨まれてます?

【Guild】ミスティア:いや、逆かな

【Guild】ひまり:逆?

【Guild】ミスティア:二人で並んでるスクリーンショットが尊いので、いいものをありがとうってさ

【Guild】ミスティア:なんかよかったらしい


 ひまりは、画面を見つめたまま固まった。


「……いいもの」


 何がどう、いいものだったのか。


 ひまりには、よくわからない。


 ただ、コメント欄がものすごく盛り上がっていたことだけは覚えている。


 聖女と騎士。


 昨日、何度もそんな言葉が流れていた。


【Guild】スカーレット:よくないだろ


 唐突に、スカーレットの文字が流れた。


【Guild】ひまり:よくないですか?

【Guild】スカーレット:いや、そうじゃない

【Guild】ひまり:えっと……


 ひまりは困った。


 そうじゃない、の意味がわからない。


 ミスティアの方は、画面の向こうで笑っている気配がした。


【Guild】ミスティア:スカちゃんは複雑なんだよ

【Guild】スカーレット:黙れ

【Guild】ミスティア:はいはい


 かん、と採掘音が鳴る。


【System】月光石を入手しました。


「あ、出ました」


 ひまりは少しだけ嬉しくなった。


【Guild】ひまり:月光石出ました!

【Guild】ミスティア:お、よかったじゃん

【Guild】スカーレット:戻るぞ

【Guild】ひまり:はい。これで戻ります


 その時だった。


 ミニマップの端に、別の反応が映った。


 赤黒いBEWの点ではない。


 黄色い点が三つ。


 次の瞬間、その色が赤に変わる。


【Warning】Daybreak_Member01 is attacking you!!


「えっ!?」


 ひまりの採掘用キャラクターのHPが、がくんと削れた。


 採掘用の装備だ。


 戦闘用の防具など、ほとんどつけていない。


 ほんの一撃で、画面の端が赤く点滅する。


【Guild】ミスティア:ひまちゃん、動かないで


 言うより早く、紫色の防御魔法がひまりを包んだ。


 続いて、回復の光。


 スカーレットの姿が、木陰から消える。


【Guild】スカーレット:あーもう


 短い文字。


 その次の瞬間、赤黒い影がDaybreakの一人へ飛び込んだ。


【Guild】スカーレット:潰す

【Battle】スカーレットの《シャドウステップ》。

【Battle】Daybreak_Member01は沈黙しました。

【Battle】ミスティアの《アイスバインド》。

【Battle】Daybreak_Member02は移動不能になりました。


「な、なんでここにDaybreakが!?」


【Guild】ミスティア:だから戦争中だって言ったでしょ


 ミスティアの文字は、いつも通り軽かった。


 けれど、画面の中の動きはまったく軽くない。


 スカーレットが一人目の背後を取る。


 ミスティアが二人目の足を止める。


 三人目がひまりへ向かおうとした瞬間、スカーレットの短剣が進路を塞いだ。


【Battle】スカーレットの《バックスタブ》。

【Battle】Daybreak_Member01は死亡しました。

【Guild】スカーレット:採掘の邪魔するな

【Guild】ミスティア:そこ?

【Guild】スカーレット:そこだろ


 ひまりは、半分泣きそうになりながら、つるはしを握ったまま立ち尽くしていた。


 ただ月光石を掘りに来ただけだった。


 それなのに、護衛がつき、公式カップル疑惑の話を聞かされ、最後にはDaybreakに襲われている。


【Guild】ひまり:あの、ほんとにすみません……

【Guild】ミスティア:ひまちゃんは悪くないよ

【Guild】ミスティア:悪いのは、採掘場まで来るDaybreak

【Guild】スカーレット:あとルシエル

【Guild】ひまり:ルシエルさんは関係ないのでは?

【Guild】スカーレット:ある

【Guild】ミスティア:あるらしい


 ひまりは、やっぱり意味がわからなかった。


 その間にも、戦闘ログは淡々と流れていく。


【Battle】ミスティアの《ライトニングジャベリン》。

【Battle】Daybreak_Member02は死亡しました。

【Battle】スカーレットの《サイレントエッジ》。

【Battle】Daybreak_Member03は沈黙しました。

【Battle】Daybreak_Member03は逃走しました。


 数十秒後。


 採掘場は、また静かになった。


 かん、かん、と遠くのNPC作業音だけが響いている。


【Guild】ミスティア:うん、撤収しよっか

【Guild】ひまり:はい……

【Guild】スカーレット:次から採掘も申告しろ

【Guild】ひまり:はい。気をつけます


 ひまりは、採掘用キャラクターをゆっくりとギルドハウスへ戻した。


 その手元には、月光石がひとつ。


 今日の収穫としては、たぶん悪くない。


 けれど、失った平穏のほうが、少しだけ大きい気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ